今回の記事の内容は執筆時点のものであり、数年後には状況が変化している可能性があります。最新の情報は「東京タヌキ探検隊!」をご覧ください。 |
東京都23区内にタヌキがたくさんいる、ということは多くの人の関心をひくようです。それはつまりマスコミの関心もひくことになります。東京都23区内のタヌキについてはこれまでもマスコミで紹介されてきました。特に、映像を媒体とするテレビにとっては格好の題材とも言えます。しかしながら、それほど頻繁にマスコミに登場しているわけではありません。
実は、取材の申し込みがありながらも、検討の結果、取材見送りになったケースがあるのです。その数は放映までこぎつけた回数と同じぐらい、と言っておきましょうか。
なぜ取材がうまく行かないのかというと、タヌキの撮影が簡単にできるもの、と番組制作側が誤解していることにあるようです。ということで、今回はマスコミ(主にテレビ)向けに、タヌキ撮影がいかに難しいかを説明しましょう。
・タヌキが現われる場所・時刻を特定するのは難しい
マスコミの方々は、私たちが東京タヌキの行動を完全に把握していると思いがちですが、それは間違いです。その理由は、慎重な性格のタヌキはめったに人間の目に触れないからです。また、都市住宅街では私有地内を縦横にすり抜けていくため追跡は困難です。それに、立ち入り禁止の場所にいることも多く、とにかく完全に追跡することは不可能なのです。
タヌキの慎重な性格は、接近することさえ難しくしています。数m以内で観察できることはまれで、数十m離れていても警戒されることがあるほどです(夜間に数十mも離れるとまともな観察はできません)。
実は、タヌキの生活場所を数百mの範囲に絞り込むことは難しくありません。これまでに収集した目撃情報などから、そのような場所は何ヶ所でも挙げることができます。ところが、それより細かく場所を特定するのは上に書いたような理由から途端に難しくなってしまうのです。
撮影をするのなら必ずタヌキが現われる場所を特定しなければなりません。タヌキの移動ルートを、例えばためフンや獣道などから特定できたとしましょう。しかし、そこに今日も必ず来るとは保証できません。ここでもタヌキの慎重な性格が問題になります。いつもと何か違う気配を感じると、その場所には現われない可能性が高いのです。人間がビデオカメラをかついで待っているとタヌキは確実にわかりますので現われることはないでしょう。
・ねぐらや行動パターンが一定しない
タヌキの移動ルートがわかっても必ず撮影できるとは限らない別の理由として、行動パターンが一定しないからということがあります。
まず、タヌキのねぐらは1ヶ所とは限りません。そして、食べるものは季節によって変化するため、それにあわせて移動ルートも変化すると考えられます。つまり、古い目撃情報では最近の行動パターンを知ることはできないのです。
よって、撮影をするならば最近の行動パターンを調べることから始めなければなりません。
・明るいところにはほとんど現われない
そもそもタヌキは夜行性であることを思い出してください。明るい場所での撮影はまずありえないと考えてください。そして、慎重な性格。ほとんど明かりの無いような場所にしか現われないことも普通です。
カメラマンはここで強い照明を準備しようと考えるかもしれませんが、そんなことをしたら警戒されてまず現われません。よって、暗闇の中で撮影をせざるをえなくなります。こうなると超高感度ビデオカメラは必須になるのです。
それでもタヌキは人の気配を感じると出てこないものです。テレビの撮影ではディレクター、カメラマン、音声の3人セットというのが普通です。さらに私も立ち会うと4人になるわけですが、これは明らかに多すぎです。いちばんいいのは無人カメラを設置することになるでしょう。
とまあ、このようにタヌキ撮影には問題がいろいろあって簡単に撮影はできないのです。本当は私たちも徹底的な調査を行わなければならないのですが、そこまで手が回らないのが現状なのです。
それから、テレビ局というのは妙にスケジュールが忙しい、ということも問題です(特に民放!)。いきなり電話してきて「来週ロケをしま〜す」と言われても、まず対応不可能なのですよ(テレビ局側が既に撮影可能な場所をおさえてある場合は別ですが)。
ではどうすればいいのか。
腰を据えて、数ヶ月がかりでロケをする覚悟をしてください。というのが結論です。とにかく、タヌキの行動を確認するための事前の調査が必要です。毎日ロケをする必要はありません。しかし準備にはとにかく時間がかかるのです。それだけの手間をかけられるだけの時間と予算があるのか、ということをまず最初に考えるべきでしょう。
とにかく、お願いだから企画書を書く前に相談してください。見当はずれな企画を唐突に持ってこられても時間と手間の無駄になるだけです。
時間と手間と予算が確保できるのなら、私たちも十分にプランを練って取材に協力したいと思います。取材は大変そうに思えるでしょうが、こちらには経験も秘策もあります(その詳細はここでは公開できませんので、打ち合わせの時に)。独力で撮影ができるほどタヌキは甘い相手ではありません。
タヌキの撮影が難しいという上記の理由は、「タヌキ観察会」が難しい理由でもあります。現れるかどうかも定かではないだけでなく、観客が多すぎてもダメ。これでは観察会が成り立たないのです(しかも夜の観察会は参加しづらい)。世間に東京タヌキのことを知らしめるには、やはりテレビなどのメディアの力は欠かせません。
もうひとつ言わねばならないことがあります。それは、私(宮本)と佐々木洋氏は常に別行動をしているということです。2人ともNPO都市動物研究会のメンバーなので、いつも行動を共にし、情報を共有していると思われてしまうようですが、実際はその逆で、ほとんど顔を合わせません。多分、年に10回ぐらいしか会わないんじゃないかな。ですから、両名に用件がある場合は個別に連絡をとるようにしてください。
テレビ画面上で両名が同時に登場することがないのはこういう理由があるからなのです。
さらにもうひとつ。実際にタヌキの撮影ができたとしても、放映時には撮影場所が特定できないようにすること、地名を公表しないこと、といった条件をつけなければならないことがあります。これは観光地化を防ぐためです。住宅街に見物人が押しかけることは避けなければなりません。それは住民にも迷惑ですし、タヌキの生活にも悪影響です(最悪の場合は子育て途中に巣を放棄するかもしれません)。ただ、これも現地の状況次第のことですので、絶対の条件ではありません(これも詳細は打ち合わせで)。