いきもの通信 Vol.375[今日の事件]クマゼミが光ケーブルを断線?! 

Vol. 375(2007/9/2)

[今日の事件]クマゼミが光ケーブルを断線?!

クマゼミが光ファイバーケーブルに産卵して、ケーブルを断線する、というニュースがこの夏ありました。関西の方では8月上旬には報道されたようですが、朝日新聞の場合、東京版での掲載は8月20日の夕刊でした。
東日本での報道が遅れがちだったのは、これが西日本のローカルニュースだったからです。クマゼミは東海以西に生息するセミで、関東以北ではなじみがないセミです。東日本人にはクマゼミといっても実感がわかないのはしかたありません。逆に、西日本人にとってはクマゼミこそ夏の王様です。私も福岡で生まれ育ちましたので、クマゼミの鳴き声と共に育ったようなものです。やはりクマゼミの鳴き声こそが「夏だっ!」という気分を盛り上げてくれるのです。それに比べると東京の夏なんていまいち盛り上がりませんよね…(笑)。この気分が理解できない方は、夏の盛りに大阪でも福岡でも行ってみることをぜひぜひお勧めしたいものです。山の方に行く必要はありません。普通に住宅街で、商業地区で鳴いていますから体験は簡単です。なお、よく鳴くのは午前中です。そういえば朝っぱらからうるさく鳴くクマゼミが夏休みの目覚まし時計だったような記憶も…(笑)。
クマゼミで忘れてはならないのは、日本最大のセミであるということです。よく見るアブラゼミよりも一回り大きいです。当然、幼虫も抜け殻も大きいサイズになります。抜け殻の形はアブラゼミのものと似ていますが、明らかに大きいので判別は簡単です。東日本の人はクマゼミを見たことがない人がほとんどですので、クマゼミの抜け殻をおみやげに持って帰ると面白いのではないでしょうか。驚かれること間違いなしです。セミの抜け殻は、セミがよく鳴いている木の幹や葉の裏を探せば見つかります。種類によって見つかる場所が違ってくるのですが、その話は長くなりますので省略。クマゼミの場合は、サクラが好みのように思えます(もちろん他の樹種にもいます)。また、そう高いところまでは登りません。たいてい手の届くところにありますので抜け殻採集も難しくはありません。

クマゼミの分布は東海以西と書きましたが、現在では関東の一部(南関東)でも鳴き声を聞くことができます。私も先日、東京都江東区某所で聞きました。ただし、23区内でもクマゼミの声が聞こえることはまだまれなことで、生息が急激に広がっているとか、大増殖しているという状態ではありません。これは十何年も東京で暮らしてきた私の実感です。
クマゼミが関東に進出してきた理由として、温暖化のせいだと言われることがありますが、それを具体的に示す証拠は無さそうです。むしろ私は、植物といっしょに運ばれてきたのではないかと考えています。セミの幼虫は樹木の根にしがみついて樹液を吸っています。木の根っこに何十、何百のセミの幼虫がしがみついているのです(何年分もの幼虫がいるのでかなりの数になります)。例えば、関西で育てていた若い木を関東へ移植するとしましょう。木は根のまわりの土ごと掘り起こされ運ばれていきます。その時、セミの幼虫もいっしょに運ばれてしまうのです。
東日本は西日本よりも寒い、というのは一般論としては正しいのですが、東京の気温が西日本より著しく低いというわけでもありません。クマゼミの分布と気温に強い相関関係があるとは私には思えません。ですからクマゼミ進出と温暖化を結びつけることには賛成できないのです。クマゼミが関東に進出できないのは何か他に理由があるように思えます。


さて、光ファイバーケーブル断線事件に話を戻しましょう。
新聞記事によると、NTT西日本の被害が昨年は1000件もあったとのこと。東海から九州までの広範囲にわたるものなので、発生密度が高いわけではありませんが、件数としては無視できないものです。被害にあうのは光ファイバーケーブルの引き込み線、つまり家屋に直接つながる線にあたります。どうもこの引き込み線がクマゼミにとっては産卵にちょうどいいものになっているようです。
セミの幼虫は土の中にいるので、セミは地面に産卵していると思っている方も少なくないようですが、実際は木の幹に卵を産みつけています。セミの産卵管は丈夫で、固い木の幹に卵を差し込むほどです。日本最大のクマゼミならば引き込み線程度は大したこともないのでしょう。卵が孵化すると、小さなセミの幼虫が現われます。その幼虫は木を下に伝って地面に穴を掘って潜っていくのです。そのような映像は、撮ろうとする人がいないのか、撮るのが難しいのか(幼虫はかなり小さいはずなので撮影は難しいと思われる)、あまり無いようですね。映像で見せるのが一番説得力があるのですが…。私も肉眼で見たことはありません。

新聞記事によると、「クマゼミは枯れ枝に産卵する」とあります。しかし、これは額面通りには受け取れません。枯れ枝に産卵するならば、大阪や福岡は枯れ枝ばかりなのですか? これは、おそらく、「枯れ枝を比較的好む」というべきなのではないでしょうか。枯れ枝にしか産卵できないとしたら、西日本でのクマゼミ大繁栄は説明できません。
それでもクマゼミが光ファイバーケーブルを好む傾向があるのは被害数からも否定できません(被害確率は低いのですが)。問題の光ファイバーケーブルの感触がクマゼミ好みなのでしょうか。NTT西日本やメーカーではケーブルの防護を強化したり、表面材質を変えた改良型を新たに使うことで対策としているとのことです。

ところで、新聞記事には「今後は関東でも被害が出る」と書かれていますが、現在の生息密度から考えると被害が出る可能性は当分はかなり低いと私は考えます。関東だけでも数十件以下だろうと私は推測します。もちろん、改良型ケーブルを使うよう対策をすべきではありますが、むやみにあわてる必要はないでしょう。
マスコミは温暖化や環境問題に引っかけて何かと大変だ大変だ、とあおりたてるのが好きなようですが、今回の事件は「へえー」と受け流す程度のものでしかありません。パニックになるようなことではまったくないのです。


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