Vol. 383(2007/10/28)

[今日の事件]農業害獣害鳥の被害の数字を計算してみると

先日、農林水産省から害獣・害鳥についての統計が発表されました。下は表の一部を掲載したものです。

全国の野生鳥獣類による農作物被害状況について(平成18年度)(平成19年10月12日付け)

被害面積 被害量 被害金額
カラス
17.3
20.2
3068
ヒヨドリ
3.3
4.5
689
スズメ
10.5
2.2
569
カモ
3.0
2.4
496
ムクドリ
2.5
1.7
492
ハト
3.4
3.2
432
その他鳥類
1.4
3.8
364
イノシシ
17.1
38.4
5529
シカ
35.3
287.9
4309
サル
4.2
8.7
1630
クマ
2.0
19.6
764
ハクビシン
0.8
0.7
230
タヌキ
1.2
1.0
225
ネズミ
0.9
0.8
175
カモシカ
0.3
1.0
170
アライグマ
0.5
1.0
164
ヌートリア
0.7
0.4
111
ウサギ
0.9
1.1
83
その他獣類
0.7
2.0
139
総計
105.8
400.5
19640

(単位は順に千ha、千t、百万円)

この統計は農業被害・林業被害に限られたものであり、対人被害や漁業被害は含まれていないことにご注意ください。

害獣の上位はイノシシ、シカ、ニホンザルの3種がダントツです。これに、被害額はやや減るものの被害量が多く、人間と遭遇した時に致命的な事故が起こりかねないクマを加えて、これらが日本の4大害獣と言えるでしょう。
移入動物(外来種)で生息数がそれほど多くないはずのアライグマやヌートリアの被害金額が少なくないのも注目すべき点です。
一方、害鳥はやはりカラス類がトップです。体の大きいために被害も大きくなるということでしょう。他はほぼ横並びですが、カモ類やハト類もいるのはちょっと意外かもしれません。
害鳥の被害金額は害獣類と比べても高い額です。鳥はどこからでも飛んでくることができますので、被害を防ぐことが難しいものです。それが数字に表れているのでしょう。


さて、ここからはちょっと変わった分析をしてみましょう。
下の表は「被害金額/被害量」「被害量/被害面積」「被害金額/被害面積」を計算してみたものです。

被害金額/被害量 被害量/被害面積 被害金額/被害面積
カラス
151.9
1.17
177.3
ヒヨドリ
153.1
1.36
208.8
スズメ
258.6
0.21
54.2
カモ
206.7
0.80
165.3
ムクドリ
289.4
0.68
196.8
ハト
135.0
0.94
127.1
その他鳥類
95.8
2.71
260.0
イノシシ
144.0
2.25
323.3
シカ
15.0
8.16
122.1
サル
187.4
2.07
388.1
クマ
39.0
9.80
382.0
ハクビシン
328.6
0.87
287.5
タヌキ
225.0
0.83
187.5
ネズミ
218.8
0.89
194.4
カモシカ
170.0
3.33
566.7
アライグマ
164.0
2.00
328.0
ヌートリア
277.5
0.57
158.6
ウサギ
75.5
1.22
92.2
その他獣類
69.5
2.86
198.6

いろいろな数字が並んでいますが、その中でも特異なものに注目してみましょう。

シカとクマは、「被害金額/被害量」がかなり低く、「被害量/被害面積」がかなり高くなっています。これはどうやら、他の害獣害鳥とは被害の質が異なることを示しているようです。すぐに思い出したのは、シカは主に林業被害だということです。シカが樹木の皮を食べてしまう被害です。調べてみると、クマもシカ同様に林業被害がかなり多いことがわかりました。やはり、木の皮をはぐ被害です。数字はこれを反映しているようです。
ところで、カモシカもシカと同じような林業被害のはずですが、数字はかなり違っています。この理由はわかりません。カモシカの生息数や生息場所が限られているためかもしれません。あるいは、カモシカとシカが同時に害を及ぼす場合の統計数値の処理の仕方に何かあるのかもしれません。

「被害量/被害面積」が一番少ないのはスズメです。面積の割に被害が少ないことを意味しているのですが、これはスズメの体が小さいから食べる量が少ないというよりも、スズメはイネ(米)や穀類といった小さいものを食べているため、それを積み重ねても重量は大きくならない、という意味なのでしょう。

「被害金額/被害量」は、言い換えれば「高額な農作物を食べている」ということです。その第1位はハクビシンです。ハクビシンは果実が好きで、木に登って食べます。高級サクランボとか高級リンゴとかいった果物類を好んで食べているのでないかと思わせる数字です。2位はムクドリで、やはりいいものを食っているということなのでしょう。

私が個人的に注目したいのはタヌキです。東京のタヌキを調べる「東京タヌキ探検隊!」のホームページも持っている私ですから当然のことです。
そのタヌキは、傾向としてはハクビシンに似た数字になっています。どちらも雑食、そして食べ物の好みも似ている(果実が好き)のでこれは当然の結果です。ただ、ハクビシンの方がややぜいたくなものを食べているようです。
タヌキというと無害なイメージを持つ方は多いでしょうが、実際はこの統計からわかるように農業害獣という面も持っています。4大害獣ほどではありませんが、その次のグループに位置する存在なのです。農業の現場では、まず4大害獣対策が優先ですので、あまりタヌキは注目されていないかもしれません。4大害獣向けの対策はタヌキにも有効ですので、タヌキが特に意識されることはあまりないのかもしれません。
ですが、4大害獣が生息しない都市農業の場合は、タヌキ(&ハクビシン)が害獣のトップになってしまうのです。タヌキに手を焼いている農家の方もきっといることでしょう。
タヌキやハクビシンに似た食性の動物といえばアライグマがいます。アライグマも似たような数字になりそうですが、実際はそうではありません。「被害量/被害面積」が多いのは、農作物を徹底して食べつくす習性を反映しているのでしょう。


数字をいじってみるだけで面白いことがわかってきますが、農業被害というものは全体論だけでは語れない複雑さがあります。個別の被害というものは地域や生息分布、農作物の種類や農法などによってさまざまなな違いがあります。つまり農業被害には全国どこでも通用するような万能で確実な防御方法はありえないのです。
農業というとどこかのんびりしたイメージを持つ方は少なくないでしょうが、その実態は動物たちとの戦いでもあるのです。


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