Vol. 384(2007/11/4)

[今日の本]小学館の図鑑NEO・水の生物

小学館の図鑑NEO 7 水の生物
[DATA]
発行:小学館
価格:本体2000円
初版発行日:2005年3月20日
ISBN4-09-217207-9


今回はちょっと前の本を紹介しましょう。
この本は子ども向けの図鑑です。しかし、この「いきもの通信」で取り上げるのですからタダの子ども向けのモノではありません。バカにしてはいけません。

同書のタイトルは「水の生物」。でもこのタイトルは正確な表現ではありません。
この「小学館の図鑑NEO」シリーズは子ども向けの総合図鑑となっていて、生物関係や宇宙、乗り物といったタイトルがそろっています。動物関係では、哺乳類や魚類や恐竜など主要な動物分類群が網羅されています。しかし、これに漏れてしまった動物も多く残されています。そこでその残りものを全部まとめたのがこの本なのです。
同書のメインとなるのは種類が多い軟体動物(貝類、タコ・イカ)、節足動物(エビ・カニ)、棘皮動物(ヒトデ、ウニ)といったものです。他には、コケムシ(外肛動物)とかクマムシ(緩歩動物)とかセンチュウ(線形動物)といったマイナー動物も網羅しています。さらには脊索動物門のホヤやナメクジウオ(私たち脊椎動物の親戚)も載っていますし、原生動物界(ミドリムシ、アメーバ、ゾウリムシなど)も載っています。マイナー動物は1ページに満たない記述だったりしますが、全部を網羅してやろう、という意気込みは確かに伝わってくる内容です。
同書で扱う動物はほとんどが水生なので「水の生物」というタイトルも間違いではないでしょう。陸生の動物もかなり混じっていますが(カタツムリ、コウガイビル、ミミズなどなど)、大きなグループとしてとらえればメインはやはり水生なのです。
とはいえ、同書のタイトルを決める時にはすったもんだあったんだろうなあと想像されます。「水の生物」というのはかなり抽象的な表現です。「無脊椎動物」では言葉が(漢字が)難しすぎる。かといってまさか「その他の動物」なんてタイトルを付けるわけにもいかないし…(笑)。

「小学館の図鑑NEO」シリーズの中でもこの「水の生物」を特に取り上げるのは、このジャンルにこそ生物の面白さがあると思うからです。無脊椎動物というのは動物学の中でもマイナー扱いですし、子どものために図鑑を買う親もまずは哺乳類や鳥類といったあたりから買い始めるはずです。多分、「水の生物」は売上もあまり伸びていないでしょう。
しかし、しかし、こういった動物にこそ真実はひそんでいるのです。無脊椎動物の種類数は100万を超えていると言われています。そのほとんどは昆虫が占めているのですが、それを除外したとしても相当な種類がいます。例えば、脊椎動物を全部足すと5万種以上になりますが、軟体動物(貝類、タコ・イカ)は10万種以上、刺胞動物(クラゲ、イソギンチャク、サンゴ)は1万種以上など、脊椎動物に匹敵、あるいは凌駕するほどの勢力なのです(中には有輪動物のようにパンドラムシ1種しか含まない超マイナーもいますが…)。しかもこれら動物の体は脊椎という特殊な構造に支配されていないため、そのフォルム(形状)や生態は驚くべき多様性を持っています。これら無脊椎動物に比べると、脊椎動物のバリエーションなんて大したものではありません。
この「水の生物」は生物の多様性を実感できる図鑑です。私も時々同書を眺めては生物の広大な世界に感心するのです。哺乳類や鳥類の図鑑を買うのはまあ当然としても、この「水の生物」も忘れずにそろえたい1冊です。無脊椎動物を一望できる図鑑なんて他にはなかなかありません。

小学館の図鑑NEOシリーズは、どの巻もビジュアル的にもよくできています。私もイラストの資料のひとつにしているほどです。一部、難があるタイトルもありますが、子ども向けだからといって無視するのはもったいない出来です。大人でも利用価値のあるものだと思います。


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