Vol. 394(2008/1/27)

[今日の事件]新潟県・オットセイ上陸事件

野生動物を保護することは違法か合法か

2008年1月22日付の朝日新聞東京版によると、19日朝、新潟県の海岸にオットセイ(キタオットセイ)が上陸しました。このオットセイは衰弱しているらしく、そこに居着きました。翌23日の同紙の続報では、新潟市水族館がこのオットセイを保護したとのことです。

ところでこの動物、報道では「オットセイ」だったり「キタオットセイ」だったりしますが、名前としてはどちらも正解です。いずれにせよ学名「Callorhinus ursinus」と呼ばれる動物です。オットセイの仲間には他にも何種類かいますが、日本近海に現われるのはCallorhinus ursinusだけです。「オットセイ」でも問題無いでしょう。オットセイの生息分布は太平洋北部(オホーツク海や日本海も含む)です。新潟の辺りは生息地としては辺境とも言える場所です。

この事件はかつてのタマちゃん事件を思い起こさせるものがあります。案の定、かなり近くまで接近する人がいたようです。しかし、これはかなり危険なことです。アシカの仲間(オットセイもその仲間)は魚食ですので大きな犬歯があります。しかも、アシカの仲間は走れます!(遅いけど) おとなしそうに見えても、ご機嫌を損ねればかなり手痛い逆襲をくらう可能性があります。ですから10mぐらいは離れて、すぐに逃げられるように座り込んだりせずに観察をしたいものです。いや、人間の存在は動物に精神的プレッシャーを与えかねないので20〜30mぐらいは離れたいものです。ところが、新聞の写真やテレビの映像を見ると、5m以内に近づく人もいたようです(カメラマン自身がそれぐらいの距離に近づいたのではないか?とも思える場面もありました)。新潟市水族館は「静かに見守って」とのコメントをしたようですが、ここは「近づかないで」と言うべきだったのではないでしょうか(そう言ったけれどもマスコミがちゃんと伝えなかったのかもしれませんが)。
日本人はあいかわらず野生動物とのつき合い方がわかっていないな、と感じる一件でした。


さて、オットセイが長時間上陸したままというのは不可解な事態であるので、当然専門家はオットセイが衰弱しているのではないかと気付いたはずです。しかし、しばらくは何もされずに放置されるままでした。これは、法律上では野生動物の捕獲ができないからです。その法律とは鳥獣保護法ですが、この場合は臘虎膃肭獣猟獲取締法の方が正解でしょう。ただしいずれにせよオットセイの捕獲は原則禁止なのです。しかし、最終的には捕獲に踏み切りました。法律違反なのにいいのか?という疑問が出てくるのはもっともなことです。

オットセイに限らず、ケガをした動物、病気の動物をどうするのか、という問題は常に各地で発生している問題です。庭にケガをした小鳥がいた、疥癬症のタヌキがいた、などなど。そういった動物を助けたいと思う人がいてもおかしくはありません。しかし法律を厳格に当てはめると、それは法律違反、違法行為になってしまうのです。厚意が違法だなんて、そんな無茶苦茶な…と思う方は多いでしょうがそれが法律なのです。
ただ、現実に逮捕や起訴になった例は少ないのではないでしょうか。私はそういう話を聞いたこともありません(そもそも警察官が鳥獣保護法をすみからすみまで知っているとは思えません)。それでも法律のことを真面目に考えれば動物の捕獲には躊躇してしまうことでしょう。今回のオットセイ上陸事件でも同様の葛藤があったのではないでしょうか。それでも捕獲に踏み切ったということは、野生動物を管轄する県当局または環境省と何らかの相談が行われたのではないかと推測されます。一応、役所には話をつけておこう、ということです。

ケガ・病気の動物の扱いというのは、このように非常にやっかいな問題をかかえています。良心的な行為が違法になってしまうというのも納得しにくいことです。ただこれを単純に認めてしまっても、密猟者が健全な動物を捕まえて殺し、「ケガをしていたから保護した。だけど治療のかいなく死んでしまった」と言い訳をすればOKになりかねないわけで、ますます難しいことになってしまいかねません。

治療目的の捕獲の場合は、誰が捕まえるのか、どの施設が治療するのか、治療後はどう扱うのか、といった問題も発生してきます。誰が捕まえてもいいんじゃない?と思う方もいるかもしれませんが、そのようなことをしたら転売目的・商売目的の悪徳商人があっという間に捕まえてしまいかねません。あるいは、動物園や水族館が争って捕まえようとする事態になるかもしれません。もっとも、動物園や水族館は余裕の飼育スペースがいつもあるわけではありませんので、そういうことにはなりにくいのですが(今回のようなオットセイやアシカは体が大きいので飼育スペースもある程度の大きさが必要になります)。
そもそも、野生動物は誰かの所有物ではありません。治療目的の捕獲であっても、それは独占所有権が発生するものではないはずです。

といった具合に、治療目的という良心的行為でも現在の法律上ではきちんとした手続きが定められていません。動物を助けたら逮捕、なんてことは常識的におかしいことです。このあいまいな状況に区切りをつけるためにも、鳥獣保護法はこの点をきっちりと解決させるべきです。


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