Vol. 399(2008/3/3)

[東京タヌキ探検隊!]狸?たぬき?タヌキ!

現在、東京タヌキの本の制作作業が進行中です。タヌキについての話題の大半はそちらに書くことになりますので、期待してお待ちください。
本に書くこととホームページに書くことは、(商売の都合上)あまり重ならないようにしています。だからといって、ホームページにはあたりさわりのないことしか書かないということはありません。本には盛り込めなかった話題はたくさんあります。そうしょっちゅうタヌキのことばかり書くわけにもいきませんが、ホームページの方もご期待ください。

ご存知のように、私の所にはタヌキの目撃情報がメールで多数寄せられてきます。それを見ていて気づいたのは、タヌキのことを「タヌキ」と書いたり「狸」と書いたり「たぬき」と書いたりいろいろであることです。動物の名前は漢字・ひらがな・カタカナのどれで書くのが正しいのか、ほとんどの人はあまり深く考えていないように見えます。

動物名の表記については、以前にも「Vol. 289[今日の勉強]生物の名前はカタカナで書くべきか、漢字で書くべきか?」で書いていますので、そちらを読んでください。
今回はちょっと別の視点から書いてみましょう。

動物のことをネットで検索する場合、漢字・ひらがな・カタカナのどれが一番効率的でしょうか。まあ、どれで検索しても同じように見えますが、もし科学的・動物学的なことを調べたいならば、カタカナで検索するのが正解です。なぜかというと、専門家ならば動物名はカタカナを使うはずだからです。これはかなり重要なポイントですので、覚えておいて損はありません。あなたが文章を書く時には、漢字・ひらがな・カタカナどれを使ってもかまわないのですが、ネット検索をする時にはカタカナで調べるべきです。
ちなみに、「東京タヌキ探検隊!」のホームページ探す場合も、「東京 タヌキ」で検索するとトップ10に必ず入ります。ところが、「東京 狸」では100位以内、「東京 たぬき」では100位以下という結果になってしまいます。
より専門的な情報を知りたいのならば学名を併記する方法があります。タヌキなら「タヌキ Nyctereutes procyonoides」となります。ただ、これだと専門的すぎるページになってしまうかもしれません。
ちなみに学名はどうやって調べるかというと、「タヌキ 学名」で検索します(またはWikipediaなどで調べる)。


ここで、皆様がどれを使っているか、実際の例を検証してみましょう。
まず、どのような言葉を検索して「東京タヌキ探検隊!」のホームページにたどり着いたか調べてみましょう。これはアクセス解析サービス「Google Analytics」を使用しました。期間は2008年1月の1ヶ月間です。(実際には複数の語を組み合わせて検索する場合がほとんどです。その中から「タヌキ」「たぬき」「狸」を拾ってみました。)

タヌキ
93件
58%
たぬき
56件
35%
11件
7%

次は、私あてに来たタヌキ情報のメールです。面倒なので、メールのタイトルをどう表記しているかで分類しました(タイトルに無い場合は本文での表記を採用しました)。期間は2007年12月の1ヶ月間です。ちょうど朝日新聞に東京タヌキの記事が載った時期で、多数のメールが届きました。

タヌキ
33件
62%
たぬき
12件
23%
8件
15%

この結果は、まあ予想通りといったところでしょうか。半数以上の方が「タヌキ」を使っています。これは特にネット検索の場合には「正解」と言っていいでしょう。学校の教科書やマスコミ報道などではカタカナが使われるるのが基本ですので、それが浸透しているとみていいのではないでしょうか。あるいは、単にかな漢字変換でそうなっただけなのかも…。
「狸」を使う方が意外と多いのは、よく知られた漢字だからでしょう。難読漢字だったらこれほど使われることもなかったと思われます。


あまり細かいことを言うのもなんですが、「狸」を私があまり勧めない理由がもうひとつあります。それは、「狸」は中国語では意味が違ってくるからです。中国語で「狸」はヤマネコ類のことです。ヤマネコとは野良猫のことではありません。ネコ(イエネコ)とは別種のネコ科の動物のことです。具体的にはベンガルヤマネコ、ツシマヤマネコ、ハイイロネコ、アジアゴールデンキャットといった種類が中国産のネコ属になります(ツシマヤマネコについては、この場合はアムールヤマネコと呼んだ方がいいかもしれませんし、ベンガルヤマネコに統合する見解もあります。アムールヤマネコだとしても、その分布は中国東北部、沿海州、朝鮮半島などに広がっており、日本特産種ではありません)。
ところが日本にいるヤマネコはイリオモテヤマネコかツシマヤマネコだけで、いずれも離島にのみ生息する動物です。そのため、日本では「狸」は分類・大きさ・生態が比較的似ているタヌキのことを指すようになったのだと考えられます。
「狸」は「けものへんに里」と書きますので、里山にすむタヌキにふさわしい漢字だと思われている方は非常に多いと思われますが、これは日本国内ローカルでしか通用しない常識なのです。
では、中国語でタヌキはどう書くのかというと、「狢」なのだそうです。これは日本語だと「ムジナ」つまりタヌキの異称ですので、つじつまは一応合っていることになります。
ちなみに中国語で「果子狸」とはハクビシンのことです。木に登って果実を食べるハクビシンらしい名前です。ハクビシンはジャコウネコ科であり、ネコ科とは異なるのですが、「狸」という漢字は小型食肉目全般を意味するということなのかもしれません。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

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