いきもの通信 Vol.403[今日の事件]なぜ翅の無いアブラムシが高層ビルに現われるのか 

Vol. 403(2008/4/13)

[今日の動物探偵!]なぜ翅の無いアブラムシが高層ビルに現われるのか

ベランダで植物栽培を楽しむ人はけっこういることでしょう。私もベランダではありませんが通路でアサガオを育てています。さてと、今年もそろそろ種まきの季節ですね。
マンションの高層階に住む人の中にもベランダ栽培をやっている方はいることでしょう。高層階で利点があるとすれば、害虫に悩む可能性が低いことです。高層階から下を見下ろせばわかるように、下界ははるか下、昆虫はそう簡単には上空まで上がってこないものです。
しかし、そんな高層階でも、ある日気がつくと植物にアブラムシがついていた!なんてことが起こりえます。
「翅(はね)の無いアブラムシがなんでこんなところにいるんだ!?」
と不思議に思われる方もいるでしょう。
「そうか!土に付いてきたんだな。それじゃ土を入れ替えだ!」
と納得する人が少なくなさそうな気がします。
しかし、アブラムシは土に付いてくるのではないのです。


ここで、話は変わりますが、東京近辺なら4月から5月にかけて散発的に発生する動物事件があります。それは、「何か小さな虫が大発生して飛んでいる!」というものです。洗濯物や駐車中の自動車にとまったりもするので、追い払おうとたたいたりすると、死体がべったりついて汚れてしまう…なんてことになるかなりやっかいな虫です。
ここまで書けばもうおわかりでしょうが、その昆虫の正体こそがアブラムシなのです。アブラムシというと、翅の無いものと思い込んでしまいがちですが、実際には翅があることもあるのです。では、アブラムシには翅有りの種類と翅無しの種類がいるのか、というとそうではありません。

その詳しい解説の前にちょっと説明を…ここまで「アブラムシ」とひとくくりにしてきましたが、アブラムシには非常に多くの種類が含まれます。分類上では「半翅目アブラムシ上科」という大きなグループになります(半翅目とは、セミ、カメムシを含むグループ。針のような口を持つのが特徴)。今回の話はアブラムシの仲間全般についてですので、正確には「アブラムシ上科」とか「アブラムシ類」と書かねばなりません。以下、「アブラムシ類」と書くことにしましょう。

アリの場合、翅があるのはオスか女王アリで、他は翅がありません。アブラムシ類の翅の有無はアリとはまた違ったものです。アブラムシ類は普段は翅はありませんが、ある季節になると翅がある「世代」が生まれてくるのです。季節限定で翅を持つ、ということです。その季節は、春から初夏にかけて、そして晩秋のころの年2回です。なぜその季節に翅のある世代が現れるのかというと、移動をするためなのです。夏は植物が繁茂する季節です。アブラムシ類は植物の害虫としても有名であるように、植物の汁を吸って生きています。春から初夏にかけては、そんな植物を標的に飛んで移動をするのです。目的地に到着すればもはや翅は不要です。夏の間は翅無しの世代が繁殖していきます。そして秋。再び翅がある世代が生まれ、今度は越冬のためにまた場所を移動します。アブラムシ類の越冬には謎が多いのですが、卵、幼虫、成虫など、種類や気候条件などによって越冬の形態はさまざまなようです。

晩秋のころに大発生して飛び回るアブラムシ類の中には「雪虫」というロマンチックな(感じがする)名前で呼ばれるものもいます。雪虫は白いので、まるで雪が舞っているように見えるそうです。また、「雪虫が飛ぶとまもなく初雪が降る」とも言われることがあり、なおさらロマンチックなのですが…正体は既に書いたようにアブラムシ類なのです。一般にはトドノネオオワタムシという種類であるようですが、それ以外の種類も「雪虫」と言われることがあるようです。名前はロマンチックでも正体はただのアブラムシですので、雪虫の大群の中に突進することはあまりお勧めしません。多分、服が汚れてしまいます…。
ちなみに、雪虫が白く見えるのは、体に綿のような白い物質を付けているからです。これは体を構成するパーツではなく、体から分泌される蝋物質です。「蝋」という名前からは想像しにくいのですが、糸くずが絡みあったような形をしています。アブラムシ類はとても小さいので、この蝋物質を肉眼で見ることは難しいです。顕微鏡(といっても倍率が数十倍程度の実体顕微鏡で十分)で見るとよくわかるでしょう。


そして、話は最初に戻ります。

高層階のベランダのアブラムシ類はどこから来たのか。答えは「飛んできた」のです。アブラムシは植物上でしか生きていけませんので、土が原因ではありません。
アブラムシは非常に小さく、飛翔力が強いとは言えません。無風の日なら目的地に向かって飛ぶことができるでしょうが、突風が吹いたりすると予想外の場所へ運ばれていったりすることもあるでしょう。運が良ければ(人間にとっては「運が悪ければ」)風にのってマンションの高層階にまでたどりつくことがあるかもしれません。しかもアブラムシ類の多くは単為生殖、つまりメスだけで繁殖できるので1匹が偶然に高層階に着地しただけでも繁殖をしてしまう可能性が高いのです。

アブラムシ類に悩まされている農家・園芸愛好家の方は多いことでしょうが、こういったアブラムシ類の生態では駆除はなかなか難しいものです。いつの間にかどこからかやって来るのですから。植物をよく観察し、アブラムシ類がいたら数が少ないうちに対処する、というのが唯一の対策でしょう。


ところで、アブラムシ類に近い昆虫にコナジラミやカイガラムシがいます。これらもアブラムシ類と同じ半翅目で、しかもアブラムシ類に近い種類の昆虫です。これらも「コナジラミ上科」「カイガラムシ上科」というかなり多くの種を含むグループです。そして、植物害虫であるのもアブラムシ類と同じです。コナジラミ類はやはり春や秋に飛び回ることが多いのでアブラムシ類と混同されることが多いかもしれません。
これらの昆虫の話はまた長くなりますので、いずれそのうち別の機会に書くことにしましょう。


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