Vol. 408(2008/5/25)

[今日の事件]常用漢字と動物の関係

2008年5月13日付けの朝日新聞によると、文化審議会国語分科会の漢字小委員会が、常用漢字に新たに加える字の候補を発表しました。

常用漢字とは、内閣告示によって定められた、日常使う漢字のことです。定められているといっても、違反したら罪になるとかいうようなものではなく、目安、基準といったものです。現在の常用漢字は1945字あります。
小学校で学習する「教育漢字」は1006字あり、すべて常用漢字に含まれています。各新聞社では常用漢字を基本に、よく使われる漢字を追加して各社独自のルールを作っています。

現在の常用漢字が定められたのは1981年であり、約30年ぶりにこれが改定される、というのが今回の新聞記事の内容です。追加される候補は220字あります。

漢字の話がどうして「いきもの通信」と関係するのか、不思議に思われる方もいるでしょう。
動物のことを考えるにあたっては、その生物学的なことが重要なのは当然です。しかし、さらに深く考えるためにはその文化的な面にも注目することにも意味があります。例えば、私たちが普段使う漢字の中に動物に関係するものはどれほどあるのか——常用漢字の中に現れる動物は、昔々から私たち日本人に親しまれていた動物であると言えるのではないでしょうか。
これについては、以前にも人名漢字について書いたことがあります(Vol. 235(2004/9/5)[今日の事件]人名漢字に見る動物のイメージ)。興味ある方はこちらも読んでいただくといいでしょう。今回の常用漢字の話では取り上げる字数が少ないのでちょっと物足りないかもしれませんので…。

漢字と動物の関わり、そのもうひとつの問題は「文筆業」という私の仕事と関係があります。私は以前、編集者だったこともあり、どこまで漢字を使うか使わないかにはかなり気を使っています。私なりの「漢字・仮名ルール」というものも持っています。ネットでは時々なんでもかんでも漢字で書いているのを見かけますが、あれは非常に読みづらいものです。かといって仮名ばかりでも読みにくいです。その中間のどこでバランスを取るかが問題になるのです。
その基準として最も妥当なものが常用漢字であるのは間違いないでしょう。常用漢字はよく選ばれていて、だいたいにおいて過不足ないものです。しかし、専門的な話をする場合にはどうしても常用漢字以外の字も使わざるをえないことがあります。
例えば「脊椎動物(せきついどうぶつ)」という言葉。これはよく使われる用語ですが、「脊」は常用漢字ではありません。大人向けなら迷わず漢字で書くところですが、想定読者が小中学生程度なら「せき椎動物」と書く選択もあります。漢字を使う基準は、このように読者層によっても変わってきますが、おおもとになる基準はやはり常用漢字なのです。それが改定されるとなると注目せざるをえません。

ちなみに、動物の名前については学問的にはカタカナで書くことが原則になっていますので、迷ったりするようなことはまったくありません。今回の候補の中にも「熊」とか「虎」とかありますが、このような字は動物学的にはほとんどインパクトがないのです。


では、ここからは今回の候補になった字の中から動物に関係するものを見ていきましょう。

まず、今回の候補の特徴として、「都道府県名に使われている漢字はすべて採用」ということが決まっています。動物関係では次の2つがそうです。

鹿 鹿児島県
 熊本県

今まで「熊」が常用漢字でなかったのが意外です。

以下はジャンル別に分類しました。

・哺乳類

 とら
 おおかみ

「虎」はやはり阪神タイガース需要でしょうか。

・鳥類

 つる
 たか
 かも
 すずめ
 わし

いずれもよく使われる文字です。人名、地名、菓子の名前、料理の名前、縁起物、プロ野球球団名の愛称などなどで見かけるものです。

・爬虫類

 かめ

鳥類の「鶴」とセットの「めでたい動物」需要があるのでしょう。

・昆虫

 ちょう
 はち

これらが選ばれたのは使用頻度が高いということなのでしょう。

・その他

 もも
昆虫の脚に「腿節」というパーツがあります。これが使えるのは私としてはうれしいです。

 みつ
「蜂」と合わせて「蜂蜜」という使われ方が多いのでしょうか。

 いそ

地名で多そうな漢字です。

 えさ

私は今までは「エサ」と書くことが多かったのですが、今後は漢字の方がいいのかもしれません。この件は要検討です。

 きば

 まだら

動物の体色を表現するのに欠かせない漢字です。

 せき

これは「脊椎」以外の使用はほとんど考えられません。


以上が動物関係の字です。

本当は、現行の常用漢字に含まれる動物関係の字もすべて調べてみたいところなのですが、今現在そんな余裕がありません。今後の課題として取っておくことにしましょう。


追記

6月16日に公表された第2次案では、5字が外れました。そのうち動物関係は「鷹」と「鴨」。「固有名詞の使用例が多い」とのことだそうです。


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