いきもの通信 Vol.413[EXTRA]東京タヌキがわかる本「タヌキたちのびっくり東京生活・都市と野生動物の新しい共存」 

Vol. 413(2008/6/29)

[EXTRA]東京タヌキがわかる本「タヌキたちのびっくり東京生活 都市と野生動物の新しい共存」

「タヌキたちのびっくり東京生活 都市と野生動物の新しい共存」
著:宮本 拓海、しおや てるこ、NPO法人都市動物研究会
発行:技術評論社
価格:1580円+税  ISBN978-4-7741-3525-0

以前から予告していた東京タヌキの本がようやく発売されました。同書ではこれまでホームページに載せていなかったこともたくさん載っていますので、ぜひ読んでいただきたいです。


まずは内容を順に紹介していきますと…

第1章は、タヌキの基礎知識をマンガで解説していきます。これは東京タヌキに限らないタヌキの一般論です。宮本にもわからないことがありましたので、上野動物園にも取材に行っています。

第2章は、タヌキのミクロな面を見ていきます。例えば、タヌキの運動能力や食べ物といった個々の生態にかかわることです。タヌキというと「のろまで間抜け」というイメージが強くありますが、それは間違いです! タヌキの運動能力は低くありません。タヌキの食べ物はフンを分析するとある程度わかります。これは顕微鏡を駆使して調べることになります。

第3章は、タヌキのマクロな面を見ていきます。これはつまり広域での生息分布のことです。メッシュでの生息分布地図はこのホームページでも掲載していますが、もっとよく眺めてみると、その分布はいくつかのグループに分けることができます。さらに詳しく見てみると、タヌキが生息するための条件というのも見えてきます。
また、タヌキにとって環七のような大きな道路は横断が困難な場所ですが、タヌキはそれを難なく突破しているようにも見えます。その謎にもせまります。
さらには、東京史や生態系にも話題は及びます。

第4章は、再びマンガです。宮本としおやさんが23区某所に野生のタヌキを実際に見に行った話です。もちろん実話ですよ。

第5章は、タヌキとのつきあい方についてです。これは「東京タヌキ探検隊!」のホームページにもちょっと書いていますが、本書ではさらに詳しく取り上げました。

そしてエピローグは再び東京の歴史とからめて、東京タヌキの過去・現在・未来を考察します。これはタヌキだけの問題ではなく、私たち人間の問題でもあり、東京都市論のでもあるのです。

本書は東京都23区内に生息するタヌキを初めて本格的に取り上げたものです。2007年時点でわかっていることをできるだけ詰め込みました(原稿の大半は昨年中に完成していたのです)。東京タヌキについての、たいていの人の疑問に答えることができるでしょう。
だからといってムズカシイ本ではありません。中高校生でも読める内容ですし、小学校高学年でも読めるかもしれません。

東京タヌキのことなら、まずはこの本。ぜひ読んでみてください。


ところで、私のこれまでの著書などを知っている人は、この本を読んでびっくりしたかもしれません。いつもならば、宮本自身がイラストを描くのが通例です。でも今回はしおやてるこさんがマンガやイラストを担当しています。宮本はイラストレーターなのに、なぜ本人が描いていないのか? そのいきさつを書いてみようと思います。

ことの起こりは2006年10月1日、NHKテレビ「ダーウィンが来た!」で東京タヌキが取り上げられたことに始まります。この番組ではNPO都市動物研究会も協力しており、日曜夜の全国放送ということもありその反響が期待されていました。私は、この番組を見た人が、「私も東京23区内でタヌキを見たことがあるよ」とホームページやブログに書く可能性が高いと予想しました。そこで、放送後の1週間ほどは毎日ネット検索をして、情報に目を光らせていました。タヌキ情報はそれほど得られなかったものの、早い時期に検索にひっかかったのがしおやてるこさんのブログでした。
ブログとホームページによれば、しおやさんは漫画家で、ちょうどその時期にタヌキのマンガを描いているということがわかりました。この時は、「へー、そういう人もいるんだな」と読み流すだけでした。
事態が動き出すのはその直後のことでした。NPO都市動物研究会の理事会で、タヌキ本を作ることが決定、その執筆担当に私がなったのです。私はさっそく企画案・構成案の作成にとりかかりました。本の構成を考えている時に私が思ったのは、動物マニアでなくても親しみやすいものを作りたいということでした。そのためならば、4コママンガとか、イラストとかを多用したものがいいだろうな、と考えました。ただ、それを自分でやってしまうと、「執筆+イラスト」で私自身の負担が大きくなってしまいます。ならば、誰かちゃんと描ける人に頼んだ方がいいのかもしれない…と考えたのです。ですが、いい加減なタヌキを描かれても困ります。
そこで思い出したのがしおやさんのことでした。しかし、私はしおやさんがどんなマンガを描いているのかまったく知りません。そこで古本屋に走って、マンガ単行本2冊を購入、さらに新刊書店に走って雑誌「電撃マ王」を購入しました。「電撃マ王」はちょうど「タヌキでポン!」の連載が始まった頃でした。
まず、一番にチェックしなければならないことは、「タヌキをちゃんと描けるか?」ということでした。非常に残念なことに、正しくタヌキを描ける人はほとんどいません。顔の黒模様が左右つながっていたり、尾にリング模様があったりの偽タヌキばかりが氾濫しているのが日本のイラスト界なのです。そんな偽タヌキしか描けない人ならば即不採用です。しかし、「タヌキでポン!」は、タヌキが人間に化けるというファンタジーではあるものの、タヌキを正しく描こうとしていました。しおやさんは、私の希望通りだったのです。

次に重要なのは絵柄です。
劇画っぽいのは本の内容に合いません(←想像してみてください(笑))。
あんまりあっさりしすぎた絵柄でも困ります。
萌えキャラというのもちょっと違いますしね…(「萌え」は否定しませんが、残念ながら「萌え」は万能ではないのです)。
どういうものならOKなのか、その基準というのもあいまいなのですが、しおやさんの絵柄は本書の性格から外れているとは言えず、つまり許容範囲内だと私は判断しました。
そしてもうひとつ肝心なことは、絵がうまいか、です。上手下手の判断基準は難しいものです。その基準は人によって違って当然です。そこで私自身の価値判断で決めなければなりませんが、その結論は「これならOK」というものでした(私の判断基準は低いものではありません。イラストレーターであり元編集者であるという立場から厳しく判断しています)。
こうして私の中ではしおやさんを招請することが決定したのでした。

私のこれまでの仕事を知っている人なら、「宮本がイラストも描く」のが当然と思っていた方が多いことでしょう。実は私本人はこのことにあまりこだわっていません。私は元編集者なので、「本を作るためには最適な割り当てを考える」という思考もあります。ですから今回のようなことがあってもかまわないのです。

さて、私の中ではしおやさん招請は決定したものの、すぐにコンタクトをとったわけではありません。その前にまず本を出してくれる出版社を探さねばなりません。ところが、これがなかなか決まりません。
ちょうどこの頃、私は技術評論社の書籍「シンカのカタチ」のイラストを描いているところでした。そのイラスト仕事が一段落した頃、担当編集者に「こういう企画があるのだが」と話を持ちかけました。技術評論社はちょうどサイエンスものの書籍シリーズを進めていることもあって、この企画を受け入れてもらえることになりました。
企画が動き出した時点で、出版社にはすぐに、しおやてるこさんに連絡を取ってもらいました。そして、しおやさんを含めた最初の打ち合わせが行われたのは2007年4月のことでした。こうして本書の制作が開始されたのです。

実は、宮本の当初の構成案では、しおやさんの担当は4コママンガとイラストというものでした。そこへ、編集部から「もっと長いマンガにしてはどうか?」という提案がありました。「しおやさんの作業量がかなり増えるがスケジュール的に大丈夫なのか?」という懸念はありましたが、そういう展開も面白いかな、と思い賛成しました。しおやさんもこれを承諾しました。
ただ、そうなると全体の構成も変更が必要になります。もともと文章主体で構成を考えていましたので、どういう所をマンガにすれば効果的か再考しなければなりません。その結果、「基礎知識」と「タヌキ見学」の部分をマンガにすることにしました。しおやさんには作画の参考のために、東京都23区の野生タヌキを実際に見てもらうつもりでしたので、「タヌキ見学」の部分はちょうど都合がよかったのです。
その「タヌキ見学」は本書の第4章にあたりますが、この取材は2007年7月に行いました。また、第1章の中の上野動物園訪問は2007年秋に行っています(その時はパンダのリンリンも存命中でした)。

さて、しおやさんのおかげで宮本の作業負担が減らせたかというと、…う〜ん。
第1章「タヌキの基礎知識」は、科学的に正確な内容にせねばならないので、宮本が全体のラフを描きました。このラフではストーリー展開も描いています。いつもの「しおやマンガ」と感じが違うなーと思われたのならば、それは宮本の責任です。ただ、細かいところではしおやさんがうまくアレンジをしてくれています。
例えばp28の「私もです」「しめきり前の私みたいです」というセリフは私のラフにはなかったものです。私はこういうのを期待していたので、やっぱり頼んでよかったと思ったものです。

ちなみに、私が描いたラフというのは↓のようなものです。

これはp35の部分。実際には仮テキストも入れていますがここでは省略しました。丸とか四角とかの単純な作画で指示を出しています(笑)。もっとち密なラフを想像していたでしょうか? これ、全部Illustrator上で作成しています(時間節約のため、いくつかのパターンを繰り返し使っています)。宮本がしおやさんの絵を模倣してラフを描くことも不可能ではありませんが、それではしおやさんの創造力・想像力の余地がなくなってしまいます。そのため、このような簡略なラフにしたのです。他の一部のイラストなどではもうちょっと細かく指示を出したところもありますがね…(例えばp212の「間違ったタヌキ」とか)。

第4章「東京タヌキを見に行った」は、基本的には取材の時の様子を再現したものです。といっても、マンガには描かれていない部分もたくさんあります。この章は、取材後に宮本がプロットの断片をテキストで提供したものの、構成内容はほぼすべてしおやさんによるものです(セリフもあまり修正していない)。章末のコラムも、語り手は宮本になっていますが、これはプロット断片に書きつけておいたことをしおやさんが再構成して1ページマンガに仕立ててくれたものです。ありがとうございました。

とまあ結局のところ、マンガを担当してもらっても宮本の作業量はしっかりとあったわけで、やっぱり大変だったのでした。
それでも本全体として面白くなったので、これは成功だったと言えるでしょう。


ちなみに、本書では宮本もイラストを描いています。タヌキやネコのリアルなイラストがそれです。

あと、p44の「上野動物園クマ・タヌキ飼育場」も宮本担当です。これは3Dモデルを六角大王Super4で作り、視点位置を決定してからExpression3でトレース、Photoshopで完成、という手順で作っています。
3Dモデルは、飼育場の設計図などがあったわけではなく、現場で歩測と目測で距離を割り出し、現場で撮った写真から細部を再現しています。ですから、完全に正確というわけではなく、誤差がかなり含まれています。ただ、実用上はまったく問題無いものです。
下図は、その3Dデータ製作時に視点位置を確認するために使ったキャプチャ画像です。この段階は細部は作っていないのがわかるでしょう。


参考文献についてもちょっと書いておきましょう。

今回の参考文献の中には私から見てもなかなか面白いものも含まれています。単なる参考書以上の面白さです。中でもお勧めは「東京を騒がせた動物たち」や「イギリスの都会のキツネ」です。興味ある方はぜひ読んでみてください。

本書の執筆で、特に「大当たり」だったのは渋沢栄一の回顧録でしょう。本書で引用した渋沢栄一の文章は、元は東急電鉄の社史で見つけたものです。まるで現代を予言するような文章には驚いたものです。ただし、その意味するところを現代にそのまま当てはめるわけにはいきませんが…。

参考文献に挙げているものの、実際にはあまり参考にならなかったのが中沢新一著「アースダイバー」です。本書では東京の地形についていろいろと分析を行っていますが、これを読んだ人の中には「アースダイバー」を思い出した方がいるかもしれません。
私が「武蔵野台地」の存在を知ったのは、「アースダイバー」の書評(本そのものを読んだわけではなかった)や「坂学会」についての新聞記事だか何かによってでした。本書でも私は「武蔵野台地」にたどり着いていますが、「アースダイバー」などに直接影響されたわけではありません。「アースダイバー」を実際に読んだのは、本書の構成も固まった後でした。また、「アースダイバー」も読まれた方はおわかりになるでしょうが、中沢先生が見たものと私が見たものは同じ「武蔵野台地」であるにもかかわらず、その中身には共通性はあまりありません。ですから、「アースダイバー」を参考文献に入れてはいるものの、実際には不参考文献と言ってもいいでしょう。ただし、読み物としてはなかなか面白いものですので、興味のある方は読んでみてください。


本書では生息分布のメッシュ地図など地図がいろいろと登場しますが、これは自前で用意したものです。自前といっても、地形データは国土地理院のもの、描画は専用のアプリケーションを使っているので、その点は「自前」とは言えませんが…。それでも、パソコン上で地図を自由に加工できることは、タヌキ研究に大きな影響を与えました。地図の話はそれだけで長くなってしまいますので、また改めて紹介することにしましょう。


東京タヌキについて、これまでの成果をまとめる本がようやく完成したわけですが、これで調査研究が終わったわけではありません。調査研究はこれからもまだまだ続きます。より詳細な生息分布の把握、特定地点でのタヌキの行動の調査など、これからもまだまだ調べなければならないことはたくさんあります。
これからも皆さんのタヌキ情報提供とご支援をよろしくお願いします。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

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