Vol. 419(2008/8/10)

[今日の地図]地図の革命・その1

ネット地図の衝撃

書籍「タヌキたちのびっくり東京生活 都市と野生動物の新しい共存」では口絵などでさまざまな地図を使っています。実はこれらは私自身で図版を製作しています(もちろん、原データは私が作っているわけではありませんが)。また、東京タヌキ調査にあたっても地図が大活躍しました。タヌキを調べるには地図をいかに活用するかがとても重要と断言できます。
タヌキに限らず、動物調査には地図は欠かせないものでしょう。地図無しに山野を歩くのは無謀です。動物研究に地図読みの能力は必須なのです。このホームページのタイトルは「いきもの通信」ですが、それでも地図は取り上げるべき題材なのです!

その地図のテクノロジーと使い方はこの10年ほどで一変してしまいました。これは「地図の革命」とも言えるものです。その「革命」の一端を2回に渡って紹介していきましょう。


地図というと、日本では国土地理院の2万5000分の1、5万分の1の地図が有名です。日本の地図の中でもベーシックなものであり、山歩きなどには必須のものです。
ところが、東京タヌキの調査ではこれらの地図はまったく役に立ちません。というのも、東京都23区内には細い道路が非常に多く、2万5000分の1地図には網羅されていないのです。東京タヌキ調査では細い道路ひとつひとつが重要になりますので、これでは実用になりません。また、2万5000分の1地図では、建物の名称がわからない、住居表示がわからないなどといったことでも使いにくいものです。例えば、ホームページに寄せられるタヌキ情報は、「何丁目何番」といった住居表示や目印になる建物によって位置情報を確認していきます。2万5000分の1地図ではその確認ができません。

そこで私が使用しているのが、市販の1万分の1地図です。東京都23区全域がちょうど1冊にまとまっているのでタヌキ調査の目的にも合っています。狭い道路もほぼ記載されているので、実用上も問題ありません。住居表示も「番地」まではだいたい表示されています。
1万分の1地図は、現地を歩く時にも便利です。歩いて調査する時にはちょうどいい縮尺ですし、コンビニの場所もわかりやすく表記してあるのでかなり助かります。
1万分の1地図は、コンパクト版よりもA4サイズの大きなものの方が使いやすいです。広い範囲を同時に見渡すことができる方が、周辺地域とのつながりを理解しやすく、それがタヌキ調査のヒントになることもあります。


実用的には十分な1万分の1地図ですが、もうちょっと便利だったらなあ、と思う時もあるはずです。もっと拡大して見たいという要求は必ずあるでしょう。
それをかなえてくれたのがGoogleMapsでした。Googleの地図といえば、GoogleEarthが有名なのでしょうが、実用性で言うとGoogleMapsの方が上です。

GoogleMapsの最も役に立つ機能は、普通の地図と航空写真を簡単に切り替えることができることです。タヌキの生息状況を考える場合、緑地の存在は非常に重要です。通常の地図では緑地の様子を知ることはできませんが、航空写真に切り替えると、「ここに雑木林」「ここは芝生」といった植生の違いまでも判別することが可能になります(さすがに樹種まではわかりませんが。しかし場所によっては「桜並木」が確認できることがあります(笑))。緑地の存在量を確認することによって、タヌキが生息可能かどうかをある程度判断できるのです。
また、拡大率が非常に高いことも便利です。建物の形状や小さな私道までもが見えます。ただし、これは東京都23区での場合で、地方によっては拡大率が低い場所があります。
上下左右にどこまでもスクロールできるのも紙の地図には不可能なことです。
また、住居表示を入力すると、すぐにその地点の地図を表示することもありがたい機能です。これはホントに便利です。地図帳をめくる手間も省けるわけですから。

そして、正確な緯度経度を知ることもできます。画面右上の「リンク」をクリックすると文字ボックスが表示されます。その中の「ll=」以下の数字が、その地点の緯度経度です。これによって位置情報を正確に記録することができるようになりました。

さらに、つい先日始まった新サービスが「ストリートビュー」です。これは実際の現場の360度全周画像を見ることができる、というとんでもない機能です。現場に行かなくてもその周囲の状況をある程度知ることができるわけです。これもまたタヌキ調査には役に立つ機能です。もっとも、画像が用意されているのは道路上だけ、すべての狭い道路までも網羅されているわけではない、という欠点はありますが、実用的にはもう十分な性能です。

私はGoogleMapsを、日本でのサービス開始の頃から使っています。最初の頃に比べると機能も解像度も向上しています。タヌキ情報の整理にはとても重宝しているツールです。


このGoogleMapsがどこででも使えればとても便利です。しかし、屋外ではそうもいきません。私のフィールドである東京都23区の場合で考えてみましょう。

ブラウザは、iPhoneでもiPod touchでもPSPでもイーモバイル端末でも、あるいはノートパソコンでも何でもいいでしょう。ハードウェアのスペック向上によって、選択肢はいろいろあります。

ですから比較するなら他の視点から見ていく必要があります。
まず、回線速度。データ通信といえばウィルコムが有名ですが、回線速度の点では落選です。2X、4X回線ではGoogleMapsは重すぎです。

無線LANは速度的には問題無いでしょう。しかし、アクセスポイントが少ないのが欠点です。山手線内側ならlivedoor Wirelessがだいたいカバーしているのですが、その外側ではまったく役に立ちません。その他の無線LANサービスでも、23区全域をカバーするには到っていません。タヌキ調査では繁華街を歩くことはほとんどないので、実用的とは言えません。

「23区内どこでもつながる」ということならば、イーモバイルやiPhone(ソフトバンク)、あるいはその他の「パソコンと同等のネット機能が使えるハードウェア」が現実的です。イーモバイルは下り3.6Mbpsとなっていますが、これはGoogleMapsを使うには、ぎりぎり実用的な回線速度だと思います。iPhone 3Gも同程度の性能だと思われます(が、実際のところはどうなんでしょう?)。これで月額1万円以下なので、頻繁に使うのならばこれが最適解になるのではないかと思います。
ただし、私自身について言えば、私はそんなに金持ちではありません。やっぱり高いです。使用頻度も低いですし…。

もっとデータ通信量が安くなればねえ…というあたりが結論になりそうですね。または、自分自身がもっと金持ちになるか(泣)。

(※データ通信の話は執筆時点でのことです。1年たてばまた状況は変わってしまうでしょう。)


東京タヌキ調査に役に立ったのはネット地図だけではありません。もうひとつの革命的な地図もそれに負けない活躍をしました。
以下次回!


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