いきもの通信 Vol.425[今日のいきもの]アキアカネとナツアカネの判別方法 

Vol. 428(2008/10/12)

[今日のいきもの]アキアカネとナツアカネの判別方法

秋はトンボの季節です。いや、正確にはトンボの季節はゴールデンウィークの頃から始まっているのですが、秋には秋らしいトンボが見られます。
秋を代表するトンボといえば赤トンボです。ですが、これは正しい呼び名ではありません。「赤トンボ」という名前のトンボは存在しないのです。では、私たちが普通「赤トンボ」と呼んでいるのはいったい何なのでしょうか。
たいていの場合、それは「アキアカネ」のことを指します。9月から10月にかけて、平地でよく見られるのがアキアカネです。ですが、赤いトンボはアキアカネだけではありません。ナツアカネやコノシメトンボ、ショウジョウトンボのように赤いトンボは他にもいろいろといます。種類が多いため、これらをひっくるめて「赤トンボ」と言ってしまうと、かなりおおざっぱな概念になってしまいます。やはり、「アキアカネ」「ナツアカネ」など、それぞれをきちんと区別し認識しないとトンボの面白さはわからないのではないかと思います。

では、その区別の方法ですが、世の中には昆虫図鑑はいろいろあるものの、そこのところをわかりやすく的確に解説したものというのは少ないようです。普通の昆虫図鑑ではトンボに割くページ数は限られたものです。トンボ専門の図鑑はありますが、解説が妙に難しかったりします。図版が白黒で色や模様がわかりにくかったり、写真が生態写真(自然環境の中にいる状態をそのまま撮影している)であるために、肝心の模様がよく見えないこともあります。
これはホームページやブログなどでも似たような状況です。まあ、私もトンボのホームページを熱心に見ているわけではないので、よくできたものがあるかもしれませんが…。
トンボの種類の判別がわかりにくいということは、初心者にとってかなり高い敷居です。近所で見かけるトンボを自信を持ってきちんと判別できないというのでは、興味を失ってしまうことになりかねません。
ということで、今回は判別の仕方を私なりの方法で説明していくことにしましょう。「そんなことわかりきっている」と言い切れるベテランの方は読む必要はありません。


今回取り上げるのは赤トンボの代表であるアキアカネとナツアカネです。同じような時期に同じような場所で同時に見ることもあるので、見分け方を知っておくべき種類です。
生態についてちょっとだけ説明しておきますと、

●アキアカネ…6月ごろ平地で羽化(幼虫=ヤゴから成虫になる)して、すぐに山地など涼しいところに移動します。涼しくなった秋になるころに平地に戻ってきます。
●ナツアカネ…6月ごろ羽化し、夏の間もそこから遠くへは移動しません。

ですから、アキアカネは平地で炎天下の真夏に見かけることは普通ありません。真夏に平地にいる赤トンボはナツアカネの可能性が高いのですが、他にも赤いトンボはいるので簡単に断定はできません。

さて、アキアカネとナツアカネ、その違いを理解するにはやはり写真が一番です。

同じ赤いトンボでも、赤くなっている部分に違いがあります。ナツアカネは胸までも赤くなっています。アキアカネはそこまで赤くはなりません。ただし、後でも書くように羽化直後はどちらも赤くなく、次第に赤くなっていきます。色だけで判別するのは危険です。

最も決定的な違い、それは胸の模様です。

胸にある3本の黒い線の中央に注目してください。アキアカネは先がとがった形をしており、ナツアカネは先が角張っています。これが最も確実な判別方法ですのでぜひ覚えてください。
そんな模様なんて飛んでいると見えないよ! と言う方がいることでしょう。それは当然です。ですからぜひ捕獲をしてください。慣れてくればちょっと離れていてもだいたいの区別はできるようになりますが、初心者はやはり網で捕まえて、手で持って、しげしげと観察をすることをお勧めします。そういう経験を積むことがとても大事なのです。

次はメスを紹介しましょう。

アキアカネもナツアカネも、オスほどには赤くなりません。写真のアキアカネのメスはちょっと赤みが少ないですね…。たいていはもうちょっと赤くなります(下の写真も参考のこと)。
オスの方が色が強く出る、というのは他の赤トンボでも同じ傾向ですので、これも頭に入れておきましょう。

しかし、オスとメスの区別も色に頼ってはいけません。もっと確実な方法があります。しかもこれはあらゆるトンボに共通することです。
オスにあってメスにないもの、それが「副性器」という器官です。

オスの写真の矢印が副性器です。アキアカネやナツアカネの副性器はちょっと小さいのですが、突起があります。メスにはそのような構造はまったくありません。これも手に持って観察すればすぐにわかります。何匹かつかまえて、オスとメスを比べてみればよくわかるでしょう。
オスの本当の性器は他の昆虫と同じように腹の先端にあります。しかし、メスに精子を渡すためにはこの位置は都合が悪いのです。そこで、精子を一時的に副性器に移して、そこで交尾をするのです。(説明が長くなりますので詳細は省略します。また別の機会にでも紹介しましょう。)


アキアカネ、ナツアカネを上から撮った写真を並べてみました。
微妙に体型が違うのがわかるでしょうか。この中で一番特徴的だなと思うのはナツアカネのメスで、腹がずんぐり太い印象があります。これも実物を見て実感してもらわなければわかりにくい特徴ですが…。


アキアカネとナツアカネの顔も見てみましょう。
写真はいずれもオスです。ナツアカネ(オス)は顔正面もくっきりと赤くなっています。アキアカネはメスも同じような色です。
また、両方に共通するのは眼の上と下で色が違っているということです。これは他の多くのトンボでも上下で色が違っています。トンボの判別では眼の色が重要なポイントになることもありますので、手に持った時は必ず見るようにした方がいいでしょう。


アキアカネもナツアカネも、翅には特に模様はありません(縁紋は別として)。
しかしアキアカネのメスに限って、翅が薄く茶色に染まっている個体が時々います。たくさんアキアカネを捕まえると、その内のいくつかは翅が茶色のはずです。これも実際に捕まえてみないとわからないことです。


アキアカネもナツアカネも羽化した直後から赤いわけではない、ということは前にも書きました。
上の写真は7月に撮影したもので(撮影地・東京都)、おそらく羽化したばかりと思われます。アキアカネはこれから山地へ向かって飛んでいこうという時期です。全身がオレンジ色なので、一見アキアカネ、ナツアカネには見えませんが、胸の模様は間違いなくこれらのトンボのものです。
このような色が完全についていない状態を「未成熟」と呼びます。時間が経って色がつくと「成熟」と呼ぶわけです。
未成熟の期間がどれほどなのかは私もわかりませんが、やはり7月に平地でつかまえたアキアカネが赤くなっていたことがありましたので、短期間なのかもしれません。

以上がアキアカネとナツアカネを判別するための資料です。


このページの判別方法を活用するには、やはり本物を見るに限ります。捕虫網を持って、トンボをつかまえに行ってください。トンボは翅を持てば安全に安定してじっくり観察することができます。
このページを印刷して持って行き、実物と比較するといいでしょう。あるいは、トンボをカゴに入れて持ち帰って比べてもかまいません。
一番いいのはデジカメで記録することです。トンボを判別するには、基本的には真横からの写真が最も役に立ちます。
左手でトンボの翅を持ち、右手でデジカメを持って撮影しましょう(重たい高級カメラよりも小さめの軽いカメラの方が撮影はしやすかったりします)。この時、マクロモードにしないとピントが合わないので注意してください。
トンボは昆虫としては大きいので、特に高倍率にする必要もありません。日中の屋外ならシャッター速度も十分確保できるはずで、オートモードで撮っても失敗することは少ないでしょう。
あえて言えば、背景がごちゃごちゃしたものにならないように気をつけましょう。道路のアスファルトを背景にすると均一な背景になるので都合がいいです。もっとも、背景との距離が離れていれば、背景はぼけてしまうので前景のトンボ本体ははっきりと写るはずです。これも最初はあまりこだわることではありません。
こういった写真ならば、高価なカメラも高度な撮影技術も必要ありません。マクロモードにすることだけを気をつけて、どんどんチャレンジしてください。

トンボの撮影が終わったら、あるいは観察が終わったら、トンボは放してやりましょう。これなら「自然破壊だ!」などと言われる心配もありません。
トンボは持ち帰っても飼育できるようなものではありませんので、これが一番いいやり方なのです。(トンボは生きた小型昆虫、たとえばチョウやハエなどを食べます。このようなエサを人間が集めるのはけっこう大変です。トンボは飼育しやすい昆虫ではないのです。)

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