いきもの通信 Vol.437 [今日の勉強]あなたの知らないオフィスビルの害虫退治 

Vol. 437(2008/12/14)

[今日の勉強]あなたの知らないオフィスビルの害虫退治

読者の方の中には会社や役所にお勤めの方が多いことでしょう。あるいは、以前そういう所に勤務していたという方もいることでしょう。今回の話題は害虫駆除についてなのですが、「オフィスビルと害虫なんて何も関係ないよ」と思っている方は非常に多いのではないでしょうか。「そういえば、時々日曜日に何かやってるみたい…」と思い当たる方がいるかもしれません。実は、ある程度の規模以上のビルでは必ず害虫駆除作業が行われているはずなのです。

その根拠となっている法律が「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」、通称「ビル管理法」、「ビル管法」です。同法については付随する「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則」「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」にさらに具体的なことが書かれています。以下、これらをまとめて「ビル管理法」と呼ぶことにします。
ビル管理法の対象になるのは、延べ面積が3000m2以上の建築物(店舗、事務所、図書館、博物館、美術館、旅館など)、そして延べ面積8000m2以上の学校です。これらの建築物では、「空気環境の調整」「給水・排水の管理」「清掃」「ねずみ、昆虫等の防除」をしなければならないと定められています。大きなビルには管理担当の人(警備以外)が何人もいると思いますが、彼らはこういった管理をしているのです。
しかし、管理人さんが何でもかんでもやるわけでなく、必要に応じて外部の業者に発注することになります。害虫駆除の業者もそのひとつです。


では、害虫駆除業者はいったい何をやっているのでしょうか。その作業の内容を知ることができるマニュアルがあります。

建築物における維持管理マニュアル

これは厚生労働省の「建築物環境衛生維持管理要領等検討委員会」が作成したものです(掲載ホームページは財団法人ビル管理教育センター)。役人が作ったものではなく、衛生の専門家とビル管理業界によってまとめられたもののようです。害虫駆除についてはその中の「第6章 ねずみ等の防除」に載っています。

同マニュアルで取り上げられている動物は、ネズミ、ゴキブリ、カ、さらに「その他」として「ハエ・コバエ類」と「イエダニなど吸血性のダニ」です。ビルの害虫(害獣)というのはだいたいこのようなものなのです。
「オフィスにゴキブリなんかいないよ!」と思われた方、それは正解であり不正解でもあります。確かに、普通の事務スペースではゴキブリの心配はありません。まれにゴキブリが紛れ込んでも大繁殖することはありません。しかし、ビルにはゴキブリが好む場所もあるのです。例えば、ゴミ置場、排水系、厨房設備(社員食堂)などです。事務スペース近辺でも給湯室に紛れ込んでくる可能性があります。これはネズミについても同じです。
カについては、排水系や地下駐車場でチカイエカが繁殖することがあります。地下駐車場の立体駐車設備は、床下になった部分は水がたまりやすく、そこでカが繁殖するのです。あるいは、排水溝の水の流れが悪いためにカが繁殖することもあります。しかも地下は1年を通じての気温変化が少なく、冬でも繁殖可能な場合もあります。そのカがエレベーターに乗り込んで、上の方の階に運ばれるのです。オフィス内でまれにカが飛んでいることがあるかもしれませんが、その源は地下設備にあると推測してかまわないほどです。
「ハエ・コバエ類」は具体的にはチョウバエ、ノミバエ、ショウジョウバエといった小型ハエを主に指します。これらは排水系や生ゴミで繁殖するもので、やはりゴミ置場や地下設備に現れます。ですからオフィス内ではそれらの存在には気づきにくいでしょう。
「イエダニなど吸血性のダニ」は、取り上げられているものの実際には被害はめったにない種類です。むしろアレルギー源になるダニの方が問題なのですが、これもアレルギーやかゆみの原因がダニであると断言することは難しいため、やはり問題になることは少ないものです。
ビルの中に入ってくる昆虫や節足動物はこれらだけではありませんが、数も被害も少ないためマニュアルには取り上げられていません。

同マニュアルでは、駆除の手順についても書かれています。ここまでわかりやすく「駆除」と書いてきましたが、これは「害虫害獣をひたすら殺していく」というのとは少し違います。同マニュアルに書かれていることをまとめると、「生息調査を行い、目標水準を設定し、人や環境への影響を可能な限り少なくする作業方法を実行する」となっています。これは言い換えると、「害虫害獣の完全根絶は不可能。影響を最小限にする方法をとる」という意味になります。
現実問題として、害虫害獣を完全に防御することは不可能です。害虫害獣を根絶できたとしても、また新たに侵入してくるものだからです。そのため、常に監視し、先手を打って対策を行うことが必要とされるのです。害虫駆除とは単に殺虫剤をばらまいておけばいいという仕事ではないのです。
薬剤(殺虫剤)を使用する場合も、なるべく毒性の低いものを選ぶことが勧められていますし、薬剤を使わずに侵入防止の工事を組み合わせることも手段のひとつとされています。

さらに同マニュアルを読んでいくと、ご家庭でも活用できるヒントがあちこちに書かれています。ゴキブリを例にとると、生息しそうな場所として「ガスレンジ、調理台、流し台、…、冷蔵庫・冷蔵庫の周り、…、壁の隙間、…」といった場所が挙げられています。これは一般家庭でもまったくおなじだと言えます(付け加えるならば浴室があります)。
ゴキブリ駆除の方法としては、薬剤による対策よりも先に「環境的対策」が挙げられています。これは「食物管理」と「清掃管理」に2つがあり、具体的には次のように書かれています。

1 食物管理
a)野菜等を冷蔵庫や密閉されたキャビネットに収納する。
b)厨芥類は始末し、使った食器などは、洗浄後、戸棚に格納する。

2 清掃管理
a)厨房の床は就業時間後に清掃し、厨房機器の上部、下部や裏側に食物残滓を残さないよ
うに片付ける。床の水分も拭き取る。
b)排水溝やグリストラップを清掃し、厨芥類は処分する。
c)ゴミ箱は就業時間後に洗浄し、内部に厨芥類を残さない。

つまり、整理整頓と清掃はきちんと行いましょう!ということです。上に挙げられた食材、厨芥(食べ物くず)、食物残滓(残りかす)といったものはゴキブリの食べ物になります。その食べ物を徹底的に除去してしまえばゴキブリも生きていくことはできません。これは非常に理屈に合った駆除方法なのです。殺虫剤を大量動員するよりも、きれいにお片づけする方が効果的なのです。

同マニュアルを読めば、プロがどのような方法で駆除しているか、その一端がわかります。もちろん、作業内容の詳細までは書いていないのでそのまま実行というわけにはいきませんが、役に立つヒントはあちこちにあります。やや難しくて意味がわかりにくい箇所もありますが、目を通す価値はあります。


ところで、飲食店については、ビル管理法とは別に「食品衛生法」によってやはりネズミ・害虫の防除が義務づけられています。具体的には各自治体の条例などで定められています。以下は東京都の例です。

東京都福祉保健局

食品営業施設における衛生措置の基準(公衆衛生上講ずべき措置の基準)」(PDFファイル)

食品衛生法の方にはビル管理法のようなマニュアルはありませんが、やっていることはだいたい同じようなものと思ってください。


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