Vol. 440(2009/1/11)

[OPINION]壁面緑化の落とし穴

地球温暖化防止とか省エネとかが叫ばれるこの時代、そろそろ流行になるかもしれないのが「壁面緑化」です。壁面緑化とは、ビルの壁面に植物をはわせようというものです。

壁面緑化が導入される動きが活発になっているのはメリットがあるからです。建物の壁を植物が覆っていると、直射日光をさえぎり建物が熱くなるのを防ぎます。また、植物は葉から水分を蒸散させているので気温上昇を抑える効果があります。その結果、夏場に冷房で使っているエネルギーを削減できるのでコスト削減が見込めますし、巡り巡って石油消費なども減らせますので「地球に優しい」ということになるのです。
また、無機質なビルの外見よりも、青々とした植物の方が景観的にも好ましいこともあるでしょう。
最近のトレンドにぴったり合う壁面緑化はこれからあちこちで増えていきそうな予感がします。

しかし、この「いきもの通信」で取り上げるということは、壁面緑化にはメリットだけではないデメリットがあるのです。

壁面緑化に使う植物は何でもいいというわけにはいきません。壁に貼り付いて成育できる種類、または支柱などにからみつくような種類を選ばねばなりません。このような植物はまとめて「つる植物」と呼ばれます。よく知られているツタは吸盤で壁にくっついています。ツタに名前が似ていますが分類上は別のグループになるキヅタは、茎の途中から根が出て壁にくい込みます。
支柱に絡みつく植物としては、キュウリやアサガオ、ゴーヤーなどが使われているようです。これらはあまり大きくはならないので、小さな規模の壁面緑化向きと言えるでしょう。
壁面緑化に向いた植物種はこのような種類に限られています。これが日本人の「あそこがやっているのと同じのをうちも」という性格と組み合わされるとどうなるでしょう。いくつかの種類の植物だけが広大な面積を占めるということになりかねません。植物種の寡占化は好ましいことではありません。寡占化の最大の懸念材料は害虫の大発生です。この場合の害虫とは、主にアブラムシ類になるでしょう。植物栽培をしている人ならばアブラムシはご存知のはず。アブラムシは植物の汁を吸う害虫です。同じ種類の植物が増えると、それを利用する種類のアブラムシも同時に大増加するリスクがあります。また、アブラムシが集団で飛行し周囲に迷惑をかけるおそれもあります。私たちが普段見るアブラムシには翅がありませんが、アブラムシは春と秋に翅のある世代が誕生し、移動のために大集団で飛びます。北日本で晩秋に大集団飛行する「雪虫」と呼ばれている昆虫もアブラムシの仲間です。
この問題を抑えるには、植物の種類を多様にする必要があります。植物種を分散することで、特定の害虫の大発生のリスクを抑えるわけです。そのためには広範囲の植物多様化を考慮したを計画を綿密に立てる必要があるでしょう。これは行政がやるべき仕事ですが、現状では個人・法人がそれぞれ勝手に壁面緑化を進めています。
単調な緑化が急激に進むと、必ず害虫の問題が発生するでしょう。私は現段階でこの問題を強く警告します。

壁面緑化の別のデメリットは、メンテナンスの難しさです。水やりをどうするのか、予想以上に繁茂した場合にどうするのか。壁面緑化は非常に高い位置まで成育することにもなりますので、高所での作業も必要になるでしょう。他にも、殺虫剤散布をどうするか、枯れたものをどうするか、窓清掃をどうするかといった問題も発生するでしょう。こういったメンテナンスの費用は毎年必要になります。そのための予算確保は計画段階で検討すべきことです。

また、つる植物のすべてが一年中常緑というわけではありません。壁面緑化ではナツヅタがよく使われますが、これは冬の間は葉が落ちてしまい、まるで枯れたような外見になってしまいます。この姿を不快に思う人がいるかもしれませんし、「壁面緑化が枯れている、失敗だ」と勘違いする人もいることでしょう。こういったこともまたリスクとして事前に折り込んでおかなければなりません。

壁面緑化を実行するのなら、そのメリットとデメリットを事前によく理解して綿密に計画を立てるべきです。最近の流行だから、とか、エコだから、などといった程度の認識では後々お荷物になってしまうことでしょう。


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