Vol. 442(2009/1/25)

[今日の事件]新種はピンクのリクイグアナ

[ON THE NEWS]

ガラパゴス諸島のイザベラ島に生息するピンク色のリクイグアナが新種であることがわかった。イタリアやエクアドルなどの共同研究チームが発表した。
このピンク色のリクイグアナは1986年に確認された。遺伝子解析によると500万年以上前に分化したらしい。
(SOURCE:朝日新聞(東京版)2009年1月12日)


生物学の世界では大型の新種が見つかることは現在ではきわめてまれなことです。目につきやすい大型生物はたいてい既に発見されてしまっているからです。ですから今回のようなイグアナの新種というのはかなり意外なものです。しかもガラパゴス諸島というよく知られた、特に秘境でもない場所で新種発見というのは驚きのニュースです。
もっとも、ガラパゴス諸島の大部分は立ち入りが制限されており、そのような地域では夜間のキャンプも禁止されているため(船で宿泊するしかない)、研究者でもそう頻繁に現場に行けるわけではありません。これが新種確認が遅れた大きな理由でしょう。

まずは基本事項から見ていくことにしましょう。
ガラパゴス諸島は太平洋の東の端、エクアドルの沖にある島々です(エクアドル領)。ちょうど赤道直下にあります。

Googleマップでのガラパゴス諸島全体地図(「航空写真」に切り替えて見てください)

西にある最大の島が今回話題のイザベラ島で、だいたい沖縄島と同じぐらいの大きさがあります。イザベラ島には火山が連なっていて、北からウォルフ火山、ダーウィン火山、アルセド火山、シエラネグラ火山、セロアズル火山と並んでいます。ピンク色のリクイグアナが生息するのは一番北のウォルフ火山です。

ウォルフ火山

ガラパゴス諸島はこれまで大陸とつながったことはありません。ガラパゴス諸島の位置は「ホットスポット」と呼ばれ、地下のマントルからマグマが湧き上がってきています。それが火山島を作り出したのです。ガラパゴス諸島を乗せた海洋プレート(地殻)は東南方向にゆっくりと移動しています。ですから、東南にあるエスパニョラ島が最も古く、300〜500万年前に形成されたとされています。逆に北西にある小さな島々は新しく、これから大きく成長していくだろうと予測されています。

そのガラパゴス諸島にはこれまで3種類のイグアナが生息するとされてきました。
1種類はウミイグアナです。ウミイグアナは世界で唯一海に生息するトカゲです。これはよくテレビなどでも紹介されるのでご存知の方も多いでしょう。ほぼすべての島の海岸部に生息しています。
陸部には2種類のイグアナが生息しています。それぞれガラパゴスリクイグアナ、サンタフェリクイグアナです。
ガラパゴスリクイグアナは、胴から尾が濃い茶色、頭と四肢は黄色です。主な生息地はイザベラ島北部、フェルナンディナ島です。
サンタフェリクイグアナは全体に褐色がかっています。サンタフェ島のみに生息します。
ちょっと見分けにくいかもしれませんが、慣れれば簡単です。また、生息している場所が重なっていませんので、現地で見間違えることはないでしょう。
なお、大きさは3種とも全長120cm(尾を含む大きさ)ほどで差はあまりありません。

サンタフェ島

ピンク色のリクイグアナは、これまではガラパゴスリクイグアナの体色変異か亜種と考えられていたのでしょうが、今回の研究でかなり古くから別々の種であったことがわかったわけです。
ここでその年代に注目していただきたいのですが、最も古い島ができたのは300〜500万年前、ピンク色のリクイグアナが現れたのは500万年以上です。ということは、このイグアナはガラパゴス諸島ができる前からそこにいたことになってしまいます。これはどういうことでしょう。
実は、ガラパゴス諸島には今は海に沈んでしまった古い島があったと考えられています。ホットスポット上では新しい島が形成されますが、そこから離れると島は大きくなることができずやがて海に消えていきます。イグアナたちはそのような消えてしまった島に出現したと推測されています。
しかし、大陸とつながったことない孤島群にイグアナが突如出現したはずがありません。イグアナは南米大陸から海流に流されて島にたどり着いたのだろうと考えられています。確かに、南米大陸にはグリーンイグアナなどイグアナの仲間がたくさんいます。ガラパゴスゾウガメも同様に流れ着いたのでしょう。
ガラパゴス諸島のイグアナたちは、元々は同じ種であったと考えられています。そこから海に適応したウミイグアナが分かれていったのです。

ガラパゴス諸島は孤立した場所であったため、外との交流がほとんどない環境で生物たちは独自の進化を遂げてきました。それがイグアナたちであり、ゾウガメなのです(鳥類、特に海鳥は長距離移動できるので外界との交流はあった)。ガラパゴス諸島にはそこでしか見られない独特の生物がたくさんいます。ガラパゴス諸島の自然が特に貴重とされるのはそのためです。
大陸とつながったことがない島々という意味では日本の小笠原諸島も同じです。小笠原諸島には独特の生物が多く、「東洋のガラパゴス」と形容されることもあります。

今年はチャールズ・ダーウィン生誕200年、「種の起源」から150年になります。ダーウィンは若い頃にビーグル号に乗って世界1周をしており、その際にガラパゴス諸島にも立ち寄っています。ここでダーウィンは後の進化論につながる見聞をしました。ガラパゴス諸島の独特な進化を遂げた生物たちが進化論のヒントになっていったのは当然のことでしょう。


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