いきもの通信 Vol.458[今日のいきもの]ハクビシンの基礎知識 

Vol. 458(2009/7/12)

[今日のいきもの]ハクビシンの基礎知識

「東京タヌキ探検隊!」のホームページでは、タヌキだけでなくハクビシンやアライグマの目撃情報も集めています。なぜタヌキ以外も情報収集するのかというと、これらはお互いに誤認されやすい動物だからです。タヌキを見た、という情報をよく聞いてみると、実はハクビシンだった、ということは時々あります。ならば、ハクビシンもアライグマもまとめて面倒見ましょう!という方針にしたのです。
ちなみに、ネット検索から「東京タヌキ探検隊!」のホームページに来る時の検索語のトップはなんと「ハクビシン」で、タヌキよりも多いのです。Googleで「ハクビシン」を検索してみると、「東京タヌキ探検隊!」のページが10位以内になっていることもわかります。

ところで、「ハクビシン」でネット検索すると駆除業者のページが上位に出てきたりするのでびっくりする人も少なくないようです。そのため、「ハクビシンは危険な動物」と誤解されることがあるかもしれません。
今回はハクビシンという動物を正しく理解するための話です。


ハクビシンは頭胴長51〜76cm、尾長40〜60cmです。ネコや小型犬に近い大きさです。
外見は胴長短足で、かなり尾が長く見えます。イタチにも似ていますが、ハクビシンの方が尾が長いでしょう。
頭が小さいので「小顔」っぽい感じがするはずです。冬毛のタヌキは毛が伸びてもふもふしているので明らかに区別はできるはずです。
体色は全体に濃い褐色です。タヌキは明暗のパターンがありますので見分けるポイントになります。
顔の真ん中に縦に白い模様があり、これが特徴です。ハクビシンは漢字では「白鼻心」と書きますが、これは顔の白い模様のことを指しています。
(タヌキ、アライグマなどとの比較はこちらのページをご覧ください。)

ハクビシンは雑食ですが、果実を特に好みます。例えば柿やビワ、ミカン(柑橘類)などです。ハクビシンは中国語で「果子狸」と書きます。「果子」とは果実、果物のことで、食性を表した命名です。ちなみに、中国語では「花面狸」や「白鼻狗」とも呼ばれるそうです。

ハクビシンの特徴のひとつは、超絶な運動能力です。塀の上を歩く、屋根の上を歩く程度ならネコでもできることですが、ハクビシンはなんと、電線を歩くこともできます。これはタヌキやネコにはできない芸当です(都会の動物で電線を渡れる哺乳類は他にはクマネズミしかいない)。また、ネコが歩けないような橋の細い欄干を歩く姿が目撃されたこともあります。

ハクビシンが都会でどうやって生活しているかは謎だらけです。私の所に届く目撃情報数から推測すると、東京都23区内には数百頭が生息しているはずですが、ねぐらや子育てについての情報は皆無です。食べ物は、柿やビワが好みだとわかりますが、果実は季節限定のものです。果実がない時期には、何か他のものを食べているはずです。おそらくタヌキやネコと共通するものを食べているのでしょう。

ハクビシンの性格は、特に凶暴というほどではありません。「凶暴だ」という根拠すらありません。ハクビシンが逃げ場のないところに追いつめられれば逆襲することはあるでしょう。ですが、そういう状況ならどんな動物でも同じような行動をとるものです。また、人間が執拗にちょっかいを出すとかみつくかもしれませんが、これもまた他の動物でも同じことです。ハクビシンは人間を見たら必ず襲ってくる、というような動物ではありません。
「東京タヌキ探検隊!」に寄せられる情報には、ハクビシンはネコに対して逃げ出す、というものもあります。どうやらネコよりも弱いようなのです。

ハクビシンはSARS(重症急性呼吸器症候群)でも話題になったことがあります。SARSの原因ウイルス(新コロナウイルス)はハクビシンに由来するとされたためです。確かにハクビシンが何らかのウイルスや病原菌を持つ可能性はあります。しかし、それが直ちに人間に問題なる可能性は低いものです。ウイルスや病原菌を持つのはハクビシンに限った話ではありません。ウイルスや病原菌が怖いならあらゆる動物を殺さなければならないでしょう。
ブタ・インフルエンザが流行ったら、ブタやイノシシをすべて殺せば問題解決でしょうか?
鳥インフルエンザが流行ったら、あらゆる鳥を殺せば問題解決でしょうか?
そうではありませんよね。私たちは動物たちとは共存していかなければならない運命にあるのです。
そもそも、野生動物には接触しなければ感染症の問題はほとんどありません。接触しなければ絶対安全とも言えませんが、とにかく接近しすぎないように注意すればいいことです。


ハクビシンは時々「害獣」とされることがあります。「害獣」とは、人間生活に何らかの被害を与える哺乳類、という意味です。

被害の代表は農業被害です。前にも書いたように、ハクビシンは果実が特に大好きです。果樹農家にとっては敵です。
害獣対策は、普通は農地に入れないように柵や電気柵を設置するのが常道でしょう。ところが、運動能力が高いハクビシンは、これらの障壁を軽々と突破してしまいます。高い柵を作っても乗り越えますし、電気柵があっても近くに木があればそこをつたって侵入してくるでしょう。また、体が細いのでちょっとした隙間からでも入り込めます。果樹農家にとってハクビシンはかなりやっかいな相手でしょう。私は農家の現場を知らないので、有効な対策を提案できそうにありません。

もうひとつの代表的な被害は、家屋被害です。これは民家の屋根裏、天井裏にハクビシンがすみつく、というものです。ただそこにいるだけなら我慢はできるかもしれません。しかし、そうはいきません。ハクビシンはそこで糞尿をします。天井に汚れがにじみ出してきますし、においがかなりくさいです。また、ドタバタと天井裏を走り回ります。ネズミよりも大きな足音ですし(ネコが走り回ることを想像してみてください)、主に夜に活動します。住民にとってはゆっくり寝てもいられません。
被害対策の前に、まず法律のことを言っておかなければなりません。そもそも、鳥獣保護法で野生哺乳類は捕獲も殺傷も禁止されています。ただし、何らかの被害がある場合は駆除可能ではあります。その判断は行政の窓口である都道府県にまずたずねてください。家屋被害なら駆除は許可されると思いますが、それでもたいていは捕獲は可、殺すのはダメ、ということになるのではないかと思います。なお、捕獲する場合も都道府県の許可が必要になります。捕獲の方法は、箱ワナを使うことになるでしょう。トラバサミは許可されないはずです。また、捕獲しても現場近くで放すのが原則ですので、以下に述べる「穴ふさぎ」も同時に行っておく必要があります。
捕獲も殺傷もしない穏便な方法としては「追い出し」があります。ただ、追い立てるとますますこもってしまう可能性もありますので持久戦も覚悟しましょう。
別の穏便な方法は「穴ふさぎ」です。ハクビシンはいつまでも家の中にいるのではなく、食べ物を探しに必ず外に出かけるはずです。まず、ハクビシンがどこから家に入ってくるのかを特定し、夜、ハクビシンが外出するのを確認してから、出入口になっている場所をふさいでしまうのです。

このような被害が発生しているならば、何らかの対策は行ってかまいませんし、行うべきです。
しかし、もし問題が何も発生していなければ、何もしなくていいのです。ハクビシンが近所を歩いている、というだけならそのまま放置しておいてかまいません。
「ハクビシン=害獣」と短絡するのはやめてください。


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