Vol. 459(2009/7/12)

[EXTRA]「害虫の科学的退治法」

害虫退治はサイエンス!

今回は新刊の紹介です。タイトルは「害虫の科学的退治法」、サブタイトルは「大嫌いなゴキブリ、カ、ハエ、ムカデなどをわが家から追いだす方法は?」です。サブタイトルは長すぎるので今後省略します。

さて、今回の本は新書です。ソフトバンククリエイティブ社のサイエンス・アイ新書です。この新書はサイエンスをテーマにした、オールカラーのシリーズです。
私がアスキーで編集者をしていたことを知っている人にはこれはちょっと驚きかもしれません。かつてはアスキーとソフトバンクはライバルと言われていたからです。私にとってソフトバンクは商売敵だったわけです。また、私にとってはソフトバンクの孫社長よりもアスキーの西社長(当時)の方が好きでしたのでなおさらです。それに、私はプロ野球球団名を今でも「ホークス」としか呼ばないほどなのです。
そんな私がソフトバンク系の出版社から本を出すのです。
もはや時代は変わってしまいました。かつてのアスキーは存在しません。ソフトバンク系の出版社でも関係ないのです。
(でもプロ野球球団名はこれからも「ホークス」と呼び続けますが。)


今回の本について、「なぜ害虫?」と驚かれた方もいることでしょう。私、宮本拓海は野生動物、最近は特に東京タヌキで知られているからです。「いきもの通信」でも害虫の話はほとんど出てきません。しかも、この本のプロフィールには害虫に関することが載っていません。では、業界を取材して書いたものかというとそうでもありません。業界関係者がこの本を読めば「これは現場をよく知っている人が書いている」とすぐわかるでしょう。
このあたりの事情はいろいろとややこしいことがあるので、詳しくは何も語れません。関係者がこのホームページを読んでいるようですので。
このことについては、10年ぐらい経ったら話せることもあるでしょう。

意外なことですが、害虫駆除、害虫駆除業界についての本というものはほとんどありません。害虫駆除を科学的に語ったものも当然ほとんどありません。ちょっと不思議なことです。この本では、害虫駆除を科学的に語ってみよう、というのが第一のコンセプトです。
つまり「害虫駆除はサイエンスだ!」というわけです。
例えば殺虫剤を買う時に、あまり意識せずに店頭に並んでいるもの、有名なものを選んでいる人は多いと思いますが、「なぜこの殺虫剤なのか」「どの殺虫剤が効果的か」ということを考えながら選んでほしいのです。

また、悪質な業者のせいでこの業界に偏見を持っている人もいるでしょう。この本を読めば、かなり誤解されている業界を正しく理解できるのではないでしょうか。ただ、さまざまな都合上、業界の話をたっぷり書けたわけではありませんが、その様子が少しはわかるでしょう。
例えば、どうも「害虫駆除」というと、「部屋中に煙のような殺虫剤を大量に噴霧する」というイメージがいまだに強いようなのですが、今時そんな業者はいませんよ(笑)(少なくともゴキブリ相手にそんなことはしません)。


この本は対象を一般家庭向けとしています。普通の方に読んでいただきたいからです。一般家庭でどのように害虫駆除をするのか、を書いています。
一般向けとした理由は、サイエンス・アイ新書の性格を考慮してのことです。新書は気軽に手に取って読んでいただきたいものです。難しい化学式やらを並べても普通の人は読んでくれないでしょう。そして、すぐにご家庭でも実行できる実用性も必要です。
業界の現場の話があまり登場しないのは、このような理由もあったからです。業界の特殊な殺虫剤や機械の話をしても普通の人には面白くないし役に立たないでしょうから。

本書では、半分がゴキブリ対策で占められています。害虫の王者といえばやはりゴキブリ。ザ・キング・オブ・キングです。実際に、プロの現場でもゴキブリに関するものは9割以上になると思います(害獣(そのほとんどはネズミ)は除く)。
その他の害虫は、一般家庭で問題になりやすいものを選びました。ただし、屋内害虫をメインにしていますので、ハチや毛虫など扱っていない害虫も多くあります。ちなみに、スズメバチは専門の業者に任せてしまうべきで、素人が下手に手出しをしてはいけません。カマドウマが登場しないのは、私がうっかり忘れていたためです。東京ではあまりカマドウマの話を聞かないものですから、ついうっかり。

今回ちょっとやっかいだったのは、イラストとの兼ね合いです。サイエンス・アイ新書シリーズをご覧になるとわかるのですが、オールカラーで見開きに文章と図版(写真・イラスト・マンガ)がセットになっているレイアウトが基本パターンになっています。つまり、1テーマ当たりの字数がほぼ固定されてしまっているわけです。それに合わせて文章を書くのはかなり難しい!のです。
ですので、落とさざるをえなかった小ネタがあれもこれもと残ってしまいました。内容的に中途半端な印象を与えることがあるとすれば、こういう事情があったから、ということでご了解ください。


さて、ここからは毎度恒例のイラストの話です。
今回はイラストレーターの方にほとんどのイラスト・マンガをお願いしていますが、宮本自身もイラストを描いています。だいたい想像できると思いますが、厳密さが要求される害虫のイラストがそれです。どのイラストが宮本の担当なのかはこちらのページをご覧ください。

今回は新書なので、各ページの面積はとても小さくなります。ですからイラストもかなり小さく印刷されるとわかっていたのですが、やっぱりいつものようにオーバースペックな細かいイラストを描いてしまったのでした(笑)。これでも抑えて描いたんですがね…。おかげで無駄に時間がかかってしまったような気がします。

世間には害虫のイラストを描ける人は少ないでしょう。これは害虫の人気がないからだけではありません。害虫の資料・写真資料というのがかなり少ないからなのです。資料が少ない理由のひとつは、害虫というものがとても小さいためです。大きさ数mm程度となると、普通にカメラで撮ることはできません。少なくとも実体顕微鏡が必要となります。そのため、写真撮影できる人がかなり限られてしまいます。
また、顕微鏡写真というものはピントが合う範囲がかなり限られてしまうため、イラスト資料としては使いにくいことがあります。
つまり何が言いたいのかというと、害虫のイラストを描くには自身で対象を採取し、実体顕微鏡を扱い、観察し、撮影する、という経験が必要とされるのです。まあ、そこまでしなくてもそこそこのイラストは描けますがね…。それに、すべての害虫を採取することなど不可能ですので、私もよく知らない害虫はたくさんあります。
ただ、こういった経験がイラストに大きく役立っているのは事実です。

既刊の「シンカのかたち 進化で読み解くふしぎな生き物」に続き今回もゲテモノ動物ばかりですが、こういう動物をきちんと描けることこそが私の役割だと思っています。あらゆる分類群の動物を描く、それができるイラストレーターがどれほどいるでしょうか?


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