Vol. 467(2009/10/11)

[今日の本]鳥の骨探

買い物の多くをネットでするようになったこの頃は、近所の本屋は別として、大型書店にはあまり行かなくなりました。買うべき本はお店に行かなくてもわかりますし、専門書は品切れしていたりしますから…。しかし、それでは面白い本を見逃してしまうことがあります。ですから時々は大型書店に行かねばならないのです。
で、先日久しぶりに大型書店へ行った時のこと、私の目を引く本を発見しました。タイトルは「鳥の骨探」。理系書籍に詳しい人ならこのタイトルにピンと来るはずです。そう、隠れた名作「骨単」です。そのサブタイトルが「語源から覚える解剖学英単語集」となっていることからもわかるように、人間のすべての骨を図示し、日本語名、英名には振り仮名を付け、ギリシャ語、ラテン語の語源までも説明した本です。「骨単」を初めて見た時、これは面白い!と思いました。思ったものの、この本は医学・解剖学向けの内容、私にはちょっと役に立たないな、と思いました。「骨単」は医学教育方面でよく売れたらしく、その後、筋肉の「肉単」、脳・神経の「脳単」、内臓の「臓単」、と発売されていきました。ちなみに、私は「肉単」を買いました。人物のイラストとか、メカニックのデザインに必要なものだと思ったからです(なぜメカが関係するのかは多分理解されないでしょうが…(笑))。


そして、今回の「鳥の骨探」です。「単」が「探」になってるし、本の中身のデザインがずいぶん違っているので「骨単」とはまったく別のものと最初は思ったのですが、出版社は同じでした。今度は人間ではなく動物の世界へと踏み出したのです。
最初に書店でこの本を見た時は買わなかったのですが、すぐに「これは早めに買っておくべき本だ」と思い直して後日購入しました。人間の骨なら医学方面でそれなりの需要はありますが、動物の骨はかなりマニアックな世界で、需要はほとんどないはずです。このような本は少ししか印刷されないはずで、品切れになると次にいつ印刷されるかわからないおそれもあります。そうなると何年も待たされる可能性もあります。ですからこれはすぐに買わなければ!と決断したのです。

さて、その「鳥の骨探」の中身です。これはタイトルからも明らかで、鳥類の骨の写真をひたすら並べたものです。読み物のページもありますが、オマケ程度のものです。ただ、鳥の体の構造を知る上では大切なことも書かれているので必ず目を通すべき部分です。
写真は、全身骨格、代表的な骨を主要な分類群からチョイスしています。数えてみると約100種が掲載されていますが、全身骨格のみ、という種もあります。
これだけの収録数では実用的にはちょっと問題があると言わざるをえませんが、これ以上のレベルを求めるとかなり高度なものになりますし、写真撮影や編集に膨大な時間が必要になるでしょう。この本は専門家向けではなく一般の人も読めるものを目指しているようですので、このような教科書的なもので正解です。

ただ、ちょっと文句を言っておきたいのは、振り仮名がつけられていないことです。「鳥口骨」(うこうこつ)とか「足根中足骨」(そっこんちゅうそっこつ、または、そくこんちゅうそくこつ)とか「橈側手根骨」(とうそくしゅこんこつ)とか、読み方がわかりにくいものが多いのですよ、解剖学の世界は。英語名についても、その発音をカタカナで付記してほしかったですね。「肉単」の方ではちゃんとやっているのに…。こういう手間をかけるだけでも読みやすさ、使いやすさは変わってくるものなのですが。


骨の本なんて役に立つのか?読んで面白いのか?と思われる方は世間には多いことでしょう。私は、骨は動物のことを物語っている、と思います。骨を知らずして動物は語れません。動物のイラストを描くならば、その動物の骨についての知識を持っておくべきでしょう。そうすれば、動物の歩く姿、走る姿、立ち姿などを正確に描けるようになるはずです。ですが、私たちは骨に接する機会は皆無といっていいほどです。これでは勉強のしようもありません。骨を探して野山をさまようわけにもいかないでしょう。骨の写真をたくさん集め、それを解説した本があればずいぶんと助かります。「鳥の骨探」はまさにそういう本です。

鳥が出たなら、次は哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、と脊椎動物すべてをシリーズ化してほしいものです。どれもあまり売れそうにないタイトルですが(笑)、出版社にはぜひチャレンジを希望します。


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