Vol. 479(2010/3/14)

[今日の事件]大都市に進出する動物たち

先日、朝日新聞に興味深い記事が2つ載っていました。

まず、2010年2月15日夕刊の記事。2009年11月、ニューヨーク市クイーンズ区でコヨーテ1頭が現れました。さらに、2010年1月、同マンハッタン区のハーレムで1頭、2月にコロンビア大学で3頭目撃されました。

もうひとつの記事は2010年2月19日付けで、こちらはフランス・パリです。約2年前、国民議会(下院)前でキツネが目撃されていました。そして昨年夏、中心部でキツネ1頭が交通事故死しました。

いずれの記事でもこれらの動物が鉄道線路をつたって移動してきたらしいと推測されています。

そして東京です。
東京都23区にタヌキが普通に生息していることは、この「いきもの通信」でも東京タヌキ探検隊!のホームページでも紹介していることです。
タヌキもコヨーテもキツネも食肉目イヌ科の動物で体格も似ています。似たような動物が大都市に進出しているという、興味深い現象です。
私の東京タヌキの研究から言えることは、コヨーテもキツネも都市進出はつい最近のことではなく、10年以上前から始まっていたのではないかということ、そして、実際には予想以上の数が既に生息しているだろうということです。ただ、タヌキ、コヨーテ、キツネはそれぞれ食性も行動半径も異なっていますので、タヌキの例をそのまま当てはめるのでは正確ではないでしょう。それでも東京タヌキの事例は参考になるものと思います。

新聞記事によると、ニューヨークでもパリでも鉄道が侵入経路として上げられています。東京タヌキの場合も、西武線や京王線沿いに分布が多いことはわかっていますし、実際に線路や線路沿いでの目撃もあります。しかし、線路が唯一の移動経路というわけではありません。広い河川敷を利用することもありますし、住宅街を抜けていくこともあります。ニューヨークもパリも鉄道線路以外の経路も使っているはずです。
ただし、ニューヨークの場合は鉄道が重要な経路になっているのは確実です。ニューヨーク市のマンハッタン島は文字通りの島ですので、自動車道路か鉄道をつたって来なければなりません。また、クイーンズ区も島ですのでやはり道路・鉄道で来るしかありません。道路か、鉄道か、侵入経路を明らかにすることは研究の重要課題になるでしょう。マンハッタン島は南北約20kmですので、東京都で言うと環七通りの直径に匹敵する長さになります。

もう一方のパリは、環状道路に囲まれた領域を都心部と考えるのがいいでしょう。この環状道路は直径約7kmぐらいですので、東京都では明治通りよりやや大きい程度になります。東京都心に近い大きさです。パリの環状道路は城郭の跡だそうですので、この内側は古くから都市開発され、緑地の少ない領域です。環状道路の東に接してヴァンセンヌの森、西に接してブローニュの森があります。どちらもかなり広大な森ですのでキツネなら生息できそうです。また、環状道路の内側にも各所に公園があって、キツネの生息を助けることができるのではないかと思われます。パリの場合は鉄道だけでなく各所の緑地をつたって移動していることが予想できます。

ニューヨーク、パリ、とくれば次はロンドンが気になるところです。ロンドンは中心部にもハイドパークやリージェントパークなどがあり、かなり緑が多そうです。こちらにもキツネが生息しているのではないでしょうか。

タヌキもコヨーテもキツネも、生態系ピラミッドでは頂点に立つ動物です。つまり、これらの動物が生息しているということは、その食べ物になる動物や植物が十分に存在していることを意味しています。これら大都市にもそれなりの自然生態系があることを証明しているのです。
これらの都市でもコヨーテやキツネの調査研究をしている人がいるのでしょうか。もしそうならば私の調査研究と比較することもできるわけで、いろいろな共通点も相違点も見つかるでしょう。東京タヌキの研究もローカルなものではなくなるわけで、ますます調査研究に力を入れていかなければならないな、と思わずにいられません。


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