Vol. 480(2010/3/21)

[今日の事件]トキ襲撃死亡事件

「トキ襲撃死亡事件」とタイトルに書いていますが、「トキが動物を襲った」のではなく、「トキが襲われて死亡した」という意味です。
2010年3月10日、新潟県佐渡市の佐渡トキ保護センターのケージでトキ9羽が死亡する事件がありました。足跡などからケージに侵入したテンがトキを襲ったと推測されています。テンは3月14日にもまだケージのどこかにひそんでいるらしいとのことです。

このニュースを聞いた時、私はひやりとしました。犯人はタヌキかもしれない、と思ったからです。タヌキというとおだやかそうなイメージがありますが、ニワトリに執着することがあり、ニワトリ小屋に侵入して襲って食べることがあります。こんな事件でタヌキのイメージが悪くなってしまうのは困るなあ、と心配になったのです。犯人はタヌキではないことはすぐに判明しましたが、テンが悪者扱いされるのもいいことではありません。野生動物だって何かを食べなければ生きていけません。相手が特別天然記念物であろうとなかろうと、彼らには関係ありません。
トキを守るならば、完璧な対策を準備しておく必要があります。それを怠ったのは施設管理者の責任です。責めるべきは野生動物ではなく人間なのです。しかも全体で100羽ちょっとの内、9羽を一度に失ってしまうのはかなりの痛手です。人工繁殖は順調に進んでいるとはいえ、今後の計画に確実に影響するでしょう。

害獣対策の基本は「侵入の防止」です。中型以下の大きさの動物(イヌ、ネコやそれより小さいサイズ)が相手ならば隙間をふさぐのが基本的な戦術です。当たり前の方法ですが、これが最も確実な対策なのです。
隙間をふさぐ場合、どのような動物の侵入を想定するかでやり方も違ってきます。タヌキの場合は10cm×10cmの隙間をくぐってこられます。しかし、金網や高い塀を登ることはできません。そこで、高さ1.5m以下の位置の隙間をふさぐか、隙間があったとしても5cm×5cm以下にすれば十分に侵入を防げます。また、タヌキは地面を掘ることがあるので、塀や壁の地下にも侵入防止のために板などを埋め込んでおくと万全です。タヌキの運動能力は高くないので、防御はそれほど難しくありません。
しかし、小型で金網でも壁でもよじ登るような動物、テンやイタチなどの場合はもっと徹底した対策が必要になります。隙間は2cm×2cm以下にすべきですし、地面近くだけでなく壁の上の方や天井なども同様に隙間をふさがなければなりません。完成してから隙間をふさいでいくのでは大変なので、設計段階から隙間ができないように考えておく必要があります。
今回の事件のケージには263ヶ所もの隙間があったそうで、これでは動物の侵入を防ぐことはできません。今まで事件が起こらなかったことが不思議なぐらいです。
このケージはトキを自然環境に慣らすためのもので、80m×50mの巨大さです。施設が大きいということは、壁や屋根の総面積も大きくなります。それだけ守備範囲が広くなるということであり、対策は念入りに行わなければならないことを認識しておく必要がありました。

今回の事件は「人災」と言っていいものでしょう。施設管理者はもっといろいろな事態を想定すべきでした。施設の設計者も認識が甘かったと言えます。犯人のテンを捕まえて殺しても問題解決にはなりません。近くの山には他のテンが何頭もいるはずで、またいつか侵入されるおそれがあります。害獣は殺しても問題解決にならないことが多いのです。
害獣を絶滅させれば問題は完全に解決するでしょうが、それは自然保護や環境保護に反することです。トキを保護するためにテンを絶滅させる、というのは笑えないブラックジョークです。
結局、「隙間をふさぐ」のが最善の対策です。これはあらゆる害獣対策にも通じる方法です。これは消極的にも見えますが、防御的な対策こそが害獣対策の王道なのです。


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