Vol. 483(2010/4/25)

[OPINION]野生動物を食べない

捕鯨問題は長年にわたって論争が続いています。クジラ・イルカは殺してもよいか否かの論議はいつもでたっても平行線です。

捕鯨反対派の意見として、「クジラ・イルカは頭がいい動物だから殺してはいけない」というものがあるとされていますが、これは本気の意見でもないでしょうし、多数派でもないでしょう。なぜなら、「頭の悪い動物は食べてもいいのか?」という反論はすぐに出てくるでしょうし、「頭の良し悪しはどうやって計測するのか?」というさらなる難問が出てくるからです。
また、「動物を殺すのはかわいそう」という意見があるかもしれませんが、これもまた「では牛肉や豚肉はかわいそうではないのか」ということになり、植物食の生活をしなければならなくなります。さらにつっこむと、「植物を食べるのはかわいそうでないのか?」ということにもなります。これでは私たちは何も食べることができません。

捕鯨問題に限らず、最近はマグロの問題も出てきました。これからはマグロをあまり食べられなくなるかもしれない、と心配した日本人は多かったでしょう。
これらは食文化の問題ともされ、日本固有の食文化を守ろうとしたがる勢力は必ずいるものです。ただ、マグロ食が盛んになったのは近年のことですし、鯨食も現在ではほぼ消え去りつつあり、これらが本当に「伝統的な食文化」と言えるのかどうかは疑問です。
無理にクジラを食べる必要もないし、マグロがダメでも他の寿司ネタがあるさ…と考える人もいるはずです。このあたりの問題はどういう考え方を持てばいいのか迷っている人が実際にはとても多いのではないかと思います。
そこで、今回は私からひとつの考え方を提案したいと思います。それは
「野生動物は食べない」
という考え方です。

これは生態系維持の視点に基づく考え方です。野生動物は自然生態系を構築する要素です。それらは生態系のバランスの中に存在しています。人間が野生動物を多量に捕獲すると、生態系がくずれてしまうおそれがあります。ですから、食料のために野生動物を捕獲することは自然生態系のために良くないことなのです。食料のためでなくとも、工業目的など大量に消費するために野生動物を利用するのは良くないことになります。
食料などとして利用するならば、家畜(家禽なども含む)、つまりウシ・ブタなどを利用するべきです。これなら人間がコントロールでき、自然生態系への直接の影響は避けられます(牧場を作るために森林が切り開かれたりすれば影響はありますが)。

この考え方で行くと、野生動物であるクジラ・イルカを食べるのは自然生態系にとって良くないことになります。マグロの場合でも同じです。マグロを食べるなら完全養殖のものを食べるべきです。

「野生動物は食べない」という考え方はそれほど難しい理屈でもなく、感情的な意見でもありません。これなら比較的受け入れやすいと思うのですがいかがでしょうか。

ただ、この考え方を厳密に当てはめると窮屈になってしまうのは確かです。
海産物の多くは野生のものですから、影響がかなり大きいでしょう。また、害獣駆除で得たシカをシカ肉料理にすることもできなくなります。こういったものまで完全に禁止してしまうのはやり過ぎとなってしまうでしょう。
では、どこに妥協点を設ければいいのでしょうか。

無難な妥協点は「自然生態系への影響を最小限にとどめる範囲での野生動物の捕獲は可」というところでしょう。大量に消費することがまずいのであって、地産地消のように限定されたものならば許容してしまうのです。クジラなら伝統的な沿岸捕鯨は許容範囲内でしょうし、害獣駆除も許容範囲内です。
ただこれには注意点もあります。それは「自然生態系への影響を常に監視することが必要」ということです。「数が多いから多少捕獲しても多分大丈夫」というレベルではダメです。現在の生息数がどれぐらいで、どの程度の捕獲ならどの程度の影響が出るのか、他の動植物への影響はどうなるのか、などなど客観的なデータによる常時監視は絶対に必要です。

以上をまとめると「野生動物は原則食べない。ただし自然生態系へ影響を及ぼさない程度には利用して良い」となります。
この考え方ならば感情論とか文化論の果てしない論争に巻き込まれないと思うのですがいかがでしょうか。


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