Vol. 485(2010/5/23)

[東京タヌキ探検隊!・今日の事件]皇居でアライグマ捕獲

先日、夕刊を広げて目に入ってきた記事に私はびっくりしました。皇居でアライグマが捕獲されたという内容だったのです。「まさか!信じられない!」と思ったのではありません。実は、私は昨年から皇居にアライグマが生息していることを確信していました。やっぱり本当にいたということがこの記事で確認できたわけです。しかしこのタイミングで新聞記事になるとは思わなかったのでびっくりしたのです(私への取材はありませんでしたし)。
(このニュースの最初の報道は5月17日の朝日新聞と時事通信で、その他のマスコミが後追い報道をしたようです。)

新聞記事から一部を引用してみましょう。(朝日新聞・東京版、2010年5月17日・夕刊より)
「宮内庁によると、昨年9月下旬、皇居内を巡回中の皇宮警察の護衛官からアライグマを見たとの情報があった。タヌキの生態調査のために設置していた赤外線カメラで監視を続けたところ、翌10月、アライグマが映っていた。
生態系がダメージを受けることを懸念した同庁は、有害鳥獣の捕獲許可を東京都に申請。皇居内にわなを五つ設けて捕獲に乗り出し、今年3月末に捕獲した。鳥獣保護法に基づき安楽死させ、その後、研究のために国立科学博物館に譲り渡した。」

皇居では現在、国立科学博物館が自然環境調査に入っており、捕獲にはその協力もあったのではないかと思われます。捕獲個体が動物園ではなく国立科学博物館に渡されたのはもそのためでしょう。
半年もワナを設置していたということは、タヌキが誤って捕獲されたこともあったはずで、おそらくタヌキの研究にも役立ったことでしょう。なお、タヌキは捕獲されても放獣されたはずですので心配することはありません。

さて、東京タヌキ探検隊!では東京都23区のタヌキ、ハクビシン、アライグマについての目撃情報を分析した報告書を公開しています。今年2010年1月公開した報告書は「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2010年1月版)」です。
この中で最後の方にアライグマについて少しだけふれています。ちょっとしか書いていないため、「アライグマには関心が無いのか?」と誤解される方もいますが、これは目撃数が少なすぎるために十分な分析ができないからです。
アライグマについてそっけない書き方なのでたいていの人は見落とすと思いますが、この中には重要なヒントも含まれていたのです。目撃場所のひとつに「千代田区1件」とありますが、これこそが今回のニュースに関係するものなのです。
この目撃情報は昨年9月のものでした。皇居の近くで動物を目撃したというもので、添付写真もありました。その写真には黒白模様の尾がはっきり写っていたのです。このような動物はアライグマとしか考えられません。また、位置からいっても皇居から出てきたと推測するのが当然でした。
(千代田区での目撃なら、まず筆頭に疑うべき生息場所は皇居です。報告書には具体的な場所は書いていませんが、真っ先に想定されるべき場所なのです。報告書を読んでこれに気付いた方はどれほどいるでしょうか。)
この目撃情報は、情報提供者の了解を得て概要を国立科学博物館に連絡しました。ちょうど同じ頃、皇居ではアライグマ騒動が起こっていたわけですが、当然私はまったく知りません。
「メールで目撃情報を収集する」という調査方法は、通報されない目撃例も非常に多く、非効率的、不正確な方法だとは見なされるかもしれません。しかし、このアライグマ目撃のように、時々非常に敏感なセンサーになることがあります。信頼性の低い調査方法ではないのです。(23区内に限っていえば、タヌキ、ハクビシン、アライグマなどの生息情報は、たいていマスコミよりも先に私がつかんでいます。)

記事では次のようにも書かれています。
「また、東京都によると、昨年度の都内での捕獲数は139匹だが、多摩地区に集中。東京23区では08年度に杉並区で1匹捕獲されているが、都心での捕獲例は記録にないという。」

一方で、私が収集した目撃例では、2007年〜2009年に23区内で2件のアライグマ捕獲例を記録しています。しかもこれらは杉並区ではないので、東京都が把握している例とは別のものです。東京都環境局が野生動物の担当であることを知らない人が非常に多いため、都環境局にまで情報が届いていないのではないかと思われます。東京都よりも私が持つ情報の方が多いのではないか、と思わせる数字です。

上記の新聞記事では
「アライグマの生態に詳しい北海道大学大学院の池田透教授(保全生態学)は「都心にまでアライグマの進出が始まった可能性もある」と指摘。」
ともあります。
私の報告書には書きませんでしたが、私は
「東京都23区のアライグマの生息数は数十頭程度。100頭にはおそらく達していない。」
と推測しています。これはタヌキ、ハクビシンの生息数、目撃頻度と比較して算出した推定値です。アライグマの生息地域はタヌキやハクビシン同様、23区西部に偏っています。また、既に広い範囲で目撃されています。
そして、もうひとつの推測は、
「東京都23区内では、アライグマが恒常的に繁殖できる状況の初期段階に既に達している。」
ということです。おそらく世田谷区北部では繁殖をしていると思われます。
新聞記事のように「都心にまでアライグマの進出が始まった可能性もある」ではなく、「アライグマは定住のための橋頭堡を既に23区内に築きつつある」というのが現状ではないかと思われます。行政はまだ事態を把握しておらず、悠長な様子ですが、もっと警戒をすべき段階に突入していると私は主張せざるを得ません。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

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