Vol. 486(2010/5/30)

[今日の事件]ネコ餌付け裁判

ネコへのエサやりは犯罪でもなければ悪でもない

2010年5月13日、東京地裁立川支部でネコへの餌付けに関する訴訟の判決がありました。
訴えられたのは将棋の加藤一二三・九段(元名人)、訴えたのは近隣住民です。加藤氏が自宅庭で野良猫にエサを与えたため、ネコが集まり、フンのにおいや車に傷を付けられるなどしました。そのため近隣住民が加藤氏に注意をしたが改善されなかったため提訴した、というのがいきさつです。加藤氏がエサをやり始めたのか1993年ごろ、提訴が2008年ですから非常に長期間住民間でもめ続けてきたことがうかがえます。
近隣住民はエサやりの中止と慰謝料など約640万円の支払いを求めました。判決はエサやりの中止と204万円の支払いを命じるものでした。
これに対して加藤氏は「エサやりは自宅敷地外で続ける」と述べ、控訴することを表明しました。しかしその後5月26日、控訴しないことを決めました。

ネコのエサやりで住民間がもめることは珍しいことではありません。そのためこの裁判の行方に関心を持った方は少なくなかったでしょう。
ここで基本的なことを整理しておきましょう。

この裁判は民事裁判です。何らかの法律違反があったわけではありませんので、犯罪ではありません。つまり刑事事件ではありません。住民間のもめ事についての裁判なのです。
裁判の勝ち負けが報道されると、負けた方が悪いように思い込まれがちです。しかし今回の場合は犯罪とは関係のないことです。加藤氏は犯罪者ではないのです。
ネコへのエサやりが法的に否定されたのでもありません。

今回の裁判ではネコのエサやりが否定されたわけですが、民事裁判というものはちょっとした条件の違いで勝ち負けが反転することもあります(裁判官の心情や弁護士の力量で決まってしまうこともあるでしょう)。別の裁判ではエサやりが是認されることもあるかもしれません。「ネコへのエサやり=悪いこと」と決まったわけではないことに注意してください。

ただ、「裁判で負けた」というイメージはかなり影響力があるので、今回の判決でネコへのエサやりがさらに迫害されることになるかもしれません。各地の地域ネコ関係者は危機感を抱いているでしょう。


次に私の立場を書きます。
私は、ネコへのエサやりはかまわない、と考えています。これについては以前にもちょっと書きました(Vol. 427(2008/10/5)[今日の事件]ネコへのエサやりは犯罪なのか?)。
ただし、なんでも肯定しているわけではなく、次の4条件を満たすことを要求しています(これも上記記事に書いてあります)。

・個体識別ができている
・避妊去勢手術をしている
・エサを与える時はそばで見守る
・食べ残しやトレイなどの後片づけをする

これが達成できていれば十分な管理レベルだと思います。

より具体的な例としては横浜市磯子区のガイドラインがあります。

磯子区猫の飼育ガイドライン

磯子区は地域ネコの活動に早期から取り組んできた自治体で、地域ネコ活動のモデルとされることもあります。


ネコへのエサやり反対派の方へ

多くの人が誤解していますが、ネコにエサをやってもネコが増えるわけではありません。上の4条件がちゃんとできていればネコが増えることはなく、むしろ確実に減ります。そうなれば被害の総量も減ることになるでしょう。ネコが好きな人は、不幸なネコが増えることを良いことだと考えていません。ネコがどんどん増殖するような事態にはなりにくいものです。
ネコへのエサやりは夜に行われることがありますが、これは反対派の目をおそれているからです。エサやりをしている人は、非難されたり、いやがらせされたり、脅迫されたりすることもあります。そのため隠れるように活動しなければならないのです。しかし、非難の内容はたいてい間違っています。「エサやり→ネコが増える」という根拠のない思い込みで、実態を知らずに非難しているのです。非難する前に実態をよく観察してください。

ただ、上記4条件をちゃんと実行しているかどうかはちょっと見ただけではわかりにくいものです。そこで、エサ担当の人に次のようなことをさりげなく聞くといいでしょう(脅迫的に聞くのはやめた方がいいです。警戒してちゃんとした回答が得られないかもしれません)。
「ネコの名前は?」
「避妊去勢手術はしたの?」
ネコの名前を聞くのは、個体識別ができているかを確認するためです。その場のネコ全員の名前を言えるのならば、きちんと管理されていると考えていいでしょう。


ネコのエサやり担当者へ

私からのお願いは、上の4条件を守ってほしいということです。4条件を理解されている方なら問題はありません。
4条件なんてどうでもいい、という方を私は支持することはできません。自らトラブルの元を抱えるのはいかがなものでしょう。

ネコへのエサやり担当者は孤独なことが多いようです。非難されることが多いため、一人でひっそりと活動するからです。しかしそれではトラブルになった時、なりそうな時に、どこに助けを求めていいのかわからないことが多いのではないでしょうか。行政に相談する方法もありますが、助成をする自治体もあれば、エサやりには冷淡な自治体もあるので、事前にホームページなどで調べておくといいでしょう。
それよりも、日頃から仲間を集めたり、地域ネコの団体と仲よくなっておくことが必要だと思います。トラブルを一人で抱え込まないようにしましょう。


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