いきもの通信 Vol.488[今日のいきもの]千葉県にはアライグマ1万頭が生息 

Vol. 488(2010/6/27)

[今日のいきもの]千葉県にはアライグマ1万頭が生息

東京都23区内にはタヌキが約1000頭生息している、ということは東京タヌキ探検隊!のホームページなどに掲載している通りです。詳しくは書籍「タヌキたちのびっくり東京生活」に書いてありますが、これは目撃情報やタヌキの生態(家族構成など)から推計した数値です。そのため厳密に正確な数字とは言えず、ある程度の誤差が含まれるものです。23区内をくまなく歩いてタヌキを1頭1頭数え上げることは不可能ですので、これは仕方のないことです。しかし、1年間に約150件の目撃があることから数百頭単位で生息していることには疑いありません。
動物の生息数を数えるのは、このように難しいためあまり積極的に調べられていません。だからといって数えないでいると、いつの間にか大増殖したり、絶滅寸前になったりします。日頃から生息数の動向に注意をすることは動物の保護や自然環境保全のためにも必要なことです。
生息数の調査をすると副産物として動物の生態がわかってきたり、別の動物の情報も集まったりするものです。東京タヌキの場合は、タヌキの行動パターンや運動能力、ネコとの関係などいろいろな情報も集まってきましたし、ハクビシンやアライグマの情報も多く得られるようになってきました。
社会的なインパクトはあまり期待できないものの、基礎データである生息数を調べることは意味のあることです。


さて、今回の本題はここからです。
先日、ネット検索をしていたら次の論文を探り当てました。
千葉県におけるアライグマの個体数試算(2009年)」(浅田正彦、篠原栄里子)

内容はタイトルの通り、千葉県のアライグマの生息数を計算したものです。私も東京都および近県のタヌキ、ハクビシン、アライグマなどの情報を収集していますので、これはかなり興味深いものです。
結論を先に言うと、「千葉県にはアライグマが約1万頭生息している」ということになります。この数字を多いと見るか少ないと見るかは人それぞれですが、客観的に言うと、これは「逃げたペット」という段階ではなく、完全に自然繁殖のレベルにまで達している状態です。農業被害も発生し、駆除をしっかりやらなければますます問題は悪化するでしょう。

次に、どうやってこの数字を出したのかを解説していきましょう。
生息数を調べるといってもアライグマを現地で1頭1頭数えていくことが不可能なのは言うまでもありません。アライグマは夜行性ですし、人間を避けるように行動しますので目視確認は現実的ではありません。
また、生息数を調べる統一的な方法もありません。そこでこの論文では4つの推定方法を採用しています。それぞれに推定の信頼度が異なりますので、その高い順に並べてみましょう。
まず最も信頼度が高い方法は、「夏に仕掛けたワナでの捕獲効率(CPUE)から算出」というものです。捕獲効率とは、「捕獲数÷ワナ日」で表されます。「ワナ日」とは1台のワナを1日設置すると「1ワナ日」とし、これを合計したものです。夏限定なのは、この時期に捕獲数が多いためです。
捕獲効率がわかってもそれだけでは生息数まではわかりませんが、過去の調査データからその関係を算出する計算式があります。それを利用して生息数を推測するのです。
2番目に信頼度が高い方法は、「年間で仕掛けたワナでの捕獲効率から算出」です。これは夏だけでは十分に捕獲できなかった場合に採用しています。
3番目は「寺社の柱などにある爪跡、足跡などの痕跡がある割合から推測」する方法です。アライグマはねぐらとして建物の屋根裏・天井裏をよく利用します。誰も住んでいない寺や神社の建物はアライグマにとって非常に好都合なわけです(これは東京都23区でも同じと考えられます。ただし、東京都23区の場合はハクビシンであることが多いです)。そのため、柱などに爪跡、足跡があるかどうかを調べればアライグマの存在がわかるわけです。痕跡が発見される割合と捕獲効率には相関関係があり(つまり痕跡が多ければ捕獲効率も多い)、そこから生息数が計算できるわけです。
最後は「生息密度を推測して当てはめる」というものです。ずいぶん乱暴な方法ですが、上記3つの推定方法が使えないということは、捕獲事業をするほどの生息数がいないということであり、調べようがないのです。そこで、捕獲数が少ない市町村の寺社痕跡確認率から「2.7頭/km2」という数値を導き出し、これを当てはめています。

(ところで、論文では信頼度別に「I」「II」「III」とローマ数字を当てはめていますが、4番目がなぜか「VI」(6)となっています。なぜ「4」ではないのか不思議です。単なるミスでしょうか?)

論文では推定生息数の誤差について数値では示していませんが、「多くの過程と、大きな推定誤差を含む」と正直に書いてあるように、多少の誤差は当然あると考えられます。特に、信頼度3と信頼度4の中には本当かな、と思う例もあります。推定生息密度が低くても、生息可能面積が広ければ生息数は大きく算出され誤差も拡大されるからです。少なくとも数百頭以上の誤差はあるものと考えていいでしょう。
算出に用いた「生息可能面積」は林野と耕地の面積の合計となっていますが、アライグマは住宅地にも進出する動物なので、ここでもいくぶんかの誤差が発生しているはずです。住宅街では生息密度が高くはならないと考えることもできますが、鎌倉市のような例もあります。

アライグマは特定外来生物で駆除の対象であるため、千葉県は防除(駆除)活動を行っています。この論文はその文脈で行われた調査研究ですので、駆除の目標値も算出されています。それによると、長生・夷隅地域では年間2000〜2500頭を捕獲すれば10年で野外排除または減少傾向に持っていけるとの数値を出しています。

※長生地域=茂原市、一宮町、睦沢町、長生村、白子町、長柄町、長南町
 夷隅地域=勝浦市、大多喜町、いすみ市、御宿町

ただ、論文にも「現在の4〜6倍の捕獲努力」が必要になると書かれているように、実際に実行するのは困難かもしれません。また、駆除がうまくいって生息密度が低くなると捕獲効率が悪くなるため箱ワナ以外の捕獲方法が必要になるとも書かれています。
「外来生物法」という法律があるので、外来生物の駆除は簡単にできると思われる方が少なくないでしょうが、実際に捕獲や狩猟の経験があるならそれが非常に困難なことはすぐに理解できるでしょう。駆除というのはとにかくコストがかかる事業なのです。


話を最初に戻しましょう。
動物の生息数は基礎データであり、これを調べることは大切なことです。
アライグマの場合も各地で同様の調査研究を行えば、より正確な生息数の推定方法がわかってくるかもしれませんし、正確な分布傾向もわかってくるかもしれません。その結果、あるいは調査研究の過程で駆除の役に立つ知見も得られるでしょう。
地味ではあるものの、このような基礎研究は必要なものなのです。

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