Vol. 490(2010/7/25)

[今日の勉強]蹄とツメ

今年前半の大事件のひとつは宮崎県での口蹄疫発生でした。口蹄疫とは、動物の「口」と「蹄」に症状が出る「疫」(病気)という意味です。「口」はわかるとして、「蹄」とは何のことでしょうか?

「蹄」は「ひづめ」と読みます。ウマやウシやブタの脚の先端部分がそれです。その名の通り、人間でいえば「ツメ」に当たる部分です。しかし人間のツメとはずいぶん違います。なにしろ蹄は大きいです。脚の先端を覆っているような構造です。ですから、蹄は動物の体重を支えることができます。ウマを思い起こせばわかるように、地面に接しているのは蹄だけ、あの大きな体を支えているのです。
蹄を持つ動物の代表は「偶蹄目」と「奇蹄目」に分類されます。「偶」と「奇」ですから「偶数」「奇数」と関係あるのだろうか、と推理されたならば、それは正解です!
偶蹄目では蹄は2つです。また、かかとに当たる部分にさらに2つの小さな蹄(副蹄)がある動物もいます(ウシやヒツジなどをよく観察してみてください)。
偶蹄目の代表はウシ、シカです。他にもラクダ、イノシシ、キリン、カバなどがいます。ウシ科はいろいろな種類を含んでいて、カモシカ、ヤギ、ヒツジ、オリックス、アンテロープなどなども仲間です。
奇蹄目はウマ、サイ、バクの仲間が含まれます。そして蹄の数はウマが1つ、サイが3つです。バクは…前脚が4つ、後脚が3つ…なのでちょっと「奇数」ではなかったりしますが、奇蹄目に分類されます。ウマは「蹄が1つ」というよりも「指が1本」と言うべきでしょう。つまりウマは指1本で立ち、走っているのです。人間にはとても真似できないことです。
哺乳類はもともと5本指だったのですが、進化の過程で指の数が少なくなった種類がいます。実は偶蹄目も奇蹄目もそのような動物なのです。これらの動物は何かを捕らえるためではなく、走ることに特化していったため指先が固くて大きな蹄になり、走るためには必ずしも必要ではない指が消えてしまったのです。
蹄を持つ動物は、偶蹄目、奇蹄目の他にはゾウ、ジュゴンなどがあります。ぞうの場合は蹄で体重を支えているのではありませんが、あのツメは蹄としか言いようがありません。ジュゴンは水中にいる哺乳類ですから、後脚はありません。ひれのようになった前脚があります。それをよく見ると確かに蹄があります。

蹄以外のツメも見ていきましょう。
私たちヒトのツメは「平爪」(扁爪、ひらづめ)というものです。平べったい形で、指先を覆っています。平爪は霊長目、つまりサルの仲間のみに見られます。
もうひとつのツメの種類が「鉤爪(かぎづめ)」です。イヌやネコのツメが鉤爪ですのでわかりやすいでしょう。蹄、平爪を除くすべての哺乳類は鉤爪であることからわかるように、哺乳類はもともとは鉤爪でした。鉤爪は指先の骨の先端を覆う形になっています。誤解されやすいのですが、鉤爪は骨が露出しているのではありません。骨の先端を覆っているのが鉤爪ですので、骨そのものは見えません。

動物を判別する時、ツメの種類は大きなヒントになります。また、指の数も合わせて検討するとより正確に分類を判別することができます。謎の動物死体の正体を調べる時には必須の知識といえるでしょう。もちろん、ツメと指の数だけですべてがわかるわけではなく、全般的な知識も必要ですよ。


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