Vol. 491(2010/8/8)

[今日の勉強]「ガラパゴス化」って何のこと?

「ガラパゴス化」という言葉が最近よく聞かれるようになってきました。また、「ガラパゴス・ケータイ」略して「ガラケー」という言葉もあります。全然意味がわからない方もいるでしょうし、なんとなくわかるという方もいるでしょう。
「ガラパゴス」とはいったい何のことなのでしょうか。

「ガラパゴス」とはガラパゴス諸島のことで、島々の総称です。国でいうとエクアドルです。南米です。場所はエクアドル西方沖、太平洋の東端になる場所です。赤道直下にあります。
Googleマップで「ガラパゴス諸島」と入力するとその場所が表示されます。あるいは緯度経度「-0.736064,-90.31723」をGoogleマップに入力してみても表示されます。いくつもの島々が赤道にまたがるように散在しています。最も大きな島はイザベラ島で、沖縄島とだいたいおなじ大きさです。
歴史的には若き日のチャールズ・ダーウィンがビーグル号の世界一周航海の途中に立ち寄り、進化論のヒントを得たことで有名です。ガラパゴス諸島の存在は大航海時代の頃から知られており、海賊が利用したり、捕鯨基地だったりした歴史があります。

ガラパゴス諸島が有名なのは独特の、ここでしか見られない動物・植物がいるからです。よく知られているのは世界最大級のリクガメであるガラパゴスゾウガメ、世界で唯一海で泳ぐトカゲであるウミイグアナ、赤道直下に生息するペンギンであるガラパゴスペンギンなどです。
これらの動物はここでしか見ることができません。その理由は長くなりますが次の通りです。ガラパゴス諸島は歴史上一度も大陸とつながったことがありません。それはガラパゴス諸島が火山島だからです。海には所々に地球深部からマグマが噴出する「ホットスポット」があります。そこでは海のど真ん中に火山島が作られます。ハワイ諸島や小笠原諸島も同じ火山島です。大陸から離れているため、動物も植物もなかなかたどり着けません。比較的たどり着きやすいのは鳥ですが、これも長距離を移動できる海鳥や渡り鳥でなければなりません。残念ながらスズメがたどり着くのはかなり難しいのです。海を泳ぐアシカやアザラシもたどり着きやすい動物です。ペンギンもそうです。植物は種が海流で流れ着いたりしているのでしょう。
ガラパゴスゾウガメは陸ガメであり、海ガメではありません。つまり海は泳げません。イグアナも本来は海にいる動物ではありません。ゾウガメもイグアナも、アメリカ大陸から流木か何かにつかまって偶然ガラパゴス諸島にたどり着いたのではないかと推測されます。いったんガラパゴス諸島に到着すると、その外の世界との交流はほぼ完全になくなってしまいます。そのため、ガラパゴス諸島の中で独自の進化をすることになります。ガラパゴスゾウガメは巨大化し、イグアナは海に進出しウミイグアナになりました。

ガラパゴス諸島の動植物のように、「特定の地域で、他では見られない独特の製品/商品が発達すること」、これが「ガラパゴス化」という言葉の意味です。最初に紹介した「ガラパゴス・ケータイ」とは日本の携帯電話のことで、高機能ではあるが日本以外ではまったく通用しないことを「ガラパゴス」と形容しているのです。(そしてまた「世界標準から取り残された」という意味も込められています。)

経済学・社会学的な意味での「ガラパゴス化」は否定的な意味合いを持ちます。しかし、生物学や環境学ではガラパゴスは中立的な位置付けです。生物が特定の環境に適応して進化するというのは多かれ少なかれどこででも見られることです。また、世界中のあらゆる場所に生息する生物というのはほとんどありません。たいていの生物は特定の地域だけに生息するものです(その範囲の大小はかなり幅が広いものですが)。つまりあらゆる生物は何らかの意味で「ガラパゴス化」しており、普遍的な現象なのです。そこには「優劣」はありません。

ガラパゴス諸島といえば、動物好きにはとても魅力的なあこがれの場所のひとつでしょう。「ガラパゴス化」の否定的イメージとまったく逆であるのは面白いことです。


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