Vol. 492(2010/8/15)

[今日の事件]東京都心でニホンザル捕獲

このサルは野生個体か?飼育個体か?

2010年8月、夏の東京都心を騒がせた動物がニホンザルです。マスコミが騒ぎ出したのが8月6日からで、関東ローカルではテレビニュースでも取り上げられました。
私も東京スポーツ(東スポ)に取材されて、8月8日付同紙にコメントが掲載されたのですが、見出しに「無許可飼育が脱走か」「動物ジャーナリストが意外な見解」とまで書かれてしまったので(笑)、ここで補足しておく必要があるでしょう。紙面では私(宮本)は「飼育個体が脱走」説ということになっていますが、取材(実際はメールでのやりとりのみ)を受けた8月6日午後の段階では私にも十分な情報が無く、このような推測をしました。すぐに東武東上線沿線各地での目撃の情報もテレビ等で得ましたが、それでも移動速度が速すぎるように思えました。テレビニュースでは専門家(高尾山の、さる園野草園の方だったと思いますが…)が「鉄道やトラックに便乗したのでは」とのコメントをしていました。

さて、このニホンザルも捕まり、騒動が収まった今、あらためてこれが野生個体だったのか飼育個体だったのか検証してみましょう。
ニホンザルは東京都なら奥多摩、埼玉なら秩父に生息しているのは明らかです。そして東京都23区内に野生生息しているはずがありません。野生個体ならはるか西方から長距離の旅をしてやって来なければならないはずです。そんなことが可能なのでしょうか。

今回のニホンザルの目撃場所を報道から拾ってみました。時系列がわかっているものについては「→」でつないでいます。

7月29日 埼玉県川越市
この間、埼玉県ふじみ野市、志木市、朝霞市、和光市で目撃あり
8月4日 練馬区田柄
8月5日 練馬区北町、練馬区平和台、板橋区大谷口
8月6日 板橋区向原→豊島区高松→豊島区池袋→板橋区東新町
8月8日 豊島区巣鴨、豊島区西巣鴨
8月9日 文京区本駒込→文京区白山、北区田端、北区中里、北区上中里
8月10日 文京区本駒込
8月11日 豊島区駒込、台東区谷中、台東区上野桜木(寛永寺)
8月12日 台東区浅草
(さすがに隅田川は渡れなかったらしい。)
8月13日 台東区橋場→台東区今戸(捕獲)

川越市から練馬区まで6日間で約20km。1日3kmちょっとということになります。8月9日、11日も1日で3kmは移動しているようなので不可能な数字ではありません。ただ、23区内ではあっちこっちを右往左往しているのに埼玉県内では一直線に東京都心に向かっているようのが奇妙な点です。動物ならランダムにあっちに行ったりこっちに行ったりしそうなもので、1週間近くもひたすら東へ向かうという偶然は起こりうるのでしょうか。
非常にまれな確率で、それは起こるかもしれません。ニホンザルが山を下りてくるというのはよくあることで、普通はすぐにまた山に戻るのですが、ごくまれに方向音痴が現れて今回のような事件になる…と考えることもできます。

そこで、過去の東京都23区のサル事件を調べてみました。

1999年、「麻布サル」として話題になった事件がありました。6月8日に八王子市、6月16日に港区西麻布で目撃されており、これも「山から来た」とされていました。8月に捕獲されています。その後DNAを調べた結果、飼育個体であるのは確実ということがわかりました(南アルプス産だった)。

2000年10月には世田谷区で飼育されていたサルが逃走する事件がありました。

2005年は4月に渋谷区広尾で目撃され、その後、北区、荒川区、台東区などでも目撃され、最終的には8月に江戸川で捕獲されています。このサルのDNA検査では丹沢山系の産とわかり、やはり飼育個体と判断されています。

2007年5月は、江戸川区でニホンザルが目撃されていますが前後の情報が見つかりません。

2007年9月は、埼玉県内を西へ移動しているらしいニホンザルが目撃されています。

2008年8月は8月12日に小金井市、8月18日に世田谷区、8月20日に渋谷区渋谷(東急東横線渋谷駅)で目撃される事件がありました。その後、9月には神田近辺で目撃されています。

ネット検索では完全には探しきれませんが、数年に1度程度はこのような事件が発生しているようです。
方向音痴のニホンザルが東京都心までたどりつく偶然は否定することはできませんが、実際にはかなり低確率のように思えます。何ヶ月かかけてゆっくりとたどり着くのならまだわかりますが、1週間でたどり着くのはあまりにも速すぎるように思えます。埼玉県川越市で目撃されたニホンザルと東京都23区で目撃されたニホンザルは別個体だった可能性が高いのではないでしょうか。
また、緑地の乏しい場所でどうやって食料を確保するのかも問題です。まあ、麻布の事件では2ヶ月も都心に居着いたわけですから、入手手段はいろいろあったのかもしれません(生ゴミとかスーパーの倉庫とか)。

以上のように検討してみると、やはりこのニホンザルが野生個体である可能性はかなり低いと言わざるを得ません。さて、捕獲されたからにはDNA調査も行われるでしょうが、どんな結果が出るでしょうか。


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