Vol. 495(2010/9/19)

[東京タヌキ探検隊!・今日の勉強]練馬区にタヌキは何頭いるか?

大泉のパラドックス

私は東京都23区内のタヌキの生息数は約1000頭と推測しています。これは出産期直前の最も数が少なくなる時期、3〜4月を想定しています(タヌキは多産なので、出産直後の生息数は一時的に数倍に増えるはずです)。推測の根拠の詳細は書籍「タヌキたちのびっくり東京生活」をご覧ください。

この1000頭という数字は誤差が多いことは認めざるをえません。1頭1頭数えるわけにもいきませんし、生態も十分に解明していないからです。
それでも、数百頭が生息しているのは確実です。最大では数千頭まではいかないようです。その中間の数であるのはかなり確かで、1000頭という数字はまずまずの推測値だと私は思っています。

この数字を前提に、目撃情報数と生息数が相関関係にあると仮定して、各区にどれだけのタヌキが生息しているか試算してみることにしましょう。
元になる目撃情報数の数値は、2007年〜2009年の目撃情報をまとめた「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析(2010年1月版)」を使用します。

目撃数の多い順に並べると次のようになります。

 
目撃情報数
推定生息数
練馬区
77
189
板橋区
64
157
杉並区
62
152
中野区
39
96
文京区
28
69
世田谷区
28
69
新宿区
26
64
北区
18
44
豊島区
17
42
千代田区
10
25
足立区
10
25
渋谷区
9
22
港区
4
10
目黒区
3
7
大田区
3
7
江戸川区
3
7
台東区
2
5
葛飾区
2
5
江東区
1
2
品川区
1
2
荒川区
1
2
中央区
0
0
墨田区
0
0
408
 

この推定生息数も当然誤差を含んでいます。
目撃数が10未満の場合はかなりの誤差があると考えるべきでしょう。例えば江東区は目撃数1、推定生息数2となっていますが、目撃数がプラス1されただけで推定生息数は5にはね上がってしまいます。これでは信頼できる数字とは言えないでしょう。
目撃数が多い区では目撃数が多少変動しても推定生息数が大きく変わるわけではありませんので、こちらの方は信頼度が高いと言えます。

表からもわかるように、隅田川以東の墨田区、江東区、足立区、葛飾区、江戸川区ではタヌキの生息数は非常に少ないものです。この5区の合計の目撃数は16件、推定生息数は39頭で、23区全体から見るとたったの4%しかありません。しかも、足立区の10件のうち7件は荒川西岸(荒川と隅田川にはさまれた細長い領域)に集中しています。この狭い領域を除外すると、5区合計でもわずか9件にしかなりません。極めて生息密度が低いものであることがわかるでしょう。
その一方で23区西部の練馬区、板橋区、杉並区の3区では目撃数203件、推定生息数は498頭にもなります。これは23区全体の約50%に相当します。
このように生息分布の偏りは「西に多く、東に少ない」ということが明らかです。目撃報告の偏りを疑う人がいるかもしれませんが、「練馬区の住民はタヌキに異様に固執している」というようなことはないでしょう。同じように、「江戸川区の住民はタヌキという動物を知らない」「江東区の住民はインターネットを使わない」といった理由も考えにくいです。このような地域的な偏りはなく、ほぼランダムに目撃情報が得られていると見なせます。目撃情報数が人口(あるいは人口密度)と相関関係である可能性はありますが、練馬区の人口は約71万人、江戸川区の人口が約67万人ですので(面積はほぼ同じ)やはり明らかに「西高東低」だと言えるでしょう。
隅田川以東にもタヌキは間違いなく生息し、継続的に繁殖もしていますが、23区全体から見れば「ほとんど生息していない」とされても仕方のない少なさです。

推定生息数の誤差の可能性は他にもあります。
推定生息数が最も多いのは練馬区ですが、実際にはもっと多いのではないかと私は推測しています。予想と実数の食い違いを、私は「大泉のパラドックス」と呼んでいます。練馬区の最西部には「大泉」の名が付く住所が広く存在します(大泉町、大泉学園町、東大泉、西大泉、南大泉)。この地域は農地が多く、タヌキもたくさん生息していると推測できます。ところが、2007年〜2009年の目撃情報数はわずか4件だけなのです。いるはずのタヌキが見つからない、ということがパラドックスなのです。
このパラドックスの原因は次のようなものが考えられます。
まず、「大泉一帯ではタヌキは珍しくもないから」という理由です。目撃情報の多くは、「タヌキを見て驚く→ネットで調べる→東京タヌキ探検隊!のホームページにたどり着く」という経緯を経ています。タヌキを普通に見かけるならば驚きもしないでしょうし、ネットで調べることもありません。その結果、私の所には何の情報も届かないのです。
もうひとつの原因は、「人口密度が低いから」というものです。大泉一帯は農地が多いため住宅地も少なく、人口密度も低いです。そのためタヌキに出会うチャンスが相対的に少なく、目撃情報も少なくなるのです。
この地域の未報告数を考慮すると、練馬区全体の生息数はもっと増え、200頭を超えるのは確実でしょう。

逆に、実態以上に目撃報告が多い場所もあります。こちらは「下落合のパラドックス」と呼びましょうか。新宿区の下落合では2005年から集合住宅建設反対運動が起こりましたが、それにともなってこの地域にタヌキがいることが地元の人たちに広く知られることになりました。そのため、タヌキに気付く人が他の地域よりも多い傾向があり、目撃情報も多く集まります。
新宿区でのタヌキの生息地は、現実的には下落合以西に限られると考えていいでしょう。それだけの面積で64頭もいるかというと、ちょっと多すぎな数字です。実態以上の値になっていると考えるべきです。

このように、生息数を推測するにはさまざまな要素を考慮しなければならず、なかなか難しい問題です。簡単に「多い、少ない」とか「増えた、減った」とは断言できません。根拠を示さないそのような主張は疑った方がいいでしょう。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

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