Vol. 510(2011/3/13)

[今日の事件]パンダのレンタル代は年100万ドル!?

2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生しました。東京在住の私、宮本は特に被害もなく無事生活しております。「いきもの通信」も通常通り更新します。
地震被害を受けた方々にはお見舞いを申し上げます。また、同様に被害を受けた野生動物、ペット、動物園などの飼育動物たちにも援助が届くことを祈ります。


2011年2月21日、中国から上野動物園にパンダ2頭が到着しました。2008年4月にリンリンが死亡して以来、久しぶりに上野動物園にパンダが来たのです。最近の東京の話題はこのパンダたちと、電波塔世界一になった東京スカイツリーが独占しているような具合です。
さて、そのパンダたちのレンタル料ですが、「2頭で年95万ドル(約7800万円)」という額が高いのではないか、と言われることがあるようです(本来は100万ドルのところを値引き交渉した)。この額が妥当なのかどうか検討してみましょう。

高額になってしまう第一の理由は、パンダの生息数が非常に少ないためです。2006年の数字では、野生個体は約1600頭、飼育個体は約200頭しかいません。供給が少なければ価格が高くなるのは経済学の基本知識です。しかもパンダが生息しているのは中国だけですから、中国は「独占企業」ともいえるわけで、価格決定権は中国だけががっちり握っているわけです。
では、中国はパンダを利用して何でもできるのかというとそうではありません。

ワシントン条約という国際条約があります。正式には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」というもので、「CITES=サイテス」と略称されます。
詳しくは「Vol. 237(2004/9/19)[今日の勉強]絶滅の危機の指標、ワシントン条約とレッドリスト/ワシントン条約について」をご覧ください。

ワシントン条約はその名の通り、絶滅の危機にある動植物の国際取引を制限する決まりごとです。最も厳しく制限される動植物は「附属書I」に記載されており、もちろんパンダもここに含まれます。附属書I掲載の動植物は商業目的での国際取引は禁止です。ただし学術研究目的は可能です。これには繁殖目的も含まれます。
附属書Iに記載された動物は、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、トラ、ヒョウ、マレーバク、レッサーパンダ、アフリカゾウ、アジアゾウ、タイマイなどなどがいます。
ワシントン条約は生きた生物だけでなく、死体や体の一部も規制の対象になります。例えば
、ゾウの牙は象牙、タイマイはべっ甲の材料、トラは毛皮や骨(漢方薬)といったように、生きている動物そのものでなくとも経済的価値が発生するからです。

さて、上野動物園に来たパンダのレンタルの名目は「繁殖のための共同研究」ということになっています。ワシントン条約にのっとてのレンタルなのでこれは当然のことです。もちろん形式的なことではなく、繁殖を成功させることが大目標であるのは本当のことです。パンダの繁殖は難しく、繁殖技術を確立することはとても重要な課題なのです。
レンタル期間は原則10年間、となっていますがこれは延長もあるでしょう。「子どもの所有権は中国」というのも不思議ではありません。だからていって子どもはすぐに中国に戻すという意味ではなく、子どももレンタル扱いになると予想されます。ただ、次の世代への繁殖に向けて、国外を含む他の動物園などにいずれ移籍することはありえることです。

ワシントン条約があるために、中国もどこへでもホイホイとパンダを貸し出すことはできません。貸し出すならきちんと研究・繁殖ができる施設へ送り出さなければなりません。100万ドルを出せるほどならば飼育施設、飼育態勢、スタッフなども充実しているでしょうから、中国も安心して送り出せます。高額なレンタル料にはそういう意味もあるのです。
個体数ももともと少ないので、気前よくばらまくことなどそもそもできません。貸出先は慎重に選ばなければなりません。

さて話を戻して、パンダのレンタル料は高すぎるのでしょうか。価格決定権を握る中国も、むやみに値段をつり上げては誰もほしがりません。結局は「相場が決めるもの」と言っていいでしょう。100万ドルという大金でも世界中から引き合いがあるのなら、それは妥当な額と言えます。この額がいやならばレンタルしなければいいだけの話です。
今回の場合、中国嫌いで知られる東京都知事でさえしぶしぶ了承せざるを得なかったぐらいですから(上野動物園は都の施設)、それに見合う価値が現実にあると証明されたようなものです。
レンタル料はパンダ生息地の保全など、パンダのために使われるということですから、パンダのためにも無駄にはなりません。

それでも高額なレンタル料に納得できない人もいるでしょうが、絶滅の危機にある動物を法的にだけでなく経済的にも(つまり金銭で)管理するというのは悪い方法ではありません。パンダにとってプラスになっているのなら否定する理由はないのです。


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