Vol. 511(2011/3/20)

[東京タヌキ探検隊!・今日の動物探偵!]分福茶釜の正体はハクビシン!?

「分福茶釜(文福茶釜)」はタヌキが登場する有名な昔話・民話です。
分福茶釜は各地に類似の伝承がありますが、元は茂林寺(群馬県館林市)に伝わる話です。

一般的なあらすじは次の通りです。

ある男がワナにかかったタヌキを助けます。タヌキは男に恩返しをしようとします。タヌキは茶釜に化け、それを売ることで男にもうけさせようとしました。茶釜を買った和尚はさっそく茶釜で水をわかそうとしますが、熱さに耐えられなくなったタヌキは逃げ出しました。
タヌキは次に綱渡りの芸を披露してもうけることを思いつきます。これは成功して多くの客を集めました。

(ちなみに茂林寺に伝わる話は、「タヌキが和尚に化けていた」というものです。)

分福茶釜の話の前半と後半はおそらく別々のもので、後世くっついたものではないかと思われます。昔話にはそのようなものは珍しくありません。


さて、ここで問題なのは後半の「綱渡りするタヌキ」です。
タヌキは足指の構造上、綱渡りは不可能です。タヌキの足指はイヌやネコと同じで、物をつかむようにはできていないからです。タヌキでもイヌでもネコでも実際にやらせてみるとわかりますが、いずれも綱渡りはできません。
では、綱渡りをすることができる、タヌキのような動物がいるのでしょうか? います。それはハクビシンとアライグマです。ハクビシンが電線を歩く姿は東京タヌキ探検隊!にも多くの目撃情報が来ています(アライグマも少々)。
江戸時代以前にアライグマが日本に来ていたとは考えにくいのですが、ハクビシンは東南アジアに生息するので日本に持ち込まれていた可能性はアライグマよりも高いことは確実です。そのため、綱渡りをした動物はハクビシンではないかと想像されます。
ハクビシンが日本に移入された時期はよくわかっていません。1940年代にはハクビシンの記録があるそうですが、もっと以前から、江戸時代の頃からいたのではないかとする説もあります。分福茶釜の綱渡りをする動物がハクビシンならば、江戸時代以前にハクビシンが日本にいた証拠になるかもしれません。
江戸時代当時「綱渡りをするタヌキ」という見世物があり、ハクビシンが使われていたということが実際にあったかもしれません。その話が分福茶釜の物語にくっついたとも考えられます。ハクビシンとタヌキでは外見が異なりますが、「化けそこなったタヌキ」などと説明されれば観客も納得したかもしれません。また、タヌキはムジナ、マミなど異名も多く、他の動物との混同も多かったでしょう。そのためタヌキでない動物だったとしてもタヌキとして後世に伝わったのかもしれません。


分福茶釜という誰でも知っている昔話がハクビシンの存在を示唆している、というのは意表をつく説です。しかし動物の運動能力を検討すると、その綱渡りをしていた動物はハクビシンとしか思えなくなるのです。動物探偵のこの推理、いかがでしょうか。

東京都23区内での最新のタヌキ情報については
東京タヌキ探検隊!
のページをご覧ください。

[いきもの通信 HOME]