Vol. 512(2011/3/27)

[今日の事件]津波で座礁したスナメリを救出

東北大震災(2011年東北地方太平洋沖地震)から2週間以上がたちましたが、東京でもまだ以前通りの生活には(停電を別としても)戻っていません。それでも「いきもの通信」は平常通り動物関連の話題を取り上げていきます。


東北大震災では誰もの予想を超える大津波が発生しました。あれだけ大量の海水が陸地に押し出されたわけですから、海の中にいた魚類も運ばれて陸地に打ち上げられたはずです。おそらくクジラ・イルカ類も巻き込まれたのではないかと予想されました。
しかし、まずは破壊された街の状況や人命のニュースが優先されたため、ストランディング(座礁、この場合は海棲哺乳類の座礁のこと)の情報を聞くことはありませんでした。報道の優先順位を考えればこれは当然のことです。
大震災から10日以上たった3月23日、朝日新聞(ネット版)で初めてストランディングの記事を発見しました(2011年3月23日・東京版夕刊にも掲載)。
2011年3月22日午前、仙台市宮城野区の田んぼにスナメリ1頭が発見されました。この場所は海岸線から約2kmも離れた所です。津波で流されてきて、田んぼにたまったままになっていた海水の中で生きていたようです。同日午後、ペット関連会社経営者が抱きかかえて捕獲、海まで車で運んで放しました。

スナメリは小型のイルカの仲間です。背びれはありませんし、口はとがっていませんがイルカの仲間なのです。成体は約1.9mとのことですが、今回座礁した個体は写真から推測すると1mちょっとぐらいのようなので若い個体だったようです。これぐらいの大きさなら一人でも持ち上げることはできますので、移送も難しくありません。これは幸運なことでした。もし大型のクジラだったら運ぶことさえ不可能です。私たちがよく知っているイルカのサイズでも人間の身長より大きく、体重も100kgを軽く超えてしまいます。これでは普通に移送するのも大変ですし、今回のようにがれきで移動もままならない状況では何もできなかったでしょう。
ちなみにスナメリは「世界最小のイルカ」と言われることがあるようですが、実際にはセッパリイルカやコガシラネズミイルカ(いずれも1.5m)が最小かと思われます。

津波から10日以上たっての救出となると体力はかなり落ちているはずで、海に戻された後も無事だったかどうかはわかりません。こればかりは仕方がないことです。
スナメリの食べ物は魚、イカ、エビなどです。スナメリに限らず、クジラ・イルカ類は動物性のものしか食べません。やはり海にすむアシカ類、アザラシ類も動物性のものしか食べません。ラッコもそうですね。海中は地上のような植物がほとんどないため、動物性のものに頼らざるをえないのです。海の哺乳類で植物食なのはジュゴンやマナティぐらいです。ジュゴンやマナティは海草が生えるような浅い沿岸を生息地としています。
いずれにせよ、救出されたスナメリはすぐにも食べ物を探さなければならなかったはずですが、その体力が残っていたかどうか心配されます。

ところで、仙台市沖にスナメリがいたということはちょっとした新発見だったかもしれません。スナメリの生息域は、日本〜東南アジア〜インド〜紅海の沿岸部です。日本近海が生息の北限になり、太平洋側では関東あたり、日本海側では能登半島・新潟県あたりが分布の最北端になるようです。仙台市沖というのはその北限のさらに北になります。

さて、大地震があるとその予兆だと騒がれる自然現象があったりするものです。が、今回はそのような話がほとんど出てこないですね。そういう話題が発掘されていないか、皆さん冷静なのかはわかりませんが。
予兆現象にされそうなのが、2011年3月4日に茨城県鹿島市でカズハゴンドウ52頭がマスストランディング(大量座礁)した事件です。この事件では22頭が海に戻されました。
もちろんマスストランディングと地震の関係はありません。ストランディングは世界的に見れば日常的に発生しているものですし、マスストランディングも頻度は低いものの珍しい現象ではありません。地震との関連があるならばとっくに指摘されているでしょう。
また、カズハゴンドウはマスストランディングが発生しやすい種類であるようです。
(国立科学博物館・ホットニュースもご参照ください。)


それにしても…
今回の震災で被害を被ったのは人間だけではありません。野生動物も飼育動物も同じく災害に遭遇しているのです。
津波に巻き込まれた陸棲野生動物たち、打ち上げられた海棲動物たち…
死んだペットたち、飼い主とはぐれたペットたち、避難所で難儀しているペットたち、家畜たち…
それに動物園や水族館の動物たちはどうなったのでしょうか。
彼らが報道される機会は非常にまれです。
震災を生きのびた動物たちにも救いの手が届くことを祈っています。


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