Vol. 523(2011/7/24)

[今日のいきもの]ハエはどこから発生するか

東日本大震災の被災地、特に津波の被災地でハエ類が大発生しているという報道が時々あります。
被災地のハエはどこから発生しているのでしょう?

ハエといってもその種類は非常に多くあり、生態もさまざまです。ここでは被災地でよく見られていると思われるクロバエ類、キンバエ類など大型のハエ類や、よく見られるショウジョウバエ類、ノミバエ類といった小型ハエ類について取り上げることにします。
ハエ類は動物死体を主に食べます。植物死体も利用する種類もいます。食べるのは成虫だけでなく、幼虫もそうです。動物死体に群がる「ウジ虫」とは主に大型ハエ類の幼虫です。
今回の震災では多くの野生動植物が津波にのまれ、死体となりました。そのためハエが繁殖する条件に合う場所が広範囲に出現しました。死体は野生の動植物だけではありません。魚市場や小売店などの在庫品は冷蔵冷凍ができなくなり、腐敗し、廃棄されました。これもハエを繁殖させることになります。
ハエ類は泥から発生することもあります。もちろん泥は無機物ですので食べても栄養にはなりません。ハエ類の成虫幼虫が食べているのは、泥に含まれる有機物(もともとは多くが動植物に由来する)です。地表の有機物は雨によって少しずつ流されます。水は排水溝、側溝やくぼ地などに流れ込みますが、そういうところに有機物は堆積していくのです。
震災で下水システムが機能しなくなったのもハエを助けました。下水システムはし尿や排水を衛生的に処理しますが、それができずにあふれ出すとハエの繁殖源になってしまいます。下水というのは有機物をたっぷり含んでいるからです。このような場所ではチョウバエも発生します。
排水溝や排水マスで水が滞留したり、水たまりが放置されるとカやユスリカも発生する可能性が高まります。
このように、震災の結果、ハエなどが大発生する状況ができてしまったのです。

ハエ対策の方法は、殺虫剤を散布すること…というのはとりあえずの対処方法でしかありません。殺虫剤だけでは追いつきませんし、大量に散布することは本当は勧められることではありません。
根本的な解決法は、とにかくきれいにすること、に尽きます。がれきやゴミの除去、排水溝や側溝にたまった泥などの除去、水たまりができないようにするための整地、などなどです。地味で時間がかかる作業ですが、衛生環境を維持するためには必要なことなのです。
もし専門家が現地にいるのなら、ハエ類の発生源をまずつきとめてもらうべきでしょう。そうしないとあてずっぽうの作業になってしまいます。

もうひとつ重要なのは下水システムの復旧です。災害が発生した場合、上水道、電気、ガスなどのインフラは優先して復旧されますが、下水システムもそれらと同じぐらい重要なインフラだということを言っておきたいです。

被災地でハエが大発生というニュースは地味なものですが、被災地外に住む人たちは身の回りになぜハエがいないのかに気づいてほしいものです。私たちがいかに衛生的な環境に住んでいるか、そして下水システムのありがたさに気づくべきなのです。


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