いきもの通信 Vol.530[今日の事件]札幌市の住宅地にヒグマが侵入 

Vol. 530(2011/10/16)

[今日の事件]札幌市の住宅地にヒグマが侵入

2011年10月6日、札幌市中央区の住宅地でヒグマが相次いで目撃されました。北海道でヒグマは珍しくないでしょうが、都市の住宅地に現れるのはあまり例がなかったようです。このニュースは東京でも報道されたほどでした。


都会にヒグマ、というと驚くかもしれませんが、まずは地理を確認してみましょう。
Googleマップで「札幌市中央区南19西10」と入力してみてください。これはニュースを検索してみてヒグマが最も市街地内部へ入り込んだ位置です(毎日新聞、2011年10月9日、東京版朝刊)。かなり深く市街地に入り込んでいますが、地図の西側を見てください。藻岩山という山があり、その北には円山公園(この近辺でも今回ヒグマが目撃されています)があります。航空写真に切り替えてみると、これら一帯は山林であることがわかります。つまりヒグマはこの山地からやって来たと推測できます。ただ、この一帯ではこれまではあまり目撃がなかったことから、最近この付近に進出してきたのかもしれません。
札幌市では10月に入ってからだけでも南区、西区、手稲区でヒグマが目撃されていますが、これらの場所もやはり山林に接しています。これまでヒグマがあまり目撃されていなかったとしても、自然が豊かな場所ならばそれなりに警戒と準備を考えなければならないでしょう。

このような事件が起こると、「クマがかわいそうだから殺さないで」という人がいます。しかしヒグマの場合はそうもいかない理由があります。
ヒグマは本州以南に生息するツキノワグマよりも体格が大きいです。体格が大きいこと、これは力が強いことを意味します。つまり、ヒグマが人を襲った場合、ツキノワグマの場合よりも人間が重傷・死亡になる確率が高いということです。下手に騒ぐとヒグマも興奮してしまい、かえって危険になるおそれもあります。そのため、殺処分を含む対策を準備しなければならないのです。
「クマを殺すのは命の軽視」などと言う人がいるかもしれませんが、人間の命もかかっている状況ではそんなことは言っていられません。

対策も簡単なことではありません。
ワナを使って捕獲するのはよさそうですが、ヒグマは力が強いので大きく頑丈なワナが必要となります。いくつものワナをすぐに集められるかどうかも不明です。また、ワナを仕掛けたら人間側は待つことしかできず、効率がいいとは言えません。それに住宅地の真ん中にワナを設置できる場所があるでしょうか。ワナの中には食べ物を置いてヒグマをおびきよせます。ヒグマが来ることを前提にしたワナを自宅の庭に置きたがる人はいないでしょう。
銃による射殺は手っ取り早そうですが、住宅地では銃の使用はできません。流れ弾がどっちに飛んでいくかわからず危険だからです。もし撃てたとしても一発でしとめないと危険です。負傷して興奮したヒグマが逆襲してくる可能性もあります。数十m離れていても、あっという間に駆け寄ってくるので非常に危険なのです。そのため自動車の中から撃つのが安全策ですが、ヒグマの力の強さを考えるとバスのように窓の位置が高い車の方がより安全と言えます。
ちなみに麻酔銃でも事情は同じで、麻酔弾が命中してもすぐにばったり眠ってくれるわけではなく、かえって興奮してしまうおそれがあります。また、射程距離も短いため、ハンターにとっても危険が高いです。
そうなると、対策としてはヒグマが自発的に山へ帰るのを待つか、追い払いを行うぐらいしかありません。追い払いでは大きな音を立ててヒグマを追いやるのが基本的な方法ですが、まずはヒグマの位置をリアルタイムで正確に把握しなければなりません。人間側も安全を確保するため、自動車に乗って作業をしなければなりません。また、住民には外出禁止令を徹底させなければなりません。これはこれで大変なことです。もしヒグマが攻撃的ならば追い払いもうまくいくとは限りません。

住宅地にヒグマが入り込んでからは手遅れですが、予防的な対策としては電気柵がよく知られています。電気柵とは文字通り、電気が通してある柵のことで、野生動物対策としては定番のものです。電気柵を設置するのは平和的な解決方法に見えますが、その実現度となると別です。電気柵を設置するなら、住宅地を囲むように隙間無く延々と作っていかなければなりません。小さな村落ならなんとかなっても、札幌市のような大都市ではその距離はとてつもなく長いものになります。そんな予算がすぐに出せるものでしょうか。また、外との出入りのためには道路や線路が必要で、そんな場所にまで電気柵を設置することはできません。「隙間無く」というのも現実的ではないのです。

この困難な状況に地元自治体などがどう対処し、解決するのか非常に興味深いことです。野生動物被害については地域の現状をよく理解した上で対策を考えなければなりません。私のような部外者があれこれ言うべきことではありませんが、事態の推移は見守っていきたいと思います。
札幌市のホームページにはヒグマ対策の資料などが掲載されていますので、興味がある方はご覧ください。

ヒグマ対策

ヒグマ出没情報

ヒグマ出没情報

幸いなことに、今のところは人身被害は発生していません。攻撃的なヒグマでないらしいことは安心材料ですが、街角でばったり出くわしてしまうとヒグマが興奮してしまうおそれもあります。今後も絶対安全とは言いきれないのです。

ヒグマが住宅地に現れた原因としてはドングリの不作が挙げられています。普通ならば山林の中だけで足りるはずが、そうもいかずに行動範囲を広げた結果、住宅地へと足を踏み入れてしまったのだと考えられます。冬眠前のこの時期はたくさん食べて冬眠に備えなければならないため、行動範囲も大きく拡大してしまったのでしょう。
冬眠の時期が来ればヒグマの行動も停止します。いずれは騒動は収まることはわかっていますが、まだしばらくは緊張状態が続くことになるわけです。


ヒグマも人間も何事もなく終わればそれに越したことはありません。しかしヒグマは日本の陸上動物の中では最も危険です。重大な事故になる可能性もあることを考えると、殺処分の検討もしなければならないこともあるでしょう。
「野生動物との共生」という理想は結構ですが、現場レベルではそんな理想は通用しないこともあります。世の中には簡単には解決できないこともあるのだ、ということをご理解ください。


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