Vol. 533(2011/11/20)

[今日の事件]タヌキの毛皮を着たマリオ事件

普通ならこのようなくだらない話題は取り上げないのですが、タヌキが登場したからにはそうもいきません。


PETAという欧米を中心に活動している動物愛護団体があります。日本語では「動物の倫理的扱いを求める人々の会」と訳されています。その団体が任天堂のゲーム「スーパーマリオ」を批判した、という記事がメディアで紹介されました。
以下はその内のひとつです。


ITmediaより。
動物愛護団体が「スーパーマリオ」批判 「タヌキマリオは毛皮を肯定」
2011年11月15日 16時31分 更新

 動物愛護団体PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)が「スーパーマリオ3Dランド」に登場する「タヌキマリオ」を批判している。マリオがタヌキの毛皮を着ており、毛皮を肯定するメッセージを発信していると主張している。
 タヌキマリオはマリオがタヌキの着ぐるみを着た姿。PETAは「マリオはプリンセスを助けるため、敵を倒すのに必要なあらゆる手段を使うことで知られている。特別なパワーを得るためにタヌキの毛皮を着ることさえするのだ」とタヌキマリオを批判する特設サイトで述べている。
 「タヌキはゲーム内ではただの『スーツ』かもしれないが、現実の世界ではタヌキは毛皮を取るために生きたまま皮をはがれている。タヌキ(スーツ)を着ることで、マリオは毛皮を着てもいいというメッセージを発信している」(PETA)
 特設サイトでは「Super Tanooki Skin 2D」というスーパーマリオ風ゲームも提供。皮をはがれたタヌキらしき生き物が、血の滴るタヌキの毛皮を着たマリオを追いかける内容となっている。またタヌキの毛皮をはぐ様子を映した動画で、毛皮反対運動への支持を呼びかけている。


PETAのホームページはこちらです。

問題のキャンペーンのページはこちらです。
このページには次のようなメッセージも記されています。


When on a mission to rescue the princess, Mario has been known to use any means necessary to defeat his enemy—even wearing the skin of a raccoon dog to give him special powers.

Tanooki may be just a "suit" in Mario games, but in real life, tanuki are raccoon dogs who are skinned alive for their fur. By wearing Tanooki, Mario is sending the message that it's OK to wear fur. Play Super Tanooki Skin 2D and help Tanooki reclaim his fur!


また、タヌキを撲殺し、毛皮をはいでいる動画も掲載されています。
この動画は中国で撮影されたもののようです。映っているタヌキは野生ではないでしょう。野生のタヌキなら猟銃で射殺するか、ワナで捕獲してその場で殺すだろうからです。この動画では多くの生きたタヌキが映っていることから、飼育されたタヌキ(つまり養殖)だろうと推測できます。

この動画は元はホームページ「中国毛皮養殖場の内側」に掲載されていたものと同じもののようですから、私の推測は正しいようです。

日本語版Wikipediaの説明によりますと、PETAは過激な主張でたびたび問題を起こしている団体のようです。

このニュースにはオチがあって、


ITmediaより。
動物愛護団体PETA、「スーパーマリオ」批判は「注目してもらうためのジョーク」
2011年11月17日 15時28分 更新

 動物愛護団体PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)が「スーパーマリオ3Dランド」に登場する「タヌキマリオ」を批判していると話題になっていた件で、同団体は注目を集めるためのジョークだったことを明らかにした。
 同団体は先に、タヌキマリオは毛皮を肯定するメッセージを発信しているとして、「Super Tanooki Skin 2D」という風刺ゲームを公開した。これに対して、「やり過ぎだ」「ゲームと現実の区別がついていない」といった批判の声も上がっていた。任天堂は、マリオがゲーム内で動物に変身することについて「ゲームそれ自体を超えたメッセージはない」とするコメントを出していた。
 PETAは11月16日、Twitterで、「マリオファンの方、落ち着いて。私たちはマリオが大好き。(タヌキマリオ批判の)ゲームは深刻な問題——毛皮を取るために本物のタヌキが皮をはがれていること——に楽しいやり方で注目してもらうためのもの」と発言。またゲーム情報ブログKotakuに対し、「マリオがスーパーマリオ3Dランドで実際にタヌキを殺しているとは誰も思っていない」「真剣に受け取られて少々驚いた」とも語っている。PETAのゲームは公開してから36時間で25万人にプレイされたという。


本当に初めからジョークだったのでしょうか。反響の大きさに驚いてジョークということにしてしまったようにも見えてしまいます。
また、後出しでジョークだと言ってしまったことで、「冗談で悪趣味な映像をさらす団体」と世間は見なしてしまうかもしれないわけで、ますます評判を落とすことになるでしょう。

そもそもタヌキ・スーツのような表現がダメというのなら、世の中の動物着ぐるみは全部ダメということになるのでしょうか?
バットマンやバニーガールもダメなのでしょうか?
動物の姿の着ぐるみパジャマがありますがそれもダメなのでしょうか?
PETAは大企業を標的にすることで大きく報道される効果を狙っているのでしょう。ですが、タヌキ擁護派である私でも首をひねってしまう主張です。

もうひとつ、これははっきりと指摘しなければならないことですが、タヌキ・スーツは尾にシマ模様があるのでタヌキではありません。これはアライグマです。この点でもPETAの主張は間違っていますし、任天堂も間違っているのです。動物好きのはずのPETAがこのような基本的な知識を知らないというのは恥ずかしいことです。また、日本の代表的企業である任天堂がタヌキの誤ったイメージを全世界に拡散させているというのも非常に困ったことです。どちらもタヌキとアライグマの違いがわからないようです。


さて、この問題の核心はマリオではなく毛皮です。この問題についてまじめに考えてみましょう。

毛皮が好ましくないことについては私も賛成です。特に、一部の服飾(いわゆる「ファッション」)のように人間の嗜好を満たすためだけに毛皮が使われている点については賛同はしたくはありません。
また、野生動物を大量に狩猟して毛皮をとることは生態系への影響もあるため賛成できません。
しかし、寒冷地での防寒服目的ならばまだ理解はできます(技術革新によって毛皮よりも優秀な繊維が登場してきてほしいですが)。
また、野生動物ではなく飼育動物の毛皮であるなら、自然生態系への影響が低いので、まだ許容範囲ではないかと考えることができます。
以上は私のスタンスですが、このあたり、どこで線引きをするかは人によって異なってくるでしょう。PETAの線引きは「毛皮絶対ダメ」ということなのでしょうが、それは現実的には難しいことです。また、キャンペーンのホームページだけを見ると、その線引きのスタンスが伝わってこないのが不気味な感じです。

PETAのホームページのタヌキ映像は中国のものですが、日本でもタヌキは狩猟されています。ただし、それが絶滅につながるほどの圧力にはなっていないようですし、絶滅危惧種でもありません。日本に限って言えば、タヌキを特に最優先して保護する理由はありません。
一方で、タヌキはかつてヨーロッパに毛皮目的で持ち込まれ、現在野生化しています。これは「外来生物」であり、その地の生態系に悪影響を及ぼすおそれがあります。それならば駆除されるのも仕方のないことです。日本国内で外来生物のアライグマが駆除対象になるのと同じことです。その駆除の過程で毛皮が利用されるのならばこれも許容範囲内だろうと私は思います。

今回のPETAの主張は、どの国でどれだけのタヌキが犠牲になっているか、といった具体情報に欠け、説得力がまるでありません。あまりにも問題を単純化し過ぎです。
どれだけの動物(野生、飼育それぞれ)が犠牲になっているか、どういう用途で使われているのか、具体的な代替策があるのか。これらを提示することなくセンセーショナルな面ばかりを強調するような行動には賛成できません。


動物の毛皮の使用は、あなたならどこまでが許容範囲でしょうか。
野生動物でもOKでしょうか? 飼育動物でもダメでしょうか?
ファッションとしての毛皮はOKでしょうか? 防寒着でもダメでしょうか?
あなたも一度考えてみてください。

スタンスは人それぞれによって違うでしょう。万人が納得する唯一解は存在しません。だから主張を通すなら相手を説得するしかありません。その説得はできれば論理的、理性的でありたいものです。

そして最後にもう一度指摘しておきます。
マリオのタヌキ・スーツはタヌキではありません。アライグマです。


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