いきもの通信 Vol.545[今日の事件]脱走ペンギン捕まる 

Vol. 545(2012/7/8)

[今日の事件]脱走ペンギン捕まる

これまでにもいろいろな動物事件を取り上げてきましたが、今回はとりわけ珍妙な事件だったのではないでしょうか。

事の起こりは2012年3月3日と4日、葛西臨海水族園(東京都江戸川区)近くの海でペンギンが泳いでいるのが目撃されたことでした。同水族園が調べたところ、飼育していたフンボルトペンギン(135羽)の1羽いなくなっていることがわかりました。なぜ、それがわかったかというと「腕輪」をしていたからです。動物園・水族館では、飼育しているペンギンには翼の根元に腕輪をはめています。この腕輪は個体識別のためにつけられているものです。ペンギンは外見からでは個体識別が非常に難しいため、こうでもしなければならないのです。1羽1羽の健康を管理するためにも必要なものです(一般に鳥の個体識別は難しいもので、他の鳥の場合は「足輪」を装着することがほとんどです)。
海で泳いでいるペンギンに腕輪が確認されたため、同水族園から脱走したペンギンだとわかったのです。近隣には東京湾に接する水族館はありませんので、同水族園の飼育個体であることは明確ではあるのですが…。

このペンギンがどうやって脱走したのかは今も不明です。脱走するには人工の岩を乗り越え、さらに二重の柵を突破しなければなりません。動物園・水族園は動物が脱走しないよう、余裕を持って設計・建築されるものです。それを突破したのですから、今回の脱走ペンギンはスーパーアスリートだったのかもしれません。
動物園・水族館から動物が脱走するのは非常に不名誉なことです。なぜならそれは「管理不十分」であることを公表するようなものだからです。今回はペンギンだから実害はなかったものの、大型動物が脱走すると非常に危険です。動物の種類にかかわらず、脱走事件はあってはならないことです。ですが、脱走事件は毎年のように全国のどこかの動物園・水族館で発生しているのも事実です。

脱走したペンギンのその後を報道(朝日新聞)でたどってみると次のようになります。
5月12日、東京湾晴海沖で目撃。この時点までに約30件の目撃情報があった。
5月23日、江戸川(北小岩付近)で目撃。
そして、5月25日、午後5時30分ごろ、千葉県市川市の行徳橋付近で同水族園職員がついに捕獲しました。

この脱走のニュースを聞いて、「東京湾でペンギンが生き延びることができるのか?」と思われた方は多いでしょうが、理屈よりも何よりもちゃんと実際に生きていたのですから、重大な問題はなかったのです。
理屈の説明をしてみますと…

・気温・水温は問題ない
フンボルトペンギンはペルーやチリといった温帯に生息しているのですから日本とあまり変わらない気候と考えていいでしょう。

・食べ物は主に魚
ペンギンは海中を泳いで、主に魚を食べています。東京湾や江戸川にも魚はいます。

・東京湾は水が汚い?
東京湾の最奥部というと、水質が悪そうに思えます。ですが、ペンギンが生きていくだけの魚などがいたのは今回の事件からも明らかですので、水質は劣悪というほどではないようです。お台場海浜公園では潮干狩りや釣りもできるとのことです。そう言えば荒川河口の新木場辺りも釣り場になっています。

・ペンギンは川でも生活できる?
ペンギンは魚ではありませんから海水でも淡水でも問題ありません。

このように、東京湾のその河川でペンギンが生活することは理屈の上でも可能なのです。

脱走したペンギンを捕獲することはかなり難しいだろうと思われていました。広い東京湾でたった1頭のペンギンを探すのが簡単なはずはありません。それに見つけたとしても、泳いでいるペンギンは追跡するだけでも難しいものです。しかし、それでも捕獲の可能性はありました。
ペンギンといえども、1日中ずっと海中にいるのではありません。睡眠のため、あるいは休憩のために陸に上がる必要があります。もし、同じ場所を繰り返しねぐらに使うようならば、そこで待ち伏せすれば捕獲が成功する可能性が高くなります。ペンギンは陸上での動きが遅いという点でも、捕獲に有利です。捕獲を狙うならば、上陸した時しかありません。
そして、今回はかなり運も良かったと言えます。目撃情報を得て捕獲に向かった職員がいる目の前でペンギンが上陸してくれたのですから。2012年5月26日付け朝日新聞東京版によると、陸に上がったペンギンに接近するために、水族園職員は約5mを約20分かけて近づいていき、飛びかかったとのことです。ペンギンはあわてて水中に逃げましたが、職員が水中に落ちながらもペンギンを素手で捕獲しました。水中に逃げられたら捕獲は不可能ですので、ぎりぎりの成功だったわけです。実は、捕獲の約1時間前にも陸に上がっていたペンギンを捕まえようとし、取り逃がしていたりするのですが、まあ、結果オーライです。

捕獲されたペンギンは、葛西臨海水族園で再び他のフンボルトペンギンたちといっしょに飼育されています。そのペンギンだけ腕輪をしていないとのことですので、行く機会があるならば探してみてください。
そして、このペンギンは名前を募集され、近々発表されるとのことです。

2012年7月11日追記
このペンギンの名前は公募されたものの中から「さざなみ」が選ばれました。個体番号が「337」であることも決定理由のひとつだったそうです。


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