Vol. 547(2012/8/19)

[今日のテレビ]猿の軍団

「今日のテレビ」というより「昔のテレビ」というタイトルの方がふさわしいのですが…。

「猿の軍団」といっても若い人は知らないでしょう。40歳代以上(1960年代以前の生まれ)でないとわからないはずです。なんてことを言っている、私も年をとったな〜、と思い知らされます。
「猿の軍団」とは、1974年10月〜1975年3月に放映されたテレビドラマです(全26話)。「♪猿の軍団♪猿の軍団」という主題歌を覚えている方もいるかもしれません。日曜夜7時30分からの放映だったのですが、その時間帯はアニメ「アルプスの少女ハイジ」、「宇宙戦艦ヤマト」と重なっていたのでした。名作である「ハイジ」が好調だったのは言うまでもありません。「ヤマト」は視聴率は低調。爆発的ブームになったのは放映終了後だったのです。そして「猿の軍団」もやはり低視聴率。その後もブレークすることなく、今では知る人ぞ知る作品になってしまいました。
放映当時は私は小学校低学年、テレビのチャンネル権はありませんでしたので、断片的にしか見た記憶しかありません。現在はDVDでも出ています。せっかくだからちゃんと最後まで見てみようではないか、とある日思ったのでした。


「猿の軍団」はそのタイトルの通り、映画「猿の惑星」に似たストーリーです。つまり「現代人がサルの支配する世界に放り込まれる」というものです。
人工冬眠(コールドスリープ)の研究所の若い女性科学者と小学生の男の子、女の子の3人がコールドカプセル(人工冬眠装置)に閉じこめられ、遠い未来で目覚めます。ところが、そこはサルが支配する世界でした。人間は「裸のサル」と呼ばれ、サルたちにはおそれられています。この世界では武闘派のチンパンジーと穏健派のゴリラとの政治闘争も起きています。途中、男の人間と出会い、この4人は未来世界をさまようことになります。彼らを執拗に追うチンパンジー、人間をたびたび救う空飛ぶ円盤…。人間が消え、サルが世界を支配するようになった理由とは…と、SF色たっぷりのドラマです。
ちなみに「軍団」とはサル世界の警察+軍隊のような組織の名称のことです。ビジュアル的には「機動隊」っぽい感じです(ヘルメットをかぶっているし、オープニング映像では(ジェラルミンの?)盾を持っている姿があります)。
大がかりな特撮はありません。特別な力を持ったヒーローが出てくるわけでもありません(戦闘は殴りあいか銃撃戦)。出てくるのはサルばかりですし(笑)。空飛ぶ円盤はちょっとチープな外見だし…(苦笑)。これでは視聴率競争に勝つのは難しいでしょうねえ。ただ救いは、脚本がしっかりしていること、SF的理屈付けがちゃんとしていることです。多くの謎も後半に徐々に解明されていきます。なので、最後まであまりだれることなく見ることができました。
SF考証がちゃんとしているのは理由があります。原作者が、かの有名なSF作家、小松左京、豊田有恒、田中光二の3氏だからです。これまた若い人にはなじみが無さそうな方々ですが、当時はとても人気があったんですよ! 豊田有恒は「宇宙戦艦ヤマト」の原案、設定にもかかわっていました(「ヤマト」も実はSF考証がしっかりしていて、SFらしさを感じることができる作品です)。

ここで、放映当時の時代を振り返ってみましょう。
映画「猿の惑星」が1968年公開、シリーズ最後の第5作「最後の猿の惑星 」が1973年公開でした。「軍団」が「惑星」の人気にあやかっているのは明らかですね。そのせいもあるのか「軍団」の人気はいまいちですが、オリジナリティーをいろいろと盛り込んだ点はもっと評価されていいと思います。
「人間世界が滅亡する」という「終末論」的な点では、小説「日本沈没」(著・小松左京)、映画「日本沈没」が共に1973年でした。また、同じ年には五島勉・著「ノストラダムスの大予言」が発売され、大ブームになりました。
若い人には信じがたいことかもしれませんが、当時は東西冷戦という政治状況で、いつ核戦争が起こって世界が滅亡してしまうかもしれない、という恐怖感が(日本の)世間の通底にあったように思います。ですから「ノストラダムスの大予言」を本気にしてしまう人たちも少なくなかったのです。
「空飛ぶ円盤」については、イギリスのテレビドラマ「謎の円盤UFO」が日本で放映されたのが1970年でしたので、「猿の軍団」の頃にはある程度知られていたはずです。ちなみにピンクレディーの歌「UFO」は1977年のことでした。
こうして見ると、「猿の軍団」は当時の流行をきちんとおさえていることがわかりますね。

映画「猿の惑星」に登場するサルは類人猿、つまりチンパンジー、ゴリラ、オランウータンでした。類人猿は明らかに人間に近い存在であり、確かに高い知能を持ちうる可能性がある動物です。だからこそ、人間にとってかわる存在として描かれたのです。
一方、「猿の軍団」はというと、チンパンジー、ゴリラが特に主要な立場として登場しますが、他にもマンドリル、ニホンザル、キツネザル類(ブラウンキツネザル別名カッショクキツネザル?)、ゲラダヒヒ、テングザルなどに似た外見のサルが登場します。ただ、どのサルがモデルになっているのかはかなりわかりにくいです。特定のモデルをあまり考えずにデザインしたように見えます。
ちなみに劇中で大活躍する子ザル「ペペ」はアビシニアコロブス(ゲレザ)がモデルのようです。ただ、アビシニアコロブスの幼獣は全身の毛が白いのですがペペは成獣と同じ模様です。また、ペペのお母さんはアビシニアコロブスには全然見えません(笑)。
まあ、現生のサルと、ドラマ中のサルは別ものでしょうから、細かいことを言っても仕方がありません。
ちなみに、この未来世界には現在の世界同様の普通のサルもいます(大道芸するニホンザルが登場する)。そのようなサルは「野生のサル」と呼ばれていて、知能を持つサルとは区別されています。


「猿の軍団」を現在振り返ると、「絶滅危惧種をどうするか」というテーマがあることに気付かされます。
劇中では、人間はサルたちから恐れられる存在であり、特にチンパンジー派は人間を絶滅させようとしています。一方で、ゴリラ派は人間を絶滅から救い、保護しなければならないと考えています。「人間との共生」ではありません。人間は「保護の対象」でしかないのです。
これは1970年代としてはかなり斬新な切り口だと思います。今でこそ「自然保護」「絶滅危惧種の保護」は誰もが疑いもしないことですが、そうなったのは1990年代ごろからです。1970年代はまだ高度経済成長の続く、開発・発展の時代、自然環境問題に関心を持つ人は少数派でした。
「猿の軍団」に影響を与えたのは、おそらくトキの保護だろうと思われます。トキは第2次世界大戦後には既に絶滅の危機に瀕した動物でした。1960年代後半からは、絶滅の危機に瀕したトキを捕獲し、人工飼育・人工繁殖が試みられます。「猿の軍団」の中での人間の扱いはまるでトキのようです。それを頭に入れて「猿の軍団」を見てみると、さまよう主人公たち人間は監視される生活を嫌い、自由に生きようとしているかのようです。捕獲されたトキも、本当は自然の中で生きた方が幸せではないのか、その結果が絶滅であっても…というメッセージがこの作品にはこめられているようにも思えます。人間を保護しようとするゴリラは人間の味方のようではありますが、「常に監視された生活なんて嫌だよね?」というメッセージを脚本は視聴者につきつけているようです。人間の監視下に置かれて繁殖させられているトキやコウノトリは幸せなのだろうか…と思わずにはいられません。今は絶滅危惧という緊急事態下なので仕方ない面もありますが、人間の介入が不要になる時代が早く来てほしいものです。


さて、あなたは「猿の軍団」に興味がわきましたか? 40年も前のテレビドラマ、しかも人気作ではなかったという番組ですが…。「猿の軍団」のDVDは大きめのレンタル屋なら置いてあるはずです。ぜひ1970年代のSFテイストを味わってみてください。


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