Vol. 549(2012/9/16)

[今日の事件]ウクライナのチュパカブラの正体は…タヌキにしか見えません

しばらく前、ネットである記事が掲載されました。

ウクライナでついに『チュパカブラ』が捕獲されたと話題に」(秒刊SUNDAY、2012年09月03日)

「秒刊SUNDAY」とはニュースサイトで、主にネット上からネタを拾ってきて紹介するというスタンスです。おバカ系のネタが多いかな…。一部ではよく知られたサイトです(炎上事件とかで)。

この記事の元ネタは、記事中にもあるようにウクライナのサイトです。

http://englishrussia.com/2012/08/23/chupacabra-hunting-season/

さて、「チュパカブラ」について説明すると、主に中南米で報告されている、家畜の血を吸うという生き物です。正体不明とされ、時には宇宙生物ではないかとも言われています。いわゆる「UMA」(未確認動物)と呼ばれるジャンルで、つまりツチノコや雪男などと同じ扱いということです。中南米ではないユーラシア大陸のど真ん中になぜチュパカブラがいるのか、という疑問はとりあえず気にしないでおきましょう。


さっそくこの動物の写真を検証してみます。

ぱっと見ても明らかに哺乳類です。犬歯が目立つことから食肉目の仲間だと推測できます(イヌ、ネコ、クマ、イタチなど)。後脚の形状からも食肉目っぽい感じがします。足は蹄(ひづめ)ではないことからシカ、ウシなどの動物は除外できます。体の大きさからするとネズミやウサギも除外できます。そうするとやはり食肉目と考えるのが正しいでしょう。食肉目で未発見の動物がいる可能性は非常に低いので既知の動物と推理できます。

ツメの数は…写真からははっきりしませんが、前後とも4本でしょうか? それならばおそらくイヌ科と考えられます。

顔の模様はタヌキに似ています。ただ、脱毛症状らしく、模様がはっきりしない。この脱毛症状が疥癬症かどうかはわかりません。タヌキにしては尾がちょっと長いか?というのが気になります。全体の状況的にはタヌキが最も近いようですが、イヌあるいはオオカミの可能性もありそうです。

いずれにせよ毛が短すぎるのは確かで、おそらく脱毛症状を伴う何らかの病気だったのではないかと思われます。

ところで、タヌキは東アジアに生息する動物です。ヨーロッパには本来生息しません。なぜタヌキが東ヨーロッパ(旧ソ連)のウクライナにいるのでしょうか?

タヌキは1928年にソ連(現在のロシア)各地に毛皮を取る目的で移入されました。それが逃げだしてヨーロッパ各地に分散していったのです。主に東ヨーロッパに生息しているようですが、フィンランドやフランスにも分布を広げているとのことです。ウクライナも旧ソ連、生息していても不思議ではありません。

しかし、ヨーロッパの人にとってはタヌキはなじみがない動物です。イヌでもオオカミでもキツネでもない奇妙な動物、と思われるのは確実で、UMAと見なされてもしかたないでしょう。

「本来の生息場所ではない場所に持ち込まれた」ということは、ヨーロッパにおいてはタヌキは「外来生物」であることを意味します。日本におけるアライグマと同じことです。「そこにいるべきではない動物」であるため、駆除されるとしても仕方がないでしょう。

それにしても、オオカミやキツネに比べてもそんなに強そうには見えないタヌキが分布を広げているというのも不思議に思えます。おそらく、オオカミ、キツネの生息環境に重ならないように生きているのではないでしょうか。タヌキは住宅地(より人間に近い環境)にも適応しやすいという性質が有利に働いているのかもしれません。


ところで、もしチュパカブラらしい生物を発見した場合、どうすればいいのでしょうか。そりゃ、その動物を捕獲して大学など確実な調査ができる所へ送り込むに限ります。しかし、捕獲はなかなか難しいことです。そうなると映像での証拠が必要となります。

今回の事件のように死体の場合は、保管も移送も簡単ですので、ぜひちゃんとした所に持ち込むべきです。

ただ、本物のチュパカブラかどうか、どうにも自信がないというのならば、写真を公開して意見を求める方法もあるでしょう。

写真を撮る時には次の点に注意してください。

・全身の写真。大きさがわかるように定規などもいっしょに写してほしい。
・足指の写真。前足、後足両方。肉球側から撮ること。
・歯の写真。口をこじ開けて、上側も下側も歯並びが完全に写るようにすること。
その他、特徴的な箇所を撮っておきましょう。

たったこれだけでも正体を推測するには十分な情報量があります。今回のチュパカブラの写真はこれらの情報が不足しているため、残念ながら確実な判定はできませんでした。

「正体不明の動物」の写真というものは、たいてい上記のポイントが撮影されておらず、そのままうやむや迷宮入りとなってしまうものです。謎を解明したいのならば、写真を撮る時には上のポイントに注意するようにしてください。


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