Vol. 558(2013/3/10)

[今日の事件]重症熱性血小板減少症候群による死亡事件
マダニにどう対処すればいいのか?

最近突然マダニに注意するように、という報道が増えました。
これは正確には、マダニが媒介するウイルスによる感染症で死亡例があったためです。これは2013年1月30日に厚生労働省が発表しました。
この文章の執筆時点で判明した死亡例は、山口県、愛媛県、宮崎県、広島県、長崎県での各1件、計5件です。この内、長崎県は2005年、他は2011年の発生でした。
きっかけになったのは、昨年秋の山口県での死亡例でした。血液を国立感染症研究所が調べたところ感染が判明しました。さらに他の疑わしい例を調べたところ他の感染例もわかったとのことです。
この感染症の名前は「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」と言います。重症熱性血小板減少症候群の症状は、発熱、嘔吐、下痢、腹痛などで、血小板、白血球が減少することがあります。致死率は現時点でははっきりしません。
原因はマダニが持つブニヤウイルス科とされています。「科」は複数の種を含むグループを意味します。重症熱性血小板減少症候群の原因ウィルスが特定されたのはつい最近の2011年のことで、分類上の位置づけなどがまだ不明確なことから「科」というあいまいな位置付けになっていると考えられます。今後、正式な名前がつけられることになるでしょう。
重症熱性血小板減少症候群が最初に注目されたのは中国で、2009年以降に集団発生した事例がありました。本格的な研究はその頃始まったようです。

こういう経緯があると、「中国は危険だ」と思ってしまう方が多いかもしれませんが、日本での症例は中国とは関係無いと考えられます。
というのは、日本のいずれの死亡例でも患者には最近の海外渡航歴がないからです。また、ダニにかまれた跡もないとのことです。そのため、そもそもマダニが感染経路かどうかさえ断定できない状況なのです。ウィルスも中国で確認されたものとは別のタイプだとのことです。
また、死亡例が西日本に広く散らばっていることから、既に広範囲に広がっていると推測できます。つまり、この病気はずっと以前から存在しており、最近になってようやく存在と原因が判明したということかもしれないのです。

マダニが本当に原因かどうかはわからないものの、絶対に安全とも言いきれません。そのため注意は必要ですが、心配しすぎることはありません。
マダニは屋外のみに生息するダニです。都会で普通に生活しているならばまず気にする必要はありません。主に草むらに生息しますので、登山やハイキングに行くならば注意が必要です。庭仕事でも注意してください。長袖、長ズボンを着用するのは当然の対策です。ただし、それでも服の中に入ってくることがあります。
マダニは大きさは3mmほどで、ダニとしては大きい方です。ただ、かまれても痛みを感じにくいことが多いため気付かれないこともあるようです。吸血すると1cmにもなるので肉眼でもはっきりと確認できます。かまれた場合は引き抜いたりつぶしたりせずに、皮膚科を受診するようにしてください。マダニは重症熱性血小板減少症候群の他にも日本紅斑熱、Q熱、ライム病なども媒介しますので、重症熱性血小板減少症候群とは関係ないとしても注意しなければなりません。

なお、屋外にはもっと小さなダニが他にもいろいろいます。庭仕事の時にはそれらを見かけることがあるでしょうが、そのほとんどは人間には無害な種類です。例えば春から初夏に現れる小さな真っ赤なダニがいますが、これはタカラダニという種類で、まったくの無害です。ダニを見つけたからといっていちいち大騒ぎしていては何もできなくなってしまいます。マダニにかまれても、適切に対処すれば問題はありません。
ダニというとアレルギーも有名ですが、その原因になっているのは屋内に生息するコナダニ、ヒョウヒダニなどのフンや死がいです。今回の事件とダニ・アレルギーとはまったく関係はありません。

いずれにせよ、何らかの症状があった場合はちゃんと病院で診察してもらうべきだということです。重症熱性血小板減少症候群の発熱、嘔吐、下痢、腹痛といった症状は他の病気でも起こり得るものです。素人判断はせず、医師に任せるようにしましょう。


※2013年3月12日追記

同日の朝日新聞(東京版)夕刊によると 、さらに長崎県、佐賀県、高知県で1名ずつの感染例が確認されたとのことである。いずれも回復している。内2件はマダニにかまれていた。
また、中国での重症熱性血小板減少症候群の死亡率は十数%だったとのこと。

やはり感染に気付かず、原因不明か他の病気だとされている例は多そうですね。死亡率についても適切な治療方法が確立されればもっと下がるものと思われます。


[いきもの通信 HOME]