いきもの通信 Vol.563[今日の事件]オオタカを希少種から外すことを検討 

Vol. 563(2013/6/9)

[今日の事件]オオタカを希少種から外すことを検討

2013年5月、オオタカが希少野生動植物種から外されるかもしれないという報道がありました(朝日新聞5月14日、22日)。
希少野生動植物種というのは文字通り生息数が少なく絶滅のおそれがある種ということです。正確には、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」(種の保存法)により指定されている「国内希少野生動植物種」のことで、動物は64種が指定されています。

種の保存法の解説(環境省)

オオタカの国内希少野生動植物種からの削除の検討について(環境省)

希少野生動植物種(以下、希少種)から外されるということは、絶滅のおそれがほぼなくなったということです。日本野鳥の会の1984年の調査では全国で300〜489羽だったそうで、これは本当に絶滅しかねない数字でした。しかし2008年の別の研究者らによる推計では、関東と周辺の10都県での生息数は約5800羽と推計されました。これだけの数が生息しているのならば確かに絶滅の心配はなさそうです。
しかし、これらの数字に疑問を持つ人がいるかもしれません。たった20年でそんなに数を増やすことができるものでしょうか? タカ、ワシ類は動物食であり、生態系ピラミッドの頂点に位置づけられる動物です。そのような動物はそもそも子どもの数は少ないものです。ある資料では巣立った幼鳥の数は約2羽だそうです。

37の事例から見たオオタカの営巣環境」(プレック研究所)

巣立った若鳥すべてが繁殖に成功するわけではないだろうことを考えると、20年ほどでのこの回復はありえないように見えます。これはどう解釈すればいいのでしょうか。
まず、1984年の調査ですが、この数字はおそらく過小であると考えられます。いくら日本野鳥の会でも全国をすみからすみまで調査することは難しいはずで、アンケート調査による結果だそうです。つまりこの数字は当時知られていた生息数の合計であり、つまり、未発見のオオタカがまだ他にも多くいたということです。
2008年の調査の方はどうでしょうか。この論文はネットで公開されています。

生息環境モデルによるオオタカの営巣数の広域的予測:関東地方とその周辺」(尾崎他、2008)(PDFダウンロード可)

論文の内容はちょっと難しいものですが、簡単に言うと「生息環境と営巣数の関係を数値モデル化し、10都県の生息環境から営巣数を推測した」ということです。現在でもさすがにこれだけの面積を全域調査するのは難しく、実際に調査したのは88メッシュ(1メッシュ=5km×5km)だそうです。この論文での推定値は
予測営巣数=2909
(95%信頼限界:1699〜5196)
でした。
巣にはつがい2羽がいるわけですから、これを2倍して約5800羽という数字が報道されたわけです。
「信頼限界」というのは本当は「信頼区間」と言うべきでしょうが、ここでの意味は「営巣数が1699〜5196である確率は95%」ということです。95%ということはかなり確実性が高いということですが、その範囲が「1699〜5196」というのは幅がありすぎです。
もし「95%信頼区間で2800〜3000」という推計だったなら、「ほぼ2900前後で間違いなさそうだ」と言えますが、「1699〜5196」だと上限と下限で3倍近くも差があるわけですから、どう解釈すればいいのか迷ってしまいます。
ただ、下限値だとしても生息数はかなり多いわけで、希少種から外すという議論が起こっても当然でしょう。ただ、できるなら全国的な同様の調査も実施されるべきでしょう。

生息数の調査というのは非常に難しいものだ、ということは「いきもの通信」でも時々紹介してきましたし、東京タヌキ探検隊!の東京都23区のタヌキの生息数の推定でもかなりあいまいな数字しか出せていません。ですが議論をするための基礎資料としては重要な数字です。他のさまざまな動物についても生息数調査は行われるべきものです。


オオタカはこれまで「自然保護の象徴」として扱われることがよくありました。山林の伐採や山間地の開発に反対するための象徴として「オオタカを保護せよ」と叫ばれてきました。確かに希少種なら保護は必要です。しかし、あちらでもオオタカ、こちらでもオオタカ…となっていることに私は疑問を持っていました。希少なはずのオオタカがなぜそんなにあちこちにいるのだろう、と。
大阪府吹田市の万博記念公園では2007年からオオタカの営巣が確認されています。万博記念公園って、そんなにど田舎ではありませんよね? 公園はかなり広大な緑地ですが、周囲は住宅街です。
朝日新聞(2007年7月7日)の読者欄では仙台市の青葉山でオオタカが営巣しているという投稿がありました。青葉山も都市に近接した場所です。
オオタカはいろいろな自然環境に適応できる動物なのではないでしょうか。

では、保護の必要はもはや必要ではないのかというとそうでもありません。オオタカは密猟者に狙われやすい動物なのです。その目的は剥製で、海外で高く売れるのだそうです。密漁のおそれは現在でもまだあるとのことです。
オオタカは国内では鳥獣保護法により狩猟禁止ですし(希少種かどうかは関係ない)、国際的にはワシントン条約附属書II類記載ですので輸出国の輸出許可書が必要となります。つまりオオタカは合法的には商業ルートに乗るものではないのです。

法律やワシントン条約がある限りオオタカの保護が緩められることはありません。ですので希少種から外されるとしても心配はないのです。
ですが、オオタカを自然保護の象徴のように祭り上げていた人々にとってはその権威を失うに等しいことかもしれません。
なぜオオタカを保護しなければならないのか、オオタカだけを保護すればいいのか。自然保護派は戦略の立て直しを迫られているのです。


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