Vol. 573(2013/11/17)

[今日の事件]エビ偽装事件

どこまで正確に表示すればよいのか

このところ世間をにぎわせているのが「食材偽装事件」あるいは「食材誤表示事件」です。「偽装」なのか「誤表示」なのか表現がよく定まっていません。
さて、今回の事件、何が問題なのでしょうか?

しぼりたてではないジュースをフレッシュジュースと呼ぶのは…ダメですよね。

加工肉を「ステーキ」と呼ぶのは…やっぱりダメです。

産地を偽った食材は…当然ダメです。

では、バナメイエビを芝エビと表記したのは… …もう、どうでもいいです(笑)。

分類学で言えば、バナメイエビとシバエビは別の種です。ただ、エビなど水産物は別名も非常に多く、整理しないとわかりにくいものです。
以下、標準的な名前と学名、別名を並べてみました。これらの名前は「生物学的に妥当」なものです。

シバエビ(学名Metapenaeus joyneri)(芝エビ)

クルマエビ(学名Marsupenaeus japonicus)(車エビ)

バナメイエビ(学名Litopenaeus vannamei)
 
コウライエビ(学名Fenneropenaeus chinensis) 別名「タイショウエビ(大正エビ)」

ウシエビ(学名Penaeus monodon) 別名「ブラックタイガー」

ホッコクアカエビ(学名Pandalus eous)  別名「アマエビ(甘エビ)」

ピンクエビ=学名Penaeus dourarumなどの総称

かなり混乱しているのが「イセエビ」です。
「イセエビではなくロブスターでした」と謝っている事例があったようですが、謝っている本人も何を言っているのか理解していないのではと思われます。
ロブスターとは「大型のザリガニ」のことで、狭義ではロブスター属 (Homarus)  の種を指します。一般に「食用ロブスター」と認識されているのはこの種です。
広義ではイセエビ類も含む大型の歩くエビのことです。ただし、ザリガニ類とエビ類は形態が明らかに異なります。
このように定義にかなり幅があるのが問題なのです。
イセエビ(学名Panulirus japonicus)は英語で「Japanese spiny lobster」なので、ロブスターと言えなくもありませんが、正直言ってやはりロブスターと呼んでほしくはないです。
偽装事件での「イセエビではないロブスター」とは、オーストラリアミナミイセエビ(学名Jasus novaeholandiae)、アフリカミナミイセエビ(学名Jasus lalandii)のことを指していると思われます。

混乱しやすい水産物の名称については、実は水産庁が方針を示しています。

魚介類の名称のガイドラインについて(水産庁) 

これを見るとかなり厳密に決められているのがわかるでしょう。ただし、このガイドラインは水産庁の管轄下だけにしか影響しないようです。つまり、飲食店まではしばれないのです。


今回の事件のようにエビが別の種類で代用されているというのはあまり歓迎したくはないことです。ただ、食べている皆さんはこれらを厳密に区別できるでしょうか? 「俺はMetapenaeus joyneri以外は認めない!」と言う人はいるでしょうか?

今回の事件ではこういう報道もありました。

一方、約5千の中国料理人が加入する公益社団法人「日本中国料理協会」(東京都)は、問題になったエビの表記について、正確に記すようメンバーらに伝えた。今後、小さいエビの総称にも使われた「芝エビ」を「エビ」「小エビ」と記すよう求めている。  協会によると、中国料理店では大きさでエビを分類することがあり、小さい順に「芝エビ」、「車エビ(大正エビ)」、「伊勢エビ」と表現する店もあったとみられる。 (朝日新聞、2013年11月2日 夕刊(東京版))

いやはや、業界がそう言っているのなら、それでいいではありませんか(笑)。そもそもエビは輸入もの、養殖ものが多いことは周知の事実です。例えばイセエビ類は、国産イセエビの割合はたった1割です(2013年11月17日付け朝日新聞(東京版))。今さら騒ぐことでもないように思います。
エビではありませんが、「鮭弁当(通称:シャケ弁)」のサケは、私たちがイメージするサケ=シロザケ(学名Oncorhynchus keta)はまず使われていません。これも「偽装だ!」と騒ぐのでしょうか?


もし厳密に表示しなければならないとするならば、日本語名と学名と産地をメニューに併記するしかないでしょう。水産物だけではなく、肉類や農産物までこれを広げるととても大変なことになります。レストランのメニュー表示は膨大な量になってしまうでしょう。メニューのページ数が数倍になりかねません。コンビニの幕の内弁当で考えてみると、米(品種・産地)、魚(日本語名、学名、産地)、肉(種類、品種、産地、部位、加工したかどうか)、農産物(日本語名、品種、産地)、その他に添加物などなど…とこれらの表示をするだけで弁当の中身が見えないほどになってしまいそうです。
そこまで本当に必要なのでしょうか? 私たち消費者はどこまでわかれば十分なのでしょうか? この機会にみんなで考えてみるのはいいことだと思います。一連の事件がバッシングだけに終わらないよう、うやむやの内に忘れ去られないよう、考えてみてください。
例えば、各種食品やレストラン、コンビニ弁当の表示、スーパーでの魚、肉、野菜の表示がどうなっているか確認してみるといいのではないでしょうか。表示は不足か、過剰か、あなた自身で判定してみてください。


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