Vol. 578(2014/5/25)

[東京コウモリ探検隊!]バットディテクターを使ってみたら川は超音波に満ちあふれていた

この「いきもの通信」ではまだ報告していませんでしたが、昨年2013年から「東京コウモリ探検隊!」を始めました。これは東京都23区のどこにアブラコウモリがいるのかを調べるプロジェクトです。隊員募集中です。詳しくはホームページをご覧ください。
※東京タヌキ探検隊!の活動も継続しています。

今回はそのコウモリ探しについての話です。


コウモリは超音波(人間の耳に聞こえない高周波数の音)を使って昆虫などの獲物を探して食べます。一部のコウモリ(オオコウモリの仲間)は超音波は使いません。
超音波は当然人間の耳には聞こえませんので、聞こえる周波数に変換する装置があります。それがバットディテクターです。
仕組み自体はそれほど難しいものではありません。電子回路に詳しい人なら自作もできるでしょう。

昨年から私は東京コウモリ探検隊!の活動を開始し、東京都23区内をあちこち歩き回りました。
アブラコウモリを見つけるのはそう難しいものではありません。ですがコウモリの数が少なかったり、川が暗かったりすると(アブラコウモリは水面近くを飛ぶことが多い)、目視での確認はちょっと時間がかかってしまいます。そういう時はバットディテクターがあれば便利だろうなあ…と思ったものです。

東京コウモリ探検隊!をやっているならバットディテクターが役に立つかどうか実際に試してみることも必要だろうと考え、今年は最初からバットディテクターを使ってみることにしました。

私が買ったのは「YS Design Studio」の「USD7」(2014年モデル)という商品です。



これは個人による手作り商品です。選んだ理由は、16000円と比較的低価格であることだけでなく、単4電池2本で作動するということでした。電池の入手が容易であることは重要です。100円ショップでも買えるというのはとてもありがたいことです。他の製品では9V電池など特殊な電池が必要なのが問題でした。

バットディテクターを購入したものの、日常生活で超音波が気になることはありませんのでしばらくは放置していました。
実際に使用してみたのは4月中旬のことです。目的地は、東京の都心部を流れる古川(上流側を渋谷川、下流側を古川と呼ぶ)です。
その日は日没時の気温は15度以上が予想され、アブラコウモリは活動可能なはずです。
しかし、都心を流れる川にアブラコウモリがいるかどうかは自信がありませんでした。去年の経験から言うと都心部にはアブラコウモリはいない可能性も考えられたからです。

そして現場到着。スタート地点は麻布十番の一之橋です。
アブラコウモリの超音波は40〜50kHzなので、まずは50kHzにバットディテクターをセッティングしておきました。
ですが、一之橋周辺は河川工事中、バットディテクターは無反応でしたし、目視でもアブラコウモリは確認できませんでした。
そこから古川をさかのぼっていきます。
次の橋は小山橋です。
橋に到着してバットディテクターをONにした途端、はっきりとした「カカカカカ…」というクリック音がスピーカーから聞こえてきました。これはひょっとして…と、橋の下を見ると確かにアブラコウモリが1頭飛んでいました。おお、これはけっこういいかも…。
引き続き川をさかのぼって行き、橋や川に沿った場所などでバットディテクターを使ってみました。アブラコウモリの姿は見えないがクリック音が聞こえる場所もありました。そういう場合はしばらく待っていると近くに飛んで来た姿を確認できました。
これまではコウモリが見えない時はを目視できるまでじっと待たねばなりませんでしたが、本当にコウモリがいるのかどうかわからないので待つのをやめるタイミングを決断するのがが難しかったです。
バットディテクターがあればコウモリが見えないとしてもいる・いないはすぐわかります。バットディテクターが無反応ならコウモリはいませんので、さっさと次の観察場所へ移動できます。観察の効率化には役立ちそうです。

コウモリが1頭か、複数頭かも音を聞けば何となくわかります。
1頭だけの時はクリック音が明瞭に聞こえますが、複数頭になるとクリック音はわかるもののごちゃごちゃした感じになるからです。

コウモリ以外の超音波は聞こえてこないのか、と思われる方もいるでしょうが、超音波はどこにでもあるものではなさそうです。もちろんあらゆる周波数を調べているわけではありませんが、超音波にはなかなか遭遇できないものです。

バットディテクターが反応した一例は自転車です。金属がこすれ合う時には超音波が発生するらしく、近くを自転車が通過するとバットディテクターからも音が聞こえます。その音は「カカカカカ…」というもので、走行中にペダルを回していない時の空回りの音がよく聞こえます。ほとんど整備していない古い自転車ほど音がよく聞こえるようです。自転車超音波は通過してしまえば聞こえなくなるので観察の邪魔になるものではありません。
自転車のブレーキ音で人間の耳に「キキーーーッ」と聞こえる音は超音波でも同様に聞こえています。しかもかなりうるさいです。
金属のこすれ合う音としては、カギや硬貨がじゃらじゃらとぶつかる音も超音波を出しています。コウモリ観察の時には服やかばんに金属製のアクセサリーはつけない方がいいかもしれません。
草や落ち葉を踏みつけると「ジャリ、ジャリ」と超音波が発生しますので(しかもうるさい)、ちょっと注意した方がいいでしょう。

他に超音波が聞こえた例は、停車中の自動車が出すパルス音があります。エンジンをかけたまま停車している時、前後の安全を確認するために超音波を出しているらしいのです。超音波はすべての車が出しているわけではありません。というか、ほとんどそういう車には遭遇しません。走行中のトラックが超音波を出していたりしましたが、どういう車種がどういうタイミングで超音波を出しているのかよくわかりません。将来はすべての車が超音波を出すようになるとすると、コウモリ観察にはちょっとやっかいですね。
ちなみに車が出す超音波は25kHzぐらいのようですが、アブラコウモリの超音波の40〜50kHzでも聞こえてきます。
また、ビルの駐車場の出入り口でも超音波が聞こえたことがあります。車の出入りの時にブザー音を鳴らす所がありますが、これはセンサーが超音波を使っているようです。
こう書くとビル街や商業地域は超音波だらけでうるさそうに思えますが、実際に超音波を拾うのは「時々」という程度でしかありませんのでコウモリ観察の邪魔ではありません。交通量の多い場所だと何かの超音波ノイズを拾うことがありますが、正体は不明です。

バットディテクターは昆虫の鳴き声も拾います。5月上旬に仙川をたどった時は、途中でかなりうるさい昆虫に何度か出会いました。バットディテクターを使っても使わなくてもうるさいのですが、40kHzあたりがピークらしく、アブラコウモリの超音波にかぶってしまいます。しかもアブラコウモリよりもうるさい! 偶然かもしれませんが、この昆虫の鳴いている付近はアブラコウモリもあまり飛ばないようです(要検証)。
家に帰って調べたところ、この昆虫はどうやらクビキリギスのようです。途切れることなく「ジーーーーーーーー」と鳴くのが特徴です。夏以降はセミを含めていろいろな昆虫が鳴きますので、バットディテクターではどう聞こえるのか楽しみです。

川沿いを歩いていると、バットディテクターはほとんどの場所でアブラコウモリの超音波をとらえます。川は超音波に満ちあふれていると言ってもいいでしょう。しかも川は3面コンクリート張りなので非常によく反響しているはずです。
一方、川から離れて住宅街を歩くとバットディテクターは無反応です。もちろん住宅街をすみからすみまで歩いてみたわけではありませんし、公園などでアブラコウモリがいることもあります。それでも川のにぎやかさに比べ、「沈黙」と言ってもいいほどです。

ここであることに気付きます。
図鑑などではアブラコウモリは「都会でも普通に見られる」と書かれています。例えばWikipediaでは「東京都心をはじめとする都市部の市街地にも数多く棲息し、夕刻の空に普通に見られる。」とあります。
「普通に見られる」と言われている割にはアブラコウモリを実際に目撃した人はかなり少ないようです。もちろん、コウモリだと気付かないということもあるでしょう。
しかし、こうやって現地を調べてみると、アブラコウモリが最も多く見られるのは河川、しかも地面より低い場所を夜飛んでいるのです。日没時刻に近ければ気付く人はいるかもしれませんが、真っ暗になると肉眼での確認はかなり難しいです。これでは誰も気付かないのも当然です。
「都会では河川に多い」ということをきちんと記述した文献はこれまであったでしょうか?
Wikipediaではさらに「都市部では、有機物量の多い汚濁河川から大量に発生するユスリカが重要な食物となっていることが多い。」とも書かれていますが、これだけで「都会=川に多い」と理解できる人はどれだけいるでしょうか。

ですのでここではっきりと書きましょう。
「東京都23区でアブラコウモリが最も多いのは河川である」
と。
ただし、どの川にでもいるのではありません。例えば日本橋川ではほとんど生息はありませんでした。ビル街や海に近い場所には生息していない可能性が考えられます。
このような条件は付きますが、これも今後検証していく予定です。


バットディテクターは確かに持っていると便利な道具です。
ですが必ず持たなければならないものでもありません。たいていは肉眼でも十分視認できますから。初心者がいきなり購入する必要はないでしょう。

もし、いろいろな場所でコウモリを探し回るのならばバットディテクターは役に立つでしょう。真っ暗な場所だとやはりバットディテクターがなければコウモリがいるかどうかはわかりません。本格的に調べたいならば持っていて損はないモノだと思います。


バットディテクター追加情報

・電池は長持ちし、数時間程度で切れることはありません(アルカリ乾電池で使用)。既に20時間ほど使ってますがまだ大丈夫です。ですので観察中はずっと電源は入れっぱなしにするのが良いでしょう。
・感知できる距離は20〜30mぐらいのようです。
・指向性は弱いので、向きは適当でも超音波を拾ってくれます。
・アブラコウモリの超音波は「カカカカカ…」とか「ピキピキピキピキピキ…」という音です。鳥の鳴き声っぽく聞こえることもあります。同じ個体でもバットディテクターの周波数を上げ下げすると音の感じも変わってきます。
同じ周波数のままでも、個体によって音の感じは違っています。アブラコウモリの声にも個性があるようです。(個体識別ができるか、誰か研究してみてください。)
・街灯も無いような本当に暗い場所ではコウモリを肉眼で見つけることは不可能です。そういう場合はバットディテクターは必須です。
・アブラコウモリは飛び続けていますので、超音波の音量は距離によって大きくなったり小さくなったりします。また、時々「ジーー」という音になります。人工的な超音波は一定音量の規則的なパルス音ですのでアブラコウモリとの区別は簡単です。
・アブラコウモリの超音波の周波数はさらに上下に広がっていますが、音量が小さくなるのでバットディテクターにセットするならやはり40〜50kHzが適切なようです。

まだ使い始めたばかりなので、これからも気付くことがいろいろあるでしょう。


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