Vol. 585(2014/9/14)

[今日の本]「コケのふしぎ」「地衣類のふしぎ」

「コケのふしぎ」著・ 樋口正信(サイエンス・アイ新書、2013年)
「地衣類のふしぎ」著・ 柏谷博之(サイエンス・アイ新書、2009年)

今回は珍しく動物の話ではありません。しかもかなり地味な生物の話です。

ありとあらゆる生物は研究の対象になっています。ということは、道端に生えているコケだって調べている人がいるのです。
ですが、普通の人がそれを調べようと思ってもなかなかいい入門書もなく、取っかかりがありません。そこでお勧めしたいのが今回の2冊です。

コケはわかるとして、「地衣類」ってなんだ? コケの親戚? と思われる方は多いはずで、私も地衣類の正確な定義は知りませんでした。
まずコケの方を定義しますと、コケとは「光合成を行う植物」であり、「胞子で増え」、「藻類とシダ類の中間的な植物」と言えます。ですからコケには葉もあります。
もう一方の地衣類とは「菌類」と「藻類(緑藻、藍藻)」という異なった生物が共生している状態なのです。菌類は藻類に安定した環境と水と無機物を与え、藻類は菌類に光合成で作られた栄養を与えるという共生関係なのです。
ここでの菌類とは、バイキンとか細菌のことではなく、キノコやカビなどの仲間のことです。
地衣類は、分類上では菌類(特殊な栄養獲得方法を持つ菌類)として扱うことになっています。

紛らわしい言葉として「地被類」というものもありますが、これは地表を覆う植物一般のことを指し、人工的な植栽のことでもあります。代表は芝生ですね。

コケはとても小さな植物ですのでその正確な姿を知っている人はかなり少ないでしょうが、よく見ると茎もあれば葉もあり、葉緑素もあるので緑色に見えます。ルーペで観察すれば確かにこれは植物であると納得できるでしょう。
ところが地衣類の方は植物的な外見ではありませんのですぐ見分けがつきそうです。ではどういう形状をしているのかというと…これがまた説明にしにくいものであり、しかもさまざまなバリエーションがあります。色は緑色以外もありますが、共生藻が葉緑素を持っているので緑っぽい色になることが多いようです。

この本を読んでも「なるほど、すべてわかった!」とはならないでしょう。特殊な用語が多く、それについての解説がやや足りないからです。図や写真をもっと多く載せてほしかったです。また、生物の大きさがどれぐらいなのかも書いてほしかったです。大きさがわかるだけでも発見がやりやすくなりますから。
ただ、どちらも微小な構造を持つために野外ではルーペ、持ち帰ってからは実体顕微鏡が必須の道具になるようです。地衣類の場合は岩石にくっついているものを採集するためにハンマーとタガネが必要なのだそうです。なかなかの力仕事なのです。

コケや地衣類を理解するには、やはり自分で実物を見なければわかりません。
ありがたいことにコケも地衣類も身近な場所で簡単に発見することができます。都会のど真ん中でもギンゴケぐらいは見つかるでしょう。簡単に実物を観察できるということは、敷居がかなり低いということでもあります。ルーペさえあればその世界を楽しめそうです。
Amazonで調べてみるとコケの本はいくつかありますので、そういった本も観察の資料にできるでしょう。地衣類の本はほとんどなく、情報収集が最大の難関かもしれません。

この本を読んだ後は、私も道端のギンゴケが気になるようになりました。暑い日が続くと縮んでしまうような感じだったのが、雨が降ると青々となり元気が出てきたようにも見えます。もうちょっとゆっくりと観察したいところですが、今の私はタヌキやコウモリで忙しく、そんな時間はなかなかありません。ヒマだった10年前なら自分でいろいろ調べてみようと思ったかもしれません。それぐらい面白そうなジャンルです。

[いきもの通信 HOME]