Vol. 589(2014/11/23)

[東京コウモリ探検隊!]バットディテクターでコウモリ以外の超音波を探してみた

バットディテクターはその名前の通りコウモリの超音波を探知するための装置です。ですが超音波はコウモリだけが出し ているわけではなく、さまざまな動物や機械なども出しています。
アブラコウモリ探索をしているとそういった超音波がいろいろあることに気付きました。今回はそんな超音波を紹介します。

なお、この記事では周波数はすべてkHzで統一しています。

まず、超音波とはどういうものかを確認しておきましょう。
人間が聞こえる音の上限は20kHz付近とされています(個人差があります)。これを超える周波数の音が超音波と呼ばれます。ぴったりこの周波数から上が 超音波だ、と決まっているわけではなく、だいたい20kHzあたりから上が超音波となります。
CDに記録されている音の上限も20kHz程度です(一定ではない)。

参考として、音階の周波数は次のようになっています。

C4(中央ド)=0.262kHz
A4=0.44kHz
C8=4.186kHz ←88鍵ピアノの最高音、ピッコロの最高音。最高音でも超音波にはほど遠いのです。
C9=8.372kHz
C10=16.744kHz ←この辺りでようやく超音波に近くなります。

このように音楽的な周波数はかなり低いものです。
音楽に限らず、10kHz以上の音に遭遇することは普段はあまりないはずです。

昔のブラウン管テレビからは「キーーーン」という音が聞こえていましたが、あれは約16kHzの音です。これは聞こえる人も聞こえない人もいました。
ビートルズのアルバム「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」の最後の曲「A Day In The Life」の最後には「イヌに聞こえる音」が収録されていることで有名ですが、この音は15kHzとのことです。この音が聞こえる人も多いはずです。

ここからは私が実際に遭遇した超音波を書いていきます。

まず最初に誰でも簡単に出せる超音波を紹介します。
例えば、「指先をこする」「髪をごしごしかきむしる」「鼻をすんすん言わせる」といったことで簡単に超音波が出せます。これらの方法でバットディテクター が正常に動作しているかの確認ができます。
コインをじゃらじゃらさせると超音波が出ます。一般に金属がぶつかりあうと超音波が出ます。
ポリ袋を扱う時のカサカサ音も超音波を出しています。

※超音波はある程度の周波数の範囲で聞こえます。以下では特に強く聞こえる周波数を記しています。


●自然音

超音波を出していそうな動物というと、やはり昆虫です。
まずはセミ類から。

ニイニイゼミは20~30kHz、アブラゼミは13〜20kHzで強く聞こえます。バットディテクターを通してもほぼ同じような音に聞こえます。

ミンミンゼミ、ツクツクホウシはどちらも20kHz前後が強いのですが、耳で聞こえる音と超音波は一致しません。
だいたい次のように聞こえるのです。

ミンミンゼミ

可聴音 ミーーン、ミーーン、ミーーン、…
超音波  シーン、 シーン、 シーン、…

ツクツクホウシ

可聴音 オーーシン、ツクツクツクツクツク…、オーーシン、ツクツクツクツクツ ク…、…
超音波    シャ、               シャ、             …

ミンミンゼミの鳴き声は近くでよく聞くと確かに「ミシーーン、ミシーーン」と聞こえます。ツクツクホウシの「シン」の部分も人間の耳に聞こえているのかも しれません。

鳴く虫の代表はコオロギやキリギリスの仲間です。

これらの中で一番うるさいのはクビキリギスでしょう。40kHzあたりがピークで、アブラコウモリの超音波にも重なってしまいます。ちなみに人間の耳にも かなりうるさく聞こえますのでかなり幅広い周波数で音を出しているようです。

コウモリ探索をしていると、耳には何も聞こえないのに、「シャー、シャー」という強い超音波が聞こえてきたことがありました。これにはびっくりしてしまい ましたが発生源はキリギリス類であることは間違いありません。結局、その昆虫の正体まではつきとめませんでした。誰か調べてみてください。

以上のように、キリギリス類は鳴き声がかすかでも超音波域ではよく鳴いているようです。

次はコオロギ類ですが、エンマコオロギ、アオマツムシではだいたい20kHz以下のようです。
エンマコオロギの超音波は強くありません。
アオマツムシの超音波は少し強く聞こえました。

これらをまとめると、キリギリス類は主に超音波領域で、コオロギ類は主に人間の可聴域とほぼ同じ範囲で鳴いていると言えるようです。

・その他の自然音

鳥の鳴き声も調べようと思っていたのですが、そういう機会にはなかなか遭遇できませんでした。コウモリ探索は日没後に行うもので、ほとんどの鳥たちは寝て しまっていますから。
わずかにあった機会でバットディテクターを使ってみたのですが、何も聞こえませんでした。鳥は超音波は出していないと思われますが、誰か検証してくださ い。

雨が地面に叩きつける音も超音波を含んでいます。ある程度強く降らないとバットディテクターでは聞こえないと思います。
雨が降ると「サーーー」という音が聞こえますが、この音には超音波も含まれているようです。
(この音の周波数は記録していなかったので不明です。)


●人工音

・自転車

人工音の中で最も遭遇確率が高いのは自転車です。
走行時にペダルを回転させずに空回りさせている時に「カタカタカタカタ…」と音がします。
「キキーーッ」というブレーキ音はかなりうるさいです。
どちらも周波数の範囲は広く、アブラコウモリ探索をしていると普通に聞こえてきます。

・バス

バスが停車する時やドア開閉時に「プシュー」という音がしますが、この音は離れていてもかなり強烈な音がします。
これも周波数の範囲は広く、あまりにも強烈であるため、アブラコウモリ探索をしている時には注意しなければならないのですが、予告もなく突発的に発生する ので注意のしようがありません。バットディテクターの音をイヤホンで聞くのはやめた方がいいです。

・自動車

すべての自動車が超音波を出しているのではありません。私が確認できたのはベンツ(50kHz)、ボルボ、日産といったメーカーですが、その全車両が超音 波を出しているわけでもないので多分オプション品なのでしょう。
自動車は主に低速走行時に超音波を出しているようです。これは車庫入れ時など比較的近距離の物を探知するために使われているからのようです。
具体的には自動車から超音波を発射して、その反射を読み取っているのです。これはいわゆる「レーダー」で、コウモリやイルカの超音波による探知(エコーロ ケーション)と同じものです。自動車では他にもレーザー(赤外線)、ミリ波(電波)をレーダーとして使っています。

自動車の超音波

この波形は国産車の超音波です(車種は確認する前に走り去ってしまったので不明)。
これを見ると…どうもクリック音の間隔が一定ではないように見えるのですが…。

今後、自動運転技術、安全技術が発展していくと超音波を出す自動車というのは当たり前の存在になっていくでしょう。そうなると、10年後の道路は超音波の 嵐になっているかもしれません。

・路上駐車場

道路脇にコインメーターだけが置かれているタイプの駐車場です。東京都心ではよく見かけるものです。そのコインメーターから超音波が出されています (25kHz)。

路上駐車場のコインメーターの超音波

規則正しく超音波が発生しているのがわかります。

・出入り口にバーがあるタイプの駐車場

自動車が近づいたことを感知するために超音波が使われているようです(35〜45kHz。機械の種類によって異なるらしい)。

・自動ドア

現在は超音波が使われている自動ドアはほとんどないはずです。が、わずかながら存在を確認できます。40kHzの超音波を出しています。

自動ドアの超音波

・ネオンサイン

46kHzの超音波を出していました。どこからでも聞こえるのではなく、ある特定の場所付近でだけ強く聞こえましたので、安定器が出しているのかもしれま せん。

・ネズミ防除装置

商業施設の搬入口の天井近くによく設置されているものです。20kHz前後で音を出しています。
複雑な超音波が入り交じったような音で、はっきり言って「超音波騒音」と言っていいものです。この超音波は私も聞き取ることができますがはっきりいって迷 惑な装置です。

ネズミ防除装置の超音波

(画像の横幅は30msとかなり短いです。)
波形を見ると複数の周波数の音が重ねられているようです。これでネズミ対策に効果があるのかどうかは非常に疑問ですが…。

・ネコ防除装置(市販品)

単純なサイン波を出しているだけなのですが、周波数を変えながら発声しています。

ネコ防除装置の超音波1

ネコ防除装置の超音波2

画像の横幅の時間間隔は2つとも同じです。
周波数が高くなったり低くなったりするのがよくわかります。
(バットディテクターの周波数変換の仕組みは私にはわからないのですが、原音の特徴をちゃんと残しているようですね。)

この超音波も私には聞こえて、非常にうるさいです。これも本当にネコに効果があるのかは疑わしいです。

・人間が出している超音波

人ごみの中に入ると確実に聞こえる超音波があります。「カチカチ」とかいう音が多いのですが、これは金属がぶつかる時に出る超音波のようです。例えば、ア クセサリーやかばんについている金属部品、かばんの中身などが発生源のようです。

以上をまとめると、人や車が多い都心部は超音波に遭遇する機会が多いと言えます。ただし、どこでもかしこでも超音波が聞こえる、というほどではありませ ん。
夜の住宅街は超音波はまったくと言っていいほどありません。


最後に謎の超音波の話をしましょう。

以前、あるスーパーマーケットの自動ドアのところで知り合いの人が「何かおかしい」と言ったことがありました。その人は耳を押さえていたので、何かの音の せいだろうと私は思いました。しかしネズミ防除装置などの機械類はまったく見当たりません。ということは、低周波数音が原因かと私は推測しました(実際、 店内のダクトから音がしていました)。私はその人に低周波数音が原因ではないかと教えましたが、その人はそのようなものではないと強く否定しました。
別の時に、その同じ人と別の場所にある同じスーパーマーケットに入ったところ、またもや同じような反応を示しました。その時、その人は「重い」という表現 をしたのでやはり私は低周波数音なのだろうと思いました。
ただ、その人はその現象を怪異現象か何かのように思っており、私の意見に耳を貸してくれませんでした。そのため、それ以上の追求はしませんでした。

そして今年。私はバットディテクターを購入しました。
あれこれ超音波を調べているうちに以前のことを思い出したのです。まさかね、とは思っていたものの念のためその現場を再訪してみることにしました。

まず最初のスーパーマーケットを夜訪れてみました。
バットディテクターで20〜50kHzを調べてみましたが何も聞こえません。ほら、やっぱり、と思いましたが念のため自動スキャン(10〜80kHzを調 べ、最大レベルの周波数を表示する機能)してみました。すると、56kHz付近の数kHz幅でだけ強く音が聞こえたのです。しかも音が聞こえるのは自動ド アのすぐ外側の狭い空間だけです。
このスーパーマーケットにはもうひとつ自動ドアがありますが、そこでは何も聞こえませんでした。
超音波源は何だったのだろう、としばらく考えることになりましたが、どうも蛍光灯のインバーターがあやしいのではないか、という仮説にたどりつきました。 後日、昼間に行ってみると超音波はしません。やはり蛍光灯だったようです。
しかし、そのある人が反応したのは昼間のことで、蛍光灯は消えていたはずです。では、超音波が原因ではなかったのかというと、どうにも確信が持てないので す。

こうなるともうひとつのスーパーマーケットも調べてみなければなりません。
その店でもやはり超音波が確認できました。ただ、今度は自動ドアのすぐ内側で音がしていました(50〜60kHz、40kHz)。これは自動ドアの超音波 かもしれませんが、別の超音波も重なっているようです。

完全に検証ができたわけではありませんが、その人には50kHz超の音が聞こえているようです。本人はおそらく超音波だと認識していないのでしょう。その 場所に来ると耳鳴りあるいは頭痛のような症状が出るのではないかと思われます。病院に行ってもその原因はわからないでしょう。これは病気ではなく、その人 の「能力」なのですから。
またこのような能力を持つ人は非常に少なく、記録された事例もほとんどないのではと思われます。原因を知ることも対策をとることも難しいということなので す。でも誰かが研究してほしいことです。

その人とはもうずっと会っていませんし、これからも会うことはことはないでしょう。原因を伝えても信じてくれそうにもありませんので、このままにしておこ うと思います。

とは言え、この世には非常に少数ですが50kHz以上の超音波が聞こえるという特殊能力を持つ人がいるのは確かです。先ほども書きましたが、これから超音 波を出す自動車がどんどん増えていくでしょう。超音波が聞こえる人にとってはかなりつらい時代が来ることになります。自動車メーカーは超音波を使わない方 法を開発してほしいものです。

50kHzが聞こえる人はまれだとしても、20kHz程度なら聞こえている人はかなり多いのではないかと思われます。私自身がそうですし。
「私は超音波が聞こえない」という人も、実際は聞こえているかもしれません。「超音波はこんな風に聞こえる」ということを知っていなければ気付かないもの だからです。
「耳がツーンとするなあ」という経験をしても、知識がなければそれを超音波とは結びつけられないでしょう。


これまでのところ、私は屋内の超音波はほとんど調べていませんでした。 バットディテクターを使うのはもっぱら屋外だけですので、屋内を調べるということをすっかり忘れていたのでした。
ところが、コウモリの超音波を一晩中録音したデータを聞いた時に奇妙な超音波が録音されていることがわかりました。その音は私が起きた時間に唐突に発生し ていたのです。屋外の機械類が発生源かと思いましたが、音の強さからすると屋内のようです。いったい、何の音だろうかとその後しばらく悩んでいたのです が…、答えは非常に明確なものに違いないと考え、調べてみるとすぐに判明しました。発生源は蛍光灯だったのです。蛍光灯のインバーターが超音波を出してい るのではないかと思われました(上記のスーパーマーケットの謎もこの時に判明したのでした)。
ただ、以前にも室内でバットディテクターを試したことがありますが、その時はそんな超音波は聞こえなかったはずです。これも調べてみると、超音波が強いの は点灯直後だけで、10分もすると超音波は非常に小さくなります(蛍光灯の種類によっては全然減衰しないものもあります)。

屋内でもいろいろな電気製品が超音波を出している可能性がありそうです。


いかがでしょう。
身の回りの超音波って意外と多いんだな、と思われたでしょうか。
それとも、超音波って少ないんだな、と思われたでしょうか。

超音波に興味を持たれた方はぜひバットディテクターを買って調べてみてください。
動物の超音波、車種毎の超音波、街中の超音波発生源などなど研究テーマはいろいろありそうです。何か面白い発見ができるかもしれません。


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