Vol. 590(2015/3/15)

[今日の事件]空間用虫よけ剤は効果無し?!

薬局などで販売されている「つるすだけで虫が来なくなる」という製品について、以前にもいきもの通信で取り上げました。

Vol. 525(2011/8/14)[今日の勉強]蒸散剤の正しい使い方

もう3年以上前だったのですね。この時はこの製品の注意点について書きました。この製品はただ吊るせば良いというものではなく、使い方にも注意が必要です。
私は当時からこのような製品の効果について疑問に思っていましたが、はっきりした証拠までは持っているわけではなく批判はしていません。
(この記事では「蒸散剤」と書いていますが、今では「空間用虫よけ剤」という名称が一般化したようですのでこれを使うことにします。)

2015年1月18日、朝日新聞に「消費者庁が空間用虫よけ剤について措置命令を検討している」という記事が載りました。そして2月20日にその措置命令が出されました。

虫の忌避効果を標ぼうする商品の販売業者4社に対する景品表示法に基づく措置命令について(消費者庁)
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/150220premiums_1.pdf

消費者庁が公開した資料は各社の製品を取り上げたかなりの分量の文書なのですが、その内容を簡単に書くと、

「あたかも、対象商品をベランダ等に吊り下げるなどするだけで、表示された範囲、表示された期間にわたり、対象商品から放出される薬剤により、ユスリカ及びチョウバエを寄せ付けないかのように示す表示をしていた。」
「(製造メーカーの提出資料では)裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められなかった。」

というものです。もっと簡単に書くと

「効果があるという根拠はない」

ということになります。

2015年2月21日付け朝日新聞によると、

「同庁は、各社の製品に含まれる殺虫成分に「ユスリカ」や「チョウバエ」を遠ざける効果 があると認めた。だが各社の試験データは虫の数が少なかったり、屋外での使用を想定しながら風が弱い場所での結果だったりしたため、表示の根拠が不十分と判断した。 また、製品の効果が及ぶ範囲や期間についても、各社から合理的な根拠が示されなかった という。」

と書かれています。
薬剤に効果があるとしても、屋外では風が吹くと薬剤成分はすぐに吹き飛ばされてしまいます。これは誰にだってわかりそうなことですが、これまで指摘した人はあまりいなかったでしょう(害虫駆除業界の人ならばうすうす気付いていたでしょうが)。

消費者庁の措置命令には書かれていませんが、新聞やネットでは「カ(蚊)には効かないなんて、だまされた!」という声があるようです。
これは私が以前指摘した通りで、空間用虫よけ剤が対象とするのはユスリカとチョウバエであり、カは対象外です。ユスリカはカに近い昆虫ですが血を吸うことはありません。空間用虫よけ剤は対象がユスリカとチョウバエであることをきちんとパッケージに表示してあるため、これはまったく問題はありません。
ですが、そこまで確認して買う人はかなり少ないでしょうし、カにも効くだろうと誤認される可能性は非常に高いでしょう。今回の措置命令でようやくこのことに気付いた人が多いようですが、これはメーカーの問題ではなく、ちゃんと表示を読まなかった購入者に問題があります。とは言え、まるでカにも効くかのような商品パッケージはほめられたものではありません。

では空間用虫よけ剤はカにはまったく効果がないのかというと、そうでもないようなのです。
2015年3月6日付けの朝日新聞によると、

「だが、消費者庁の担当者に聞くと、各社の製品に含まれる「ピレスロイド系」の有効成分はユスリカやチョウバエだけでなく「吸血する蚊を遠ざける一定の効果はある」というのだ。実際、大日本除虫菊などは取材に、アカイエカを使った試験も経て製品化していることを明かし、「実験ではアカイエカにも効果があった」などと答えた。」

となっています。ではなぜカに効果があるとパッケージに書かないのでしょう。
同じ記事によると、カなどの衛生害虫に効果があると表示するには「医薬部外品」でなければなりませんが、それには有効性や安全性の審査、国の承認が必要になります。承認までには数年かかることは普通です。メーカーはそんなに待っていられないと考えたのか、そんな手間はかけられないと考えたのか、医薬部外品ではなく「雑貨」扱いとなっているとのことです。
その結果、各社横並びで似たような商品が大量に流通する結果にもなったわけです。そして、根拠のあいまいさも横並びになってしまいました。

空間用虫よけ剤で私が最も問題だと思っているのは使用方法がはっきりしないことです。
空間用虫よけ剤は商品説明を読むと、設置場所について特に何も書いていないか、屋内でも屋外でも使えると書いてあったりします。それって本当に大丈夫なのでしょうか。
屋外に設置する場合、風で薬剤成分が流されることを考えると薬剤成分はどんどん蒸散させなければ効果がありません。ところが、屋内に設置する場合は蒸散が速すぎると必要以上に薬剤成分の濃度が高くなってしまうおそれがあります。その場合人間などに絶対安全だと保証できるでしょうか。屋内設置と屋外設置では別の商品にすべきなのではないかと私は考えるのです。

使用方法や効果を厳密にするためにも、空間用虫よけ剤はやはり医薬部外品の承認を受けるべきではないでしょうか。
現在の商品を、パッケージの表記をちょっと変えただけで売り続けるようでは信頼回復は難しいだろうことをメーカーは理解すべきです。


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