Vol. 592(2015/8/23)

[今日の事件]電気柵感電死亡事件

2015年7月19日、静岡県西伊豆町で7人が感電し、2人が死亡するという事故がありました。事故の原因は、電気柵につないだ電線が切れ、その電線が川の水につかり川の中で感電したためでした。

電気柵(略して電柵とも言う)とは名前の通り電気を流す柵で、農地を囲うように設置します。現在では野生動物による農業被害を防ぐ方法としてかなり普及しています。
この事件の後の新聞記事から総延長距離を拾ってみると次のような数字がありました。

北海道 4100km
京都府 955km
群馬県 710km
新潟県 640km
静岡県 640km
群馬県 710km
山梨県 400km
大分県 367km
兵庫県 151km
滋賀県 144km

ただしこれらは各県など行政が交付金・補助金を通して把握している分のみで、自主的に設置している分は含まれていません。農林水産省の交付金で設置された電気柵の総延長距離は4万km以上になるそうで、つまり地球1周以上は存在するということになります。

電気柵は特に複雑な構造ではなく、はだかの電線そのものです。そのため感電事故は容易に起こりうるものです。そこで製造メーカーは予防措置を組み込んでいます。

日本電気さく協議会「安全の為の自主基準」

ここでは細かく注意が書かれていますが、特に重要な点として
「電気柵用電源装置」
「漏電遮断器」
「危険表示」
の3つがあります。
電気柵用電源装置は適切なパルス電流を発生させるための装置です。
漏電遮断器とは漏電が発生した時に電源を遮断する装置です。漏電とは、本来の電気回路の外に電流が漏れ出すことです。今回の事故のように水につかるとそこから漏電し、感電を引き起こすことになります。
危険表示とは電流が流れていることを警告する表示板のことです。

これらがそろっていれば普通は感電事故は起こりません。うっかり接触してしまった場合でも、感電死するほどの電気は流れていないので安全なはずです。実際、動物が触れても死なないわけですから。

それでは今回の事故はなぜ発生したのでしょうか。
報道によると、この電気柵は自作したもので、電気柵用電源装置も漏電遮断器も使われていなかったとのことです。これでは安全を保証することはできません。さらに不幸なことに切れた電線が水につかってしまったために感電の影響が強くなってしまったようです。

こういう事故が起こったら、行政が規制や指導を行なうものです。各都道府県では一斉に点検を行なったようです。
が、上にも書いたように電気柵の総延長は桁外れに長大なものになってしまっており、それらすべてを行政が点検することはもはや不可能です。そのため、設置者が自主的に点検を行なうことが必須ということになります。
自主的な点検といっても、その距離が長くなればなるほど大変なことになります。電気柵は雑草が触れただけでも漏電が発生し、電流が弱くなってしまいます(動物への効果も弱くなる)。ですのでそれなりの頻度で(植物の成長が早い夏は高頻度で)電気柵を点検しなければなりません。

今後考えられる展開のひとつはハードウェアの規制です。電源装置や漏電遮断器などの規格を厳格化し、規格外の装置を使わせないようにすることです。ただし、これは既に十分なレベルを達成していますので追加効果は少ないかもしれません。また、今回の事故のような自作品まではカバーできない可能性があります。
自作品までカバーするとなると、電気柵の設置の届け出が義務化されることになるかもしれません。届け出の際に使用する装置も申告するようにさせれば非安全な装置を排除することもできるでしょう。
また、定期点検の義務化もありそうです。その頻度は毎月とか年数回が考えられます。設置者が点検の記録をし、役所に報告書を提出させるのです。これだと役所が書類の山になってしまいそうですので、点検記録は設置者が何年間か保存する(役所はそれをいつでも閲覧することができる権利を持つ)というあたりが実現可能なところかもしれません。
いずれにせよ、これらは法令の問題になります。今後どのような法令が現れるか、ちょっと注目しておきたいです。

ところで、民家の庭に入ってくるネコ撃退用に電気柵が使えないかと考えている人がいるかもしれませんが、それはできません。
「電気設備に関する技術基準を定める省令」の第74条にはこう書かれています。

電気さく(屋外において裸電線を固定して施設したさくであって、その裸電線に充電して使用するものをいう。)は、施設してはならない。ただし、田畑、牧場、その他これに類する場所において野獣の侵入又は家畜の脱出を防止するために施設する場合であって、絶縁性がないことを考慮し、感電又は火災のおそれがないように施設するときは、この限りでない。

つまり住宅地には設置できないということです。便利そうではあっても一般のご家庭で使ってはいけないのです。
それに動物愛護法違反とされる可能性もあります。


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