Vol. 598(2018/11/18)

[今日の事件]東京でアライグマは増えているのか?

2018年10月17日、東京都港区赤坂でアライグマが捕獲される事件がありました。その後、東京のアライグマについての新聞などマスコミが取り上げました。

その報道の内容に共通しているのは「東京でアライグマが増えている」というものでした。
ただ、私から見ればマスコミは取材した話をそのまま書いているだけで、さらに深く他の資料にあたったり、分析したりはしていません。私に取材したマスコミもありませんでした。

東京都でアライグマが増えているのは確実です。ですが、どこででも増えているという意味ではありません。以下では公開されている情報から検証してみましょう。

●東京タヌキ探検隊!の2009年以降の目撃情報数

目撃情報数の推移

東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマ、アナグマ、キツネの目撃情報の集計と分析(2017年1月版)」より

※注意
東京タヌキ探検隊!のシステムが十分に機能するようになったのは2009年頃以降で、それまでは目撃情報はほとんど得られませんでした。その理由はパソコン、インターネットが普及していなかったためです。2009年頃に生息数が急増したわけではありません。
このグラフで意味がある数値は2009年以降だけです。

東京都23区では目撃情報数は低いレベルのまま、具体的には9〜21の間の数値です。つまり、23区ではアライグマは増えていないことがわかります。

●東京都が公開しているアライグマ捕獲数のメッシュ地図

東京都のアライグマ捕獲数

都内におけるアライグマ・ハクビシンに係る状況」(平成28年度)より
「図2-2 アライグマの捕獲地域と捕獲数(平成28年度)」を拡大

この地図からも23区での捕獲数は少ないことがわかります。
その一方、捕獲が集中しているメッシュがあるのも明白です。いったいそれはどこなのでしょうか。

東京都のアライグマ捕獲数と自治体名

捕獲が多いメッシュの自治体名を書き込んだのが上の図です。これを地図と突き合わせてみると(GoogleEarthがわかりやすい)、捕獲が多い地域は丘陵地に重なることがわかります。つまり、アライグマは都市部よりも緑の豊かな丘陵地に多く生息していることが推測されるのです。
また、丘陵地では集中的な捕獲=駆除が行われているのではないかとも思わせる数字でもあります。
ただし、福生市のメッシュには丘陵地は含まれていません。なぜここで突出しているかは個々の捕獲データを検証しなければわからないことです。

以上からは次のことがわかります。
・アライグマは東京都23区では増えていない(最近10年間)
・アライグマは都市部にはうまく適応できていない
・アライグマは主に丘陵地に生息している

報道で言っている「東京で増えている」というのは「東京都で増えている」ということであって、「東京都23区で増えている」という意味ではありません。
マスコミは間違ったことは言っていないのですが誤解を導くような書き方ではあります。
もう少し調べればここで書いたことぐらいはすぐにわかることなのですが、マスコミにはそれ以上の興味がないのか、分析力がないのかのどちらかなのでしょう。


さて、上記のことからはひとつの謎が浮かび上がります。
それはアライグマはどうやって繁殖しているのか、ということです。
23区でのアライグマの数は少ないものの、減っていないということは繁殖している、あるいは流入が続いていることを意味します。

ちなみに東京都23区でのアライグマの推定生息数は100頭以下です。タヌキが1000頭程度、ハクビシンが1000〜2000頭程度ということに比べると、アライグマの生息密度はかなり低いのです。
東京都23区に住んでいる人には「アライグマが増えている」といってもピンとこなかったはずですが、生息数が少なすぎて遭遇することすら非常に難しいのですから実感がわかないのも当然です。

この低すぎる生息密度ではつがいの相手を見つけるのも難しいはずで、つまり繁殖も難しいはずなのです。それでも絶滅する兆候は見られません。
10年程度では増減の傾向はわからないとも言えますが、ここでは減っていないと仮定してその理由を考えてみましょう。

ひとつの仮説は、「継続して繁殖できる個体群が23区内またはその近くにあり、そこから個体が拡散している」というものです。
その個体群はどこにいるのか?というと、東京タヌキ探検隊!が持っている目撃情報だけでは情報量が少なすぎて、まったくわからないというのが正直な回答です。アライグマの目撃情報は23区全体に広がっており、どこかに特に集中している様子はありません。

もうひとつの仮説は、「狭山丘陵や多摩丘陵などから長距離移動してくる個体が常にいる」というものです。この場合、23区内で繁殖ができなくても常に外部から供給され続けていることになります。
アライグマは23区全域で見られますが、生息数の割に分布が広すぎるように思えます。これはアライグマが長距離移動する性質を示唆しているのかもしれません。
残念ながら、こちらもアライグマの生息状況についての情報が少なすぎるため、検証は不可能です。

生息密度が低すぎると生息状況がほとんどわからなくなるというのはアライグマに限らず野生動物の調査の障害になります。情報が少なすぎると対策さえ立てられません。東京都23区のアライグマはまさにこの状態で、行政も手をこまぬいているわけです(何もできない、という意味)。東京タヌキ探検隊!からも既に公開している情報ぐらいしか提供できません。目撃情報の詳細を調べても有益な情報は出てきそうにありません。

より多くの目撃情報を集めることはアライグマの生息状況を正確に詳細に把握するためには必要なことです。もし目撃されることがあったならば、ぜひ東京タヌキ探検隊!に報告してください。報告の方法はこちらのページに記しています。

アライグマ以外のタヌキ、ハクビシン、アナグマ、キツネの目撃情報も同様です。これらは体格や生態が近いため、比較対象として重要なのです。
どうぞご協力よろしくお願いします。


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