EXTRA 3(2001/1/21)

「季刊Relatio」連載

「動物事件の読み解き方」補足

第3回 東京カラス問題

※この記事は「季刊Relatio(リラティオ)」連載「動物事件の読み解き方」をお読みになっていることを前提に書いています。ぜひ「Relatio」の方もご覧ください。
(参照 EXTRA 0)


石原知事のカラス発言

今回の記事では石原・東京都知事の「カラス発言」はあえてとりあげませんでした。そんなことよりもカラス問題の解決策をとりあげたかったからということもありますが、この発言内容の詳細がわからなかったということも理由です。
私が新聞・雑誌やテレビで知っている「カラス発言」は以下のようなものです。

(1)外国の在日大使館の人にカラスのことで苦情を言われたので(カラス問題に)取り組んだ。
(2)カラスがうるさいのでゴルフクラブ(アイアンだったらしい)を投げつけたら逆襲された。
(3)カラスを捕まえてパイにして、東京名物にしよう。

(1)は出典不明です。
(2)も出典不明なのですが、事実らしいようです。主語が誰なのかがはっきりしないのが難点ですが、どうも本人なのだとか。ただ、この話を聞いて「だからカラスって怖いよね」と思うのは短絡的です。あなた自身がいきなりゴルフクラブを投げつけられたら、きっと「何をするんだ!」と怒りますよね。こんな乱暴な行為には、カラスも怒って当然なのです。それを棚に上げてカラスを悪者にするのは非常に公正さを欠くのではないでしょうか。相手の気持ちを理解せずに悪者に仕立て上げるところは、石原氏の政治姿勢を思わせるものがあります。
(3)これも出典不明ながら、あちこちで言っているらしい、間違いない発言です。ただ、この発言は非常に奇妙なものだと思われた方も多いでしょう。「カラスのパイ」なんかあるのか?と。実はあるのです。といってもそういう料理があるのではなく、マザーグースの歌の中に登場するのです。マザーグースの歌とは、英国や米国の伝承歌の総称です。その中に「Song of sixpence」という歌があります。以下に引用してみますと…。

Sing a song of sixpence,
A pocket full of rye;
Four and twenty blackbirds,
Baked in a pie.

When the pie was opened,
The birds began to sing;
Was not that a dainty dish,
To set before the king ?

The king was in his counting-house,
Counting out his money;
The queen was in the parlour,
Eating bread and honey.

The maid was in the garden,
Hanging out the clothes,
There came a little blackbird,
And snapped off her nose.

この歌は、内容があまりにもナンセンスで、成立年代が不明、成立過程も不明で、歌詞が何のことを言っているのかわからないのだそうです。王様や女王様が登場するので、当時のイギリス王室を皮肉ったもののようですが、今となっては何もわかりません。
さて、この歌の問題の部分は3〜4行目の部分です。この部分を訳してみますとこうなります。

24羽のblackbirdをパイに入れて焼きました

そう、これがあの「カラスのパイ」につながるのです。
blackbirdは普通はクロツグミと訳されていますが、クロツグミ(Turdus cardis)は東アジアにしか生息しません。手元の英和辞書にはblackbirdは「ヨーロッパ産のクロウタドリ、またはアメリカ産のムクドリモドキ」と載っています。クロウタドリ(Turdus merula)はヨーロッパ、アフリカ、中東、南アジアなどに広く分布している鳥で、やはりツグミの仲間です。そういえばビートルズの歌の中にも「blackbird」という美しい歌がありました。この歌の中にきこえる鳥の鳴き声がクロウタドリのようです。ですが、日本ならblackbirdといえばカラスでしょう。石原知事がこの歌のことを知っていて発言したのは間違いありません。しかし、多くの日本人が理解できないのは当然で、ジョークとしては出来が良くないと言わざるをえません(一方で、英米人には非常に受けるジョークでしょう)。

ゴミ夜間回収

今回の記事の主眼はゴミの夜間回収です。カラス問題は随分前から話題になっているにもかかわらず、その決定的解決策が語られることはありません。マスコミなどで紹介されるのは一時的な撃退策ばかりで、永続的な効果はありません。また、すべての住民がカラスに真剣に取り組んでいるわけではないので、解決は程遠いのが現実です。
決定的な解決策はないのか? 実は多くの専門家は知っていたはずです。それが「ゴミ夜間回収」です。しかし、不思議なことにこのことはこれまでマスコミではあまり取り上げられませんでした。専門家のアピールが足りなかったのか、それともマスコミがこのことに関心が無かったのかはわかりません。私もこの「ゴミ夜間回収」に気づいていました。それは私が福岡市で生まれ育ったからです。記事中にもあるように、福岡市は以前からゴミの回収は夜間におこなってきました。私はそれが当たり前だと思って育ってきたのですが、他の自治体やその住民にとっては夜間回収は想像もつかないことのようです。どうも、「夜間回収は実行不可能」と始めから思い込んでいるようですが、そんなことはありません。福岡市のような大都市でもできていることですし、コストが高くつくということもないのです。もっと真剣に夜間回収を検討してほしいものです。

私はカラスの味方です

このようなカラス対策のことを書いていると、私が非常にカラス嫌いに見えるかもしれませんが、それはまったく逆です。数ある鳥、いや、動物の中でもカラスは最も興味深く、見ていて楽しい動物の1つです。そんなカラスを嫌いになれるはずがありません。もっとじっくりと観察してみたいといつも思うのです。
それなのに、なぜ彼らを追い出そうということを書くのか。それはカラス社会と人間社会との関係を良好なものに戻したいからなのです。現在、東京でカラスが嫌われているのは、ゴミを散らかしたり、人間を襲ったりするからです。この事態をなんとか改善しなければ、カラスはますます嫌われるばかりです。それにはやはりカラスの数を減らすしかありません。現在の東京のカラスは確かに数が多すぎるのです。しかし、カラスを撃ち殺すような方法はやりたくありません。人間にとってもカラスにとっても最も平和的かつ確実な解決方法はないのか——それが「ゴミの夜間回収」なのです。この方法の最も重要なポイントは、人間とカラスの直接対決が無い、ということです。つまり、お互いが敵対するような場面が起こらないのです。カラスを捕獲したり、追い払ったりということ無しにカラス問題を解決できるのですから、これほど平和的な方法はありません。

ゴミにネットをかぶせる方法でもいいのではないか、あるいは他の方法は無いのか、などなどについてはあらためて詳しく書いてみたいと思います。
→こちらをご覧ください Vol. 76(2001/1/28)[今日の観察]補足・カラス対策

写真のこと

今回は初めて私の写真も掲載しています。今回のテーマではビジュアル的な要素はあまりないので、私の写真の出番となりました。ところで、カラスというのは警戒心、特にカメラのようなレンズのある機械類に対する警戒心が強いのでなかなか簡単には撮影できないものです。10m離れていても、カメラを構えただけで逃げられることがあります。
93ページの写真のカラスは私の経験中、最も接近できたケースです(この写真はほとんどトリミングしていません)。このカラス、何か遠くを見て物思いにふけるようにも見えますが、実際は人がハトに与えているエサを横取りできないものかと考えているところなのです。しかも、すぐそばでカメラを構えた怪しいヒト(私のこと)がずっとこちらを狙っているので、同時に警戒もしています。カラスをよく観察している方ならば、この写真からカメラに対しての警戒と緊張を感じることができるのではないでしょうか。


これまで「いきもの通信」でとりあげたカラスの話題

Vol. 13(1999/8/1) [今日の事件]東京都、ゴミの早朝回収を試行/都会のカラス退治は成功するのか?

Vol. 21(1999/10/3) [今日の観察]わははカラスと八百屋カラス

Vol. 53(2000/7/23) [今日の観察]カラス再論/東京カラスを撤退させる最も効果的な作戦はこれだ!


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