EXTRA 7(2002/2/17)

「季刊Relatio」連載

「動物事件の読み解き方」補足

第7回 和歌山県タイワンザル問題

※この記事は「季刊Relatio(リラティオ)」連載「動物事件の読み解き方」をお読みになっていることを前提に書いています。ぜひ「Relatio」の方もご覧ください。「Relatio」は緑書房グループのホームページから購入することができます。
(参照 EXTRA 0)


訂正

まず訂正から。p59で地球生物会議(ALIVE)について「動物愛護団体」と書きましたが、これを「動物保護団体」に訂正します。
「動物愛護」と「動物保護」は似ているようでまったく異なるものです。実は私も「愛護」という言葉は嫌いで、普段は使わないのですが、うっかり使ってしまいました。「動物愛護」と「動物保護」、どっちでも同じ意味でしょ?と思われる方も多いでしょうが、私に言わせればこの両者の間には大きな隔たりがあると思います。ちなみに手元の辞書では「愛護」は「かわいがり保護すること」と書かれています。自然保護や野生動物保護について理解している方ならば、最も正しい自然・野生動物との接し方とは「非干渉」つまり何もしないことであるということがおわかりかと思います。「動物保護」とは、動物を過保護にすることではなく、ありのままの状態に保つことなのです。

関連ホームページ

さて、本題ですが、このタイワンザル問題は関連する事項が多すぎて、記事内でも十分に解説しきれませんでした。
まずは、以下の関連ホームページで県当局の立場、反対側の立場を読み込んでみてください。それだけでもなかなか大変なことなのですが…。

和歌山県(環境生活部環境生活総務課)

和歌山県サル保護管理計画に関する資料が掲載されています。

地球生物会議(ALIVE)

「WILD LIFE」のページに、和歌山県当局に提出した意見書が掲載されています。

雲仙被災動物を救う会

和歌山県当局などに提出した意見書が掲載されています。

生物の多様性に関する条約

日本語で全文掲載されています(環境省自然環境局生物多様性センターのホームページ)。

生物多様性条約事務局

同条約の公式ホームページ(英語)。条文を英語などで読めます。

事件の概要の補足

この問題の経緯はこれまた複雑なもので、記事本文でもかなり省略しています。その補足です。
タイワンザルが逃げだした経緯については、「廃園の時に逃げた」「飼育場を工事した時、はしごをつたって脱走した」などいろいろな説があります。ただ、今となっては確認ができないこととなっています。ただ、脱走したのは1回ではなく複数回に渡るらしいそうです。
その後、50年近くもタイワンザルのことが忘れ去られていたというのは奇妙にも思えますが、本当のことです。実は、以前ある地元の方が「尾の長いニホンザルがいる」ということに気づいてはいたそうなのですが、その時もそれ以上追求されませんでした。そして、20世紀末になってようやく「再発見」されたわけです。
混血タイワンザル群の発見後、県は審議会や公聴会、県民アンケートを実施しました。これらの中で特に評判が悪いのは県民アンケートでした。選択肢がタイワンザルを「飼育施設で飼育」「殺処分」の2つしかなく、飼育するにはかなりの金額がかかることを記したもので、殺処分の選択を選びたくなるような「誘導的な内容」であったという批判が起こりました。そのため(それ以外の要因も影響しているとは思いますが)、このタイワンザル問題ではタイワンザルの生死に論議が集中することになってしまいました。

生か死か、それが問題だが…

確かに混血タイワンザル群の生死は軽い問題ではありません。一度は論議されるべきものでしょう。ただ、現在の自然保護の観点から見た場合、移入種は排除すべきであることは共通の理解になっています。野放しでいいという意見は少数派です。ここで難しいのは「排除」をどう解釈するかです。主な選択肢は「外界から隔離して飼育」または「殺処分」ということになります。「動物園で引き取れないのか?」とは多くの人が考えるようですが、これは現実的ではありません。動物園には飼育設備の制限(飼育場所の空きが無い)や予算の問題があり、計画外の動物を受け入れることはあまりないからです。残念ながら殺処分しなければならない現状を認めざるをえません。
記事中では賛成反対両論を書きましたが、個人的には殺処分も仕方ないと考えます。

今後、類似の事件を起こさないためには、移入種問題の原因となるものを解決しなければなりません。その原因とは、記事中にも書いたように、「大量の輸入」「飼育個体の脱走・放棄」です。これを防ぐ方法を考えなければならないのです。このタイワンザル問題もそのような方向に論議を発展させなければ、意味の無いけんかに終わってしまうのです。


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