EXTRA 9(2002/8/18)

「季刊Relatio」連載

「動物事件の読み解き方」補足

第9回 動物虐待事件の読み解き方

※この記事は「季刊Relatio(リラティオ)」連載「動物事件の読み解き方」をお読みになっていることを前提に書いています。ぜひ「Relatio」の方もご覧ください。「Relatio」は緑書房グループのホームページから購入することができます。
(参照 EXTRA 0)


「2チャンネル事件」のその後

まずは事件の続報から。
5月、インターネットの掲示板にネコ虐待映像が公開され、福岡市の男性が動物愛護法違反の疑いで福岡地検に書類送検された、いわゆる「2チャンネル事件」がありました。書類送検ということは、つまり容疑者は逮捕・起訴されなかったのですが、8月6日に福岡地検は容疑者を逮捕、7日に福岡地裁に動物愛護法違反の罪で起訴しました。
この時期に逮捕に踏み切ったのは、福岡地検に要請書、手紙、メールが、多い日には1日100通以上が殺到したこと、さらに、獣医らに写真鑑定を依頼したところ、ネコが殺害された疑いが濃厚であるとわかったためでした(容疑者はネコは逃がしてやったと言っている)。
要請書を出す運動の中心になったと思われるのは
http://www.tolahouse.com/sos/a/
のようです。
新聞記事によると、「1999年の動物愛護法改正後の起訴は極めて珍しい」と書かれていたりします。つまり、この法律は現実的にはあまり効果のない法律だということです。相変わらず器物損壊材が適用されることが多いのも、記事本文に書いた通りです。また、警察・検察も「たかが動物」と意識があるらしく、そのために犯人がなかなかつかまない、その結果、起訴・裁判までに至らない、という構図もあります。
今回の「2チャンネル事件」の反響によって、警察・検察もこのような動物虐待事件に本気で取り組むことになるのではないかと思われます。

動物虐待事件を防止するには

近年は動物虐待と凶悪犯罪との関連性について、精神医学的な分析が紹介されることが多くなってきました。「凶悪犯罪者は、動物虐待の経験があることが多い」といったことがよく言われていますが、学術的にはまだまだ分析不十分ではないかと思われる場合もあります。また、これには誤解も多く、「動物虐待をする人は凶悪犯罪を起こす」というような間違った受け取られ方もされることがあります。
今回の記事でこういった精神医学的分析を紹介しなかったのは、このような分析をしたところで、動物虐待事件の解決にはあまり役立たないと考えたからです。私は、動物虐待事件が起こる原因というのは精神医学的な問題ではなく、誰もが加害者になりうる要素があるのではないかと思うのです。もう少し言い換えると、動物虐待事件が起こるのは動物虐待に対しての罪の意識が薄いから、というのが私の考えです。社会全体の中で、動物虐待は大した問題でないという認識がなされている場合、動物虐待を防止する社会的歯止めが無いことになります。一方、動物虐待が犯罪であるという認識がなされている社会ならば、動物虐待の予防の効果が期待できるでしょう。
今現在の日本では、「動物虐待=犯罪」という認識はまだ弱いものです。特に警察当局の認識が遅れているため、法律はあっても結果的にいつまでたってもこの認識が深まりません。しかし、ペットを飼う人も増えてきた中、この認識は徐々に広まりつつあることも確かです。この認識を共有していくことこそが、動物事件の防止につながるのではないでしょうか。

今回の記事は法律面だけにしぼった内容ですが、これは動物虐待が法律的にも犯罪であることを知っていただきたいからです。法律の内容が不十分なのはわかっているのですが、何が犯罪であり、どういう罰則があるのかを知ることは、上で述べたような社会的認識を深めるためにも必要と思ったのです。
興味のある方は、法律の全文に目を通すことをお勧めします。動物愛護法はそれほど長いものではありませんので、挑戦してみてはいかがでしょうか。法律のデータベースは例えば「法令データ提供システム(総務省)」というホームページがあります。


さて、本誌に告知されている通り、「リラティオ」誌は今号で休刊になります。よって、私の連載もここで終了です。こういうときに限って、コウノトリが来たり、アゴヒゲアザラシが現れたりと動物ニュースが連発されるんですよね…。
雑誌というメディアで発表できなくなるのは残念ですが、動物事件についてはこの「いきもの通信」で今後もとりあげていきます。十分な取材ができなくなりますが、独自の視点から動物事件を読み解いていきたいと思います。

なお、「動物事件の読み解き方」は単行本化も検討中です。といっても、出版社のあてがあるわけでもなく、私自身も現在忙しすぎるので、すぐには実行できそうにもありません。


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