日本人は動物好きか?と問われれば、答は間違いなく「はい」でしょう。
犬、猫をはじめとするペットは現代では当たり前の存在です。野良猫を好んで世話する「猫おばさん」も各地に存在します。昆虫少年は今も昔もたくさんいます(最近はかなり数が減ったようですが)。動物をテーマにしたTV番組もいくつかあって、人気があります。
しかし、動物をペットとして飼育したりできるのは経済的にゆとりがある証拠でしょう。その点では日本は経済的に恵まれていることを感じずにはいられません。経済的に繁栄している国では、程度の差はあれ動物にそれなりの関心はあるようです。ただ、そのかかわり方は国によっていろいろです。よく引き合いに出されるのが、夜の虫の鳴き声です。日本人はスズムシやコオロギの鳴き声に風情を感じ、聴きほれます。ところが、アメリカ人にとっては夜の虫の鳴き声は「ホラー映画で、怪物が今にも現われる夜の場面」で使われる効果音なのだそうです。つまり、コオロギの鳴き声は恐怖をかもしだす音なのです。あるいは、単なる「雑音」にしか聞こえないとも言われています。
虫といえば、1996年のフランス映画で「ミクロコスモス」という作品がありました。この映画は日本でも公開され、私も見ました。ビデオも発売されています。この作品は昆虫やカタツムリなどの小動物の1日をクローズアップで淡々と追ったドキュメンタリーです。私が見た映画館は定員100人ほどだったと思いますが、休日の午後満席になるほどでした。派手なハリウッド映画には勝てるはずもありませんが、そこそこ健闘したのではないでしょうか。さて、この作品、製作国のフランスでも絶賛され、多くの人の関心を集めたようです。フランス人も虫が好きなんですね……と思ったら、実はそうではないのです。どうもフランス人は小さな動物には全然関心がないらしく、「ミクロコスモス」で初めてそういう世界を見せられて驚愕した、というのが真相らしいのです。
そう言えば、「昆虫記」で有名なアンリ・ファーブルもフランス人です。この偉大な昆虫学者を生んだフランスでは小動物への関心が低い…というのは変な話のようにも聞こえます。実は、彼はフランス人としては非常に特殊な人で、生前も死後も奇人変人扱いされたといいます。日本では「ファーブル昆虫記」と言えば長年のロングセラーなのですが、フランスでは何十年もの間かえりみられることがなかったのだそうです。フランスのお隣、イギリスは質の高い動物・植物の本を多く出版しています。これは18〜19世紀に発展した博物学の伝統を受け継いだものと考えられます。美しいグラフィックや写真はまさに博物学的な世界です。非常に精緻で学問的なあたり、日本の動物観との違いを感じます。
欧米では犬や猫の品種改良もさかんです。かつては王侯貴族の楽しみだったのですが、今では一般市民も参加して改良をやっています。日本はかつて鎖国をしていたという事情もありますが、犬・猫の品種改良にはそれほど熱心ではありませんでした。日本では「自然はあるがままに」という感じ方が強いのでしょうか。最近では日本でもペットショップで売られているのは品種名のついた犬・猫ばかりです。街でも雑種犬はほとんどみかけなくなってしまいました。この点では欧米に近くなっていっているようです。
最近は日本でも爬虫類・両生類の飼育に人気が出始めたようですが、欧米にはまだまだかないません。欧米でもメジャーな分野とは言えないのですが、熱心な飼育者やブリーダーが多くいます。爬虫類・両生類ではサンショウウオやイモリが欧米では大人気なのだそうです。これまた日本人には理解し難いことかもしれません。
これらの例は本当に部分的なことにすぎないのですが、このような話を聞くと、日本人と動物とのかかわり方は欧米とは違う何かがあるように思えます。各国の動物観の違いを比較してみるのは面白そうなテーマです。
…と、まあ、このようなことを考えたのは、最近の出版業界の暗い状況に思いをめぐらしていたからなのですが…
なぜこの話が出版と関係するのか? この続きはまた回を改めてお話したいと思います。