[ON THE NEWS]
近年、琵琶湖ではブラックバスが増加し、在来種の生息に悪影響が出ている。そのため滋賀県ではブラックバスの駆除を始めた。11月上旬、滋賀県水産課と滋賀県漁業協同組合連合会に「ブラックバスの駆除を止めろ」という内容の脅迫状が郵送されてきた。内容は「バス釣りをする人たちが琵琶湖に行くことで経済効果をもたらしている」「バスを放流しつづける」といったもの。滋賀県水産課は滋賀県警と警戒強化を検討している。
(SOURCE:朝日新聞(東京版)1999年12月17日夕刊)[EXPLANATION]
1990年代になってからバス(ブラックバス)釣りがブームになっています。ブラックバス(和名:オオクチバス)はもともと北米にいる魚で、日本への導入は1925年と言われています。体が大きく釣ったときの手ごたえも強いそうです。ブラックバスは魚を食べる魚(魚食魚)です。そのため、ルアー(疑似餌)を使って釣ります。それまでの釣りのようにミミズを使わないので、釣りが親しみやすくなったという面もあるようです
が、一方で魚食という性質のため、日本に昔からいる在来種が食べられ、その数を減らしているということが問題になっています。
今回の事件の琵琶湖も1980年代からブラックバスが全域に広がり、在来種が激減するという事態になっています。滋賀県では1999年、5500万円の予算を組みブラックバスの駆除を開始しました。そこへ今回の脅迫状の事件です。脅迫状の内容はタチの悪い冗談のようなものなのですが、滋賀県当局者にとってはそうも言ってられませんので「警戒を強化」するしかないのですが、日本一の広さの湖では警戒するといっても限界があります。さて、この脅迫状の中で注目していただきたいのは「ブラックバスを放流する」という箇所です。
ブラックバスが各地の河川に広がったのは1960年代以降とみられています。そう昔の話ではありません。たった30年ほどで全国に自然に拡散するとは考えられないので、これは明らかに人為的に広がったと言えるでしょう。つまり不特定多数の人間がこっそり河川や湖にブラックバスを放流してきた結果なのです。実は、ブラックバス(他のバス類も含む)の放流は都道府県が取り締まっており、罰則もあります。つまり放流は違法行為なのです。このことを知らずに放流をしている場合も多いと思われますが、とにかく違法は違法なのです。ブラックバスが繁殖し、在来種が減少するという現象について、その深刻さは理解が難しいかもしれません。「地元の漁業に影響が出る」というのは最もわかりやすい例でしょう。もっと悪いシナリオを想像してみますと(場所は湖と想定)、在来種の絶滅→ブラックバスのエサ消滅→ブラックバスも絶滅→湖の魚の完全消滅、という事態も起こらないとはいえないわけです。湖のような閉鎖的な環境では、これは有り得ない想像ではないのです。
外来種の移入は良くない、ということは何となくおわかりいただけると思いますが、それでは、農作物の場合はどうなるのか?という疑問を持たれる方もいるでしょう。確かに、外国産の農作物はいろいろと日本でも栽培されています。ブラックバスとどう違うのか?なぜブラックバスはダメなのか?
ブラックバスの場合との根本的な違いは「人間が管理している」という点です。農作物、牧畜、養殖漁業などでは外来種が外に拡散しないように管理されているので、環境への影響も最低限におさえられているのです(当事者がその意識を持っていなくても、貴重な収入源が外に漏れるのを防ごうとするので結果的に管理できていることになる)。ブラックバスの場合は、人間の管理を完全に逸脱しており、もはや手がつけられない状況なのです。ブラックバスを駆除するのも、他に方法がないからなのです。バス釣りでは「キャッチ・アンド・リリース」といって、釣った魚を放してやるということをしているそうです。一見、残酷でもないし、自然保護に役立っているような感じもするのですが、バスの場合は在来種への被害が一向に減らないことになるため、逆効果ともいえる事態になるのです。バスを釣ったら持ち帰って食べる、それが本当の自然保護になるのです。一見矛盾するようですが、「在来種の保護=種の多様性の保護」という観点から見た場合、これは正しいことなのです。